解読編 その十三
お昼過ぎに目覚めると、ニャルミがテーブルに向かって何かをしている。
僕は大きく伸びをしながらあくびをする。
「あ、起きた? よく寝てたね」
「おはようニャルミ」
「もうお昼だよ。お腹空いてない? 一緒に何か食べましょ」
「うん、もうペコペコだよ」
「パパがさっきまで来てたのよ。
ニャスターにそろそろ魔法を教えてもいいかなって言ってたわ。
急にそんなこと言い出したのは、ニャスターが最近素っ気無くなったからじゃないかな。
嫌われたんじゃないかって心配してたわよ。
単に成長して猫らしくなったのよってフォローしておいたけど」
「そうか、ありがとう。
甘えることがなくなったから、そんな風に見えるんだろうね。
この口調で甘えるのは恥ずかしいんだ。
それにこうして色々話し合えるようになると、出来れば対当の関係になりたいんだよ。
甘えたり甘えられたりというのは、不健全かなって気もするからね。
さらに言うと、いつまでも子猫のままだと思われたくないっていうのもある。
ニャルミだって、子供扱いされたら嫌だろう?」
「うんそうね。ニャスターの気持ちも分かるわ。
そして同じくらいパパの気持ちも分かるの。
猫として生まれたものの義務と考えて、もっとやさしくしてあげて。
最近ちょっと寂しそうだもの」
「それは僕だけの責任じゃないと思うな。
このところニャルミもパパに抱きついたりしなくなったろう。
ニャルミも娘としての義務を果たすべきだよ」
「う、うーん。そうかも。だって恥ずかしいじゃない。
それに半年後のことを考えると、わたしも少しずつ親離れした方がいいんだろうなって思ってね。
じゃあ、お互いもう少しパパにやさしくするってことで。
パパも今日は休暇にするって言ってたから、もう少ししたらまた来るかも」
そしてニャルミの推測どおり、ご飯を食べ終えたころにパパは現れた。
その手には見慣れた猫言語魔道書が握られている。
「おや、ニャスター起きていたのか。
さっきニャルミとも話していたんだが、明日からニャスターにも魔法を教えようと思うんだ。
念のため尋ねておくけれど、覚える気はあるかい?」
「うん、お願いパパ。僕も魔法使ってみたいよ」
「よし、じゃあ明日からニャルミと一緒に訓練を開始する。
それで魔法の解禁ついでにそろそろこれを返そうと思ってな。
ニャルミ、待たせてすまなかった」
「ううん、数日前のニャスターには早過ぎだと思うから仕方ないわ」
「ニャスターにもすまないことをした。
口では信じると言っておきながら、結局魔法を取り上げてしまっていた」
「いいよ、パパ。むしろそれは当然のことだよ。
幼子に必要以上の力を与えるのは危険だっていうことは僕にも分かるよ。
だからこれまで僕を守ってくれたんだとパパには感謝しているよ」
「そう言ってくれるならパパも気が楽だよ。
ニャスターは本当に成長したね」
「それもこれもみんなのおかげだよ。
色々なことを教えてくれたから、僕はこうしていられるんだ」
「はいはい、茶番はそこまで。
それよりニャスターの着ぐるみの設計図を作ってみたの。
二人とも暇なんでしょ? ちょっと意見を聞かせて欲しいわ」
設計図案は、ほぼそのままの形でパパに預けられた。
何人かに手分けして作ってもらうけれど、それでも十日はかかるだろうとのことだ。
パパは休日だということも忘れ、その発注のため出かけていく。
「さて、一仕事片付いたし、今日はどうしようかな。
魔道書が戻ったんだし、解読続けてみる?」
「うん、そうだね。じゃあせっかくだしそうしようか」
こうして僕の休日も、猫言語魔道書の解読再開で幕を閉じた。
魔道書は新章に移り、新たな魔法の解説が始まった。
その名称から想像した通り、フライングキャットノイドは飛行系、ネコテティックパンチは攻撃系の魔法だ。
ネコテティックパンチの魔法は、物質化した魔力を推進剤として利用しつつ、着弾後に爆発させるというものだ。
数日分の魔力を一度に消費するのだから、その威力はとんでもないことになるらしい。
色々応用も利きそうだが、正直試してみるのが怖い。
それに今は着ぐるみ作成のために、魔力を溜めている最中だからね。
「パパから聞いたんだけど、最後のページには下巻の予告が載っているんだって。
その魔法の名前を伝えたら、ご褒美にまた本を貸してくれることになってるの。
魔法の名前がニャンコ、キャット、ネコと来たから、次はどんなのが来るかしらね。
やっぱりライオンハートとか、獅子王なんとかみたいなそんな感じかしら」
「どうだろうね。順当にいくならそうだろうけど、僕は全然違うと予想してみるよ」
「全然違う? タイガーとか、かな」
「違う違う。もっとかわいい方向に」
「かわいい? あっ分かった! きっとこれね」
ニャルミは僕を持ち上げる。
「うん、多分それだよ。
なんだかそんな予感がするんだ」
「そっかー。じゃあもう少し頑張りましょう。
この分なら明日には終わるんじゃないかな」
「おいおいニャルミ、今日は休日なんだぜ。
もうちょっとゆっくりやってもいいんじゃないのか」
「いいじゃない。どうせ暇なんでしょ。
ほらニャスターも手伝って! 今日は徹夜でやるわよ」
「うにゃー、仕方ないにゃあ」
その宣言どおり、翌日僕らは遂に魔道書の解読を終えた。
そして僕の予想通り、最後のページにはこう記されていた。
『これにて上巻は終わりである。
最後に下巻の予告をしておこう。
上巻では三つの魔法について述べたが、下巻ではただ一つの魔法についてのみ記すつもりだ。
その魔法にこそ、猫言語魔法の真髄が秘められていると言っても良いだろう。
具体的な内容については下巻で触れるとして、ここではその名前だけを記すに留める。
その魔法の名は、子猫転生という』
次話で一区切りつく予定です
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2014.08.02 修正 おいてけど→おいたけど




