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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
34/57

偽りの劣等生編 そのニャー

 ニャルミの髪の揺れがおさまると、僕らを取り囲んでいた新入生が再びざわめきだす。


「今何がどうなったの? よく見えなかった」

「どうもあの女の子が叩かれたらしい」

「え? なんで?」

「それが良く分からない。話が長いとかそんな理由だろうか。それ以外思い浮かばない」

「それだけでぶつの? ひどくない?」

「お前噂はきいてないのか。あの兄の方はとんでもない不良らしいぞ」

「毎日喧嘩三昧で身体には生傷が耐えないらしい」

「なるほど、それでか……」


 ニャルミがゆっくりと振り返る。

 とてもにこやかな笑顔がちょっと怖い。

 なんせ普通の人っぷりをアピールしていたニャルミの努力をぶち壊しちゃったからなあ……。


「お兄ちゃん、どうしたの? 髪に何かついてたかな」


 どうやら無理やり話を作ってこの場をごまかすらしい。

 ここにはたくさんの人が居るのだが、何が起きたのかを正しく理解できたのは、皮肉なことに唯一それを見ていなかったニャルミだけなのだ。


「あ、うん。その……、ピンクの花びらが引っかかっていたんだ」


「そっかー。ありがとうね。うんうん、お兄ちゃんはやさしいな」


「いやいや、ちょっと勢いがつき過ぎちゃってごめん。

 まだ身体が思うように動かなくて、加減を間違えた」


「いいのよ。まだ治っていないんだから。

 それより一言声かけてくれても良かったのに」


 話が一区切りついたところで、ニャーフック先輩が話に加わる。

 副会長というだけあって頭の回転が速い。

 僕らがどうしようとしているのか理解したようだ。

 大声で僕らの話を繰り返す。


「そうか、花びらをとってあげたのか。

 ニャースターさんは妹思いなんだね!

 うんうん! 仲の良い兄妹だ!」


 その茶番劇を見て、群集は不自然に沈黙している。

 さすがにこれでごまかされてはくれないか……。



 その静寂を打ち破るように、銅鑼を叩くような音が二度鳴り響いた。

 再び新入生がざわつき始めるが、それを鎮めるようにニャーフック先輩が声を上げる。


「新入生諸君、聞いてくれ! 今のは時間を知らせる銅鑼の音だ!

 間もなく入学式が開かれる!

 上級生の指示に従い、至急会場へと向かってくれ!

 我々にはみんなを会場へと誘導する義務がある。

 繰り返す! 速やかに会場へと向かってくれ! 間もなく入学式だ!」


 その声に合わせるように、遠くで上級生が叫んでいる。


「会場はこちらでーす! 新入生の皆さん、移動願いまーす!」


「移動願いまーす! ご協力感謝しまーす!」


 さらに教師らしき大人たちがあちこちに現れて、その様子を見守っている。


 こうなってしまっては、みんな移動するしかない。

 誰だって入学早々、先生や先輩達に目をつけられたくはないからね。


 僕らはほっと溜め息をついた。


「じゃあ、また後でな」


 ニャーフック先輩はそう言い残すと、新入生誘導の仕事に向かう。

 ニーオの件もあるし、おそらく入学式の手伝いをしているのだろう。


 移動の列に加わると、ニャルミが小声で話しかけてきた。


「まったくもう、どうして我慢できなかったの?」


「すまない。本当にすまない。どうにも自分をおさえることができなかった。

 こうなる前に目を逸らすなりなんなりすれば良かった。

 次からは気をつける。反省してます」


「まったく仕方ないにゃあ。

 でもわたしも悪くなかったとは言い切れないし、許してあげる。

 昨日はずっと馬車の中だったから、あまり遊んであげられなかったもんね。

 それにニャスターの前に不用意に立ったのも注意不足だったわ」


「申し訳ないにゃあ。ありがとにゃあ」


「うんうん、分かった分かった。それより急ぎましょう」






 受付を済ませたころには、会場はほとんど埋まっていた。

 席も学籍番号順である。ニャルミが最初で僕が一番最後だ。


 座席の大まかな位置を教えてもらい、ニャルミに連れて行ってもらう。

 ニャルミは手を振って前の席へと向かっていった。


 隣の席は空いている。まわりを見回しても、他に空いてる席は見当たらない。

 そうなると思い当たるのは一人しかいない。ニーオと名乗ったあの子の席なのだろう。




 そして隣の席が空いたまま、入学式は始まった。


 学園長はお祝いの言葉を述べた後、今年度の定員増加について説明を始めた。


「まず一番大きな理由ですが、今年度の受験生に優秀な生徒が多かったことが挙げられます。

 このことについて教職員で話し合った結果、受け入れ枠を増加することとなりました。

 そして急遽使われていなかった学生寮を改修するなどの努力により、二十二名の増員が可能となった次第です。

 突然の依頼にもかかわらず、快くご協力いただいた関係者各位には厚く御礼申し上げます。

 また、この学園では授業の一環として、夜警当番が生徒に課されております。

 これについてその責務軽減要望が生徒会側からあがっておりました。

 今回の増員は、その要求に応えたという意味も含まれております」


 なるほど学園長という役職についた者には、こういったことを説明する責任があるのだな。

 教頭先生とのやりとりではホイホイと増やしちゃえば良いとか言っていたが、こうした理由をでっち上げるのは大変だっただろう。

 僕がもう少し良い成績を残せれば良かったのだが、要らぬ手間をかけさせてごめんよ学園長先生。



「夜警を強化にした理由については、最近魔物の活動が活発になっていることもあります。

 皆さんもご存知の通り、昨年はパラリーの地でドラゴンが出没いたしました。

 幸いその竜は討伐され、被害はほとんどなかったそうです。

 そしてその闘いでドラゴンスレイニャーの称号を得た若き勇者が、今年度入学いたしました」


 続けてニャルミがドラゴンを討伐した話がされる。

 まるで闘いを見てきたかのような臨場感のある語り方で、場内は自然と熱を帯びてきた。



 その話が終わると、学園長はニャルミに座を譲って演壇を降りた。


 次は新入生代表の挨拶だ。

 ニャルミが立ち上がると、場内にざわめきが起こった。


 ニャルミはドラゴン退治のことには触れなかったが、当たり障りない簡潔で分かりやすい挨拶を述べた。

 どういうわけかそのスピーチが終わると拍手が沸き起こり、それは式場全体を包んだ。

 ニャルミは当惑しつつも笑顔で舞台を降りる。


 周りの子が僕とニャルミを見比べてヒソヒソと話している。

 だが、周囲がうるさすぎてその内容が聞き取れない。

 噂があれからどうなっているのか、ちょっと不安だ。


 まあ少なくともニャルミは悪く思われていないようだから良しとしよう。




 それ以外はほぼ滞りなく式は進行していった。


 途中尻尾をピーンと立てた猫が現れ、花道を通って演壇に登るというハプニングがあったくらいだ。

 新入生は驚いていたものの、上級生や教職員達は気にしていないようだった。

 どうやらこれが日常らしい。のどかな学園である。




 式が終わると、ニャルミはたくさんの人に取り囲まれた。

 それをどうにか振り払うようにして僕のところへとやってくるが、全員取り巻きのようについて来る。

 そして心なしかみんなが僕に向ける視線が冷たい。

 やっぱりさっきのアレがまずかったか。


 全員隙あらば何か話しかけようとしていたが、いつの間にか現れたニャーフックさんが大声で場を制する。


「ニャルミさん! ニャスターさん!

 これからクラブ勧誘を兼ねた歓迎会が開かれるんだ。

 良かったら案内するよ。ここにいるみんなも一緒にどうかな」


「えーと、その、お兄ちゃん、どうしようか」


「んー、そうだな。

 せっかくだから、ニャルミはお言葉に甘えさせてもらうと良い。

 しかし申し訳ないのですが、僕は遠慮させてもらいます。

 こんな身体ですし、しばらくはクラブ活動は難しいでしょう。

 それにちょっと調べたいこともありますし、僕は図書館に行ってますよ。

 ニャーフック先輩、今日図書館は開いてますか?」


 僕はニャルミの返事を待たずに、ニャーフックさんに問いかける。


 この雰囲気では、僕は行かない方がいいだろう。

 それに図書館に行きたいというのも本心だ。

 下巻のことが気になるし、他の魔道書も読んでみたい。


 ニャルミはちょっぴり不満そうにしているが、空気を読んだらしく黙っている。


「ああ、確かそのはずだよ。でもいいのかい、文科系のクラブも充実しているよ」


「ありがとうございます。

 でもしばらくは図書館に通おうと考えておりますので」


「そ、そうか。分かった。じゃあ妹さんをお預かりするよ」


「はい、よろしくお願いします」


「じゃあお兄ちゃん、また後でね」




 みんなが出発したのを見送ると、足元に何か気配を感じた。


 ふと見ると、先程演壇に上がった猫が擦り寄ってきていた。

 尻尾を僕の足にからめるようにまとわりついてくる。


 やけに人懐こく、ハチワレとクツシタの模様がとても美しい猫だ。

 視線が合うと、かわいげにニャーンと鳴いてきた。


 着ぐるみを脱ぎすてて一緒にゴロゴロニャンニャンしたいのを我慢して僕は歩き出す。

 すると猫は僕を誘導するかのように、てくてくと数歩進んで振り返る。



 他にも人がいるのに、この子が僕のところにやって来たのは何故だろうか。

 やっぱり猫にモテモテ系の能力を持っているのだろうか。


 周りの子達がうらやましそうに僕らを見ている。

 僕はちょっぴり誇らしい気持ちになって、目的地までの道程を楽しんだ。



 猫の先導で、僕は図書館にたどりついた。

 クツシタ猫は慣れた様子で中に入っていく。


 さてまずは利用の仕方を確認した方がいいだろう。

 受付に猫耳のお姉さんが座っているので、声をかけてみることにした。


「すいません。初めて来たんですが、勝手に見て回っていいのでしょうか」


 クツシタ猫はカウンターに飛び乗り、僕に頭をこすりつけて甘えてくる。


「えーと、君は新入生かな。

 せっかく来て貰ったのに申し訳ないんだけど、まだ利用してもらうことはできないの。

 明日、学園施設の使い方について説明会があると思うわ。

 いわゆるオリエンテーションってやつね。

 その時学生証と一緒に図書館利用カードが配布されるから、それからにしてもらえるかしら」


「そうですか。分かりました。

 しかし困ったな。ここで待ち合わせる約束をしてしまったんです。

 どこかこの近くで休憩していられるようなところはありませんか」


「じゃあ、入り口横のラウンジで待っていると良いわ。

 あまりうるさくしなければお喋りも自由だし、新聞なんかも閲覧自由よ」


 そう言われてみれば、ソファや雑誌が置かれた空間があった気がする。


「ありがとうございます。ではそちらを利用させてもらいます」


「ところで、君はひょっとしてニャルカさんのご親戚の方かしら?」


「あ、はい。ニャルカは姉です。僕はニャスターと言います」


「そうかー、やっぱりね。よく似ていると思ったわ。

 わたしはニャリアン。この図書館で司書をしているの。

 そっちの猫ちゃんはハチクツくんよ。

 なんだかとても懐かれてるみたいだけど、マタタビでも持っているの?」


 僕は笑ってごまかす。


 ハチワレクツシタだからハチクツらしい。

 ハチクツくんは名前を呼ばれると、振り向いてニャーンとお姉さんに挨拶する。


 安直な命名だが、多分この学園にはそれだけ猫が多いのだろう。



 僕はもう一度ニャリアンさんに礼を言って、ラウンジへと向かう。

 雑誌と新聞をいくつか見繕ってソファに座ると、ハチクツくんがすぐに膝の上に乗ってきてゴロゴロ言い出した。


 しばらく猫くんと共に雑誌を読んでいると、僕と同じように図書館を利用しに来た新入生が現れた。

 彼も受付のお姉さんに断られたが、少し頑張っているようだ。

 だがやはり駄目なものは駄目らしく、肩を落として帰ってくる。



 その彼と目が合う。その顔には見覚えがある。

 掲示板で僕に倒れ掛かってきたあの子だ。確かニーオくんと言ったっけ。


「やあ、掲示板のところにいた人だよね。さっきは迷惑をかけちゃってごめんね」


「問題ないよ。それよりニーオくんの方こそ大丈夫なのかい」


「あ、うん。横、座ってもいいかい? お話させてもらっても平気かな」


「ああ、暇していたところだ。新入生同士、仲良くしよう」


「ありがとう。良かったら友達になってくれると嬉しいよ」


「もちろんさ。僕で良ければ喜んで」


 ニーオくんが隣に座ると、ハチクツくんがニャーンと鳴いた。

 少年は猫を覗き込んで、にっこりと笑った。


「実は入学式に出そびれちゃったんで、ちょっと気落ちしてたんだ。

 みんなと仲良くなるチャンス逃しちゃったかなって」


「それなら今ちょうど新入生歓迎のクラブ勧誘会やってるみたいだよ。

 僕はこっちに来ちゃったけど」


「うん、そうみたいだね。でも僕もクラブ活動より図書館の方に興味があったんだ。

 僕あまり魔法が得意じゃないから、将来はこっちの道に進みたいなって思ってるんだ。

 だから放課後は毎日ここに通うつもりなんだ」


 こっちの道とは、おそらく魔道書に関する仕事のことだろう。

 出版流通だけでなく、ニャリアンさんのような司書という職業もある。

 いずれにしろ魔道書を扱うためには、少なからず魔法の知識が必要だ。



 入学式のことを聞かれたので、ハチクツくんの武勇伝を語ってみた。

 ニーオくんはハチクツくんを撫でながら、凄い猫だと褒め称える。

 ハチクツくんは誇らしげにニャーンと鳴いた。



 それにしても、少年の声は猫の鈴を転がしているかのように軽やかだ。

 とても話しやすく好感を持てる。彼とは本当に友達になれそうだ。


 そう感じるのは、多分僕自身が猫だからだろう。

 大きな声の人はどうも苦手だ。




 そうやってしばらく雑談を楽しんだ後、突然少年は声を潜めて僕に語りかけてきた。


「ところで、噂は聞いてる? 今年は何だかすごい新入生がいるらしいよ。

 昨日、寮の先輩に教えてもらったんだ。たっぷり二時間近くも聞かせてもらったよ」


「へ、へえー。僕らは今日着いたばかりだから全然そういうのに疎くてね。

 良かったら僕にも聞かせてもらえるかな」


「うん、でもあくまで噂話だから鵜呑みにしちゃ駄目だよ。

 ええと、どこから話せばいいかな。ドラゴンスレイニャーの話は知ってる?」


「ああ、今年度の主席だよね」


「そうなんだ。それでそのドラゴンスレイニャーのお兄さんが凄い人物らしいんだ。

 妹をけしかけて教頭先生を魔法で脅したり、自分も特待生にしろと学園長に怒鳴り込んだり」


「ふ、ふーん。何だか凄いことになってるね……。

 もっと詳しく教えてもらってもいいかな」


「うんうん、もちろんさ。

 その教頭先生ってのは、生徒思いで優しくてとても人気があるそうなんだ。

 だけどそのお兄さんが無茶な要求を突きつけたものだから、教頭先生がみんなのことを考えて断ったんだそうだ。

 彼はそれが気に入らなかったみたいで、妹さんに魔法を使わせたそうだよ。

 どうやって脅かしたのかまでは知らないけれど、尋常なものではなかったらしい。

 次に面接を受けた子の話だと、教頭先生は心ここにあらずって感じでぽかーんと虚空を見つめていたそうだ」


「ハハハ、そんな無茶苦茶な話、信じられないよ。

 噂話は鵜呑みにするなって、さっき君も言っていたじゃないか」


「うん、僕もそう思ったよ。でも証拠もあるんだ。

 まず不自然な二十二名の水増し合格。

 そしてラストを飾るのが、そのお兄さんであること。

 さらに成績最低にも関わらず、彼に特待生マークがついてること。

 それだけじゃないんだ、まだまだあるよ!

 さっき聞いたんだけど、みんなの前でそのお兄さんが妹さんを叩いたんだそうだ。

 しかも常人には全く分からない理由でだそうだ。まったく常軌を逸しているよ」


「ハハハ」


「信じられないかもしれないけど、これは本当なんだって。

 でもね、僕は感謝もしてるんだ。

 だって彼のおかげで入学できたようなものだからね」


「そ、そうか。それなら良かった」


「うんうん。まあ悪いことばかりじゃないってことさ。

 あまり悲観せずに考えた方がいいよね。

 だけどきみは優しそうだから、あまり関わり合いにならない方がいいよ。

 何かあったら僕が守ってあげるから、いつでも相談してくれ」


 そう強がって見せる少年の身体の大きさは、見た目には僕の半分くらいしかない。

 僕の着ぐるみはかなり大きいのだ。特に胸板はかなり分厚い。

 僕が快適に過ごせるように、中の空間を広めに作るためだ。


「そ、そうか。ありがとう。助かるよ」


「あ、僕のこと頼りないって思ったでしょう。

 そういうの分かっちゃうんだからね、まったくもう。

 ところでさ、悪いんだけど名前を教えてもらってもいいかな。

 実はさっきから思い出そうとしてたんだけど、倒れた時のショックで忘れてしまったみたいなんだ。ごめんね」


「ああ、そうなのか。いやー、あの時は僕も慌てていたからね。

 もしかしたらまだ名乗っていなかったかもしれない。

 だから気にしないでくれ」


「あ、ううん。僕の方こそごめんね、ごめんね」


 さてどうしようか。

 もう少し話を聞きたいんだけど、名前を出したらさすがに気付かれるよな。


 そうやって言葉を濁していると、駆け寄ってくる一人の少女が現れた。


「居た居た! お兄ちゃん! お待たせ!」


 ニャルミを取り巻いていた新入生たちはもう居ない。

 おそらく各クラブにみんな散っていったのだろう。

 詳しく話を聞きたいところだが、今はそれどころではない。


 猫をそっと脇へ置いて立ち上がると、僕はニーオくんの手を掴んだ。

 僕の手は精密に動かすのは不向きだが、パワーだけならかなりのものがある。

 不自然にぎゅっと握られた手を不思議そうに見つめながらも、それにつられて少年は腰を上げる。


「ああ、ニャルミ、ちょうどいい所に来た。

 こちらはさっき友達になったニーオくんだ。

 これから僕らに学園の噂話を教えてくれるらしい。

 せっかくだから僕らの新居へご招待しよう。

 たっぷり二時間くらい聞かせてくれるらしいぞ」


 噂話という単語で、ニャルミには全て通じたらしい。

 すぐに反対側に回り込み、そっと手を握って微笑みかける。

 ニャルミは接触テレパス持ちだから、これで逃げることはほぼ不可能だ。


「そうなんだー、楽しみー。

 わたし妹のニャルミって言います。よろしくね」


 お兄ちゃん、ニャルミ、妹。


 これだけの単語が出揃った。


 少年はちょっと察しが悪いようだが、ようやく何かに気が付いたらしい。

 だんだん顔色が変わっていくが、まだ推測の域を出ていないようだ。


「ああ、まだ名乗っていなかったね。

 僕はニャスター・ニャン・パラリーだ。よろしくな」


 それで推測は確信へと変わったらしい。

 堪えきれなくなった少年が叫び声をあげた。


「にゃああああああ!」


 その声に一瞬ひるんだものの、僕もニャルミもまわりに人がいないのを知っている。

 受付にニャリアンさんが居るくらいだが、ここは見えないはずだ。

 聞こえていないかもしれない。


 だが敢えて注意しよう。マナーは守るべきだ。


「ハハハ、ニーオくん。図書館は静かに利用しようね」


「しーっ、静かに。みんなの迷惑になっちゃうよ?」


「にゃ、にゃあああああああああ!!」


 再び少年が叫んだ。だがその声は可憐で切なげで、魅力的でさえある。



 後日、嫌がる少年を二人掛かりで拉致したという新たな噂が広まっていたのだが、もう僕は気にしないことにした。




少し長くなってしまいましたが、きりがよいところまで二話分です

その分次はちょっぴり遅くなるかもしれませんニャー


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