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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
29/57

解読編 そのニャニャニャンニャンニャニャーン

「おそらく一日でニャスターが作れるのは、そのオーオトローの欠片分くらいなの。

 魔法だけで全身を作り上げるなら、半年では到底間に合わないわ。

 だけど足りない部分を別の材料で補えばそれは解決するわ。

 極端な話、木材か何かで大きな人形を作って、魔法で見た目を取り繕えば完成と言えるわね。

 そして実はその見栄えも、顔と手を整えるだけで十分なの。

 それ以外の部分は服を着せて誤魔化せばいいわ。

 それだけなら一ヶ月くらいでなんとかなると思うわ。

 残りの時間を他の機能を充足させることに費やせば、完全とは言えないけれど十分なものができるはずよ」



 うーん、そういう方法もあるか。

 あまりスマートなやり方ではないが、確かにそれなら間に合うかもしれない。

 僕自身もいずれ作ってみたいと考えていたので、この話に乗るのも悪くないな。


 ニャルミは説明を続けようとしたが、そこへパパ上殿が割って入った。



「ちょっと待つんだニャルミ、話が飛躍しすぎだよ。

 百歩譲ってそうするとしても、ニャスターの気持ちを考えないといけないし、試験に備えて学力をつける必要もある。

 それにニャスターは産まれたばかりの子猫で、今は色々注意してやらなければいけない時期だ。

 学力だけではなく、人間として猫として、学ばねばならないことがたくさんある。

 それ以外のことも含めて問題は山積みだ。

 ニャルミの意向も分かるが、これはもっと時間をおいて決めるべきことだろう」


「そうね、でも今から準備を始めないと間に合いそうも無いの。

 パパの言うように、決めるのは先でもいいと思う。

 けれどニャスターの成長の可能性を考えるなら、選択肢は残してあげるべきよ。

 何せ一日で言葉を覚えちゃったんだから、この先何が起こるか分からないわ」


 そうやってニャルミが言い返すと、ニャルカお姉ちゃんが加勢してくる。


「お姉ちゃんも今のニャルミの意見に賛成だな。

 ニャルミが来年学園に入学してくれた方が、お姉ちゃんも助かるからね。

 学費のことで何か問題があるなら、お姉ちゃんが少し援助することもできる。

 何なら学園に掛け合ってもいい。

 あちらもニャルミにかなりご執心の様子だから、ひょっとしたらニャスターの学費もどうにかしてくれるかもしれない」


 さらにママ殿も加わった。

 先程の『ママ大好き』が功を奏したのだろうか。

 あるいは娘二人の味方をしてやりたいという親心なのかもしれない。


「あなた、時間をおいて決めるべきことなら、それは行かせないと決めたわけではないわよね。

 それならとりあえず、ニャルミの言うとおりにしてあげましょう。

 それにニャスターちゃんはやさしくて賢い子よ。

 あなたが心配していることも分かるけど、そういったことは起きないわ」


「う、うーん」


 どうやら多数決ではパパ上殿の負けが確定したようだ。


 同じ男としてパパ上殿の主張も分かるのだが、その心配が無意味であることを僕は知っている。

 とは言え少しかわいそうなので、助け舟を出してあげたいところだ。

 しかし何か言い出せる雰囲気ではない。黙っているのが良さそうだ。



 反論するにしても形勢が悪いと見たのか、パパ上殿も黙り込んだ。


 それをチャンスと見てニャルカお姉ちゃんが追撃をかける。



「でもニャスターの気持ちが大切だというのはお姉ちゃんも賛成だ。

 だからニャスター、一つ聞きたい。

 ニャルミのことは好きかい?」


 そういう風に聞かれてはこう答えるしかない。


「にゃうみ、だいちゅき!」


「そっかー、それじゃニャルミとずっと一緒にいたいよな。

 それじゃお姉ちゃんのことは?」


「にゃうかおにゃにゃん、だいちゅき!」


「ママにも、ママにも」


「みゃみゃ、だいちゅき!」


「うんうん、ママたちもニャスターちゃんのことが大好きよ」


 パパ上殿だけがその輪に加われず、一人さびしそうである。

 そこで僕はテーブルに飛び乗ると、パパ上殿のもとに歩いていく。

 そして上目遣いでパパ上殿を見上げてつぶやく。


「ぴゃぴゃ、だいちゅき!」


 その一言でパパ上殿の顔の険がゆるむ。ついに陥落したようだ。

 僕の背中を撫でながらみんなに宣言する。


「わ、分かった。パパの負けだ。

 こうやってパパの気持ちも分かってくれるやさしさを信じてみるよ。

 では一ヶ月の猶予をあげよう。

 その間にニャスターにいろいろなことを教えてあげなさい。

 ただあまり無理に詰め込みすぎると、ニャスターがストレスを感じるかもしれない。

 そうなったら、その時点でこの話は取り止めだ。

 もちろんニャスターにあまり成長が見られなくても駄目だよ。

 それにニャルミ自身にもね。

 その代わり平行してその準備とやらを進めてよろしい」


 そういいながらパパ上殿は僕の頭やら喉やらを撫で回す。

 やはり最初に見込んだとおり、パパ上殿は猫馬鹿になる素質が十分にあったらしい。


「あなた、一ヶ月で結論を出すのは早すぎるんじゃなくて?」


「そうだよ、もっと長い目で見てやるべきだ」


「いや、それ以上引き伸ばせば惰性になってしまって良くない。

 これはニャスターのためでもある」


 まあ落とし所としては、このあたりが妥当だろうな。

 みんなも不服を唱えてはいたが、それを覆そうとはしなかった。






 それにしても話が飛びすぎたために、いつの間にか論点が事の信憑性から僕らの将来の話に掏り変わっていた。

 もうこうなってしまっては、ニャルミの並べた嘘八百を全て信じるしかないだろう。

 ここまでニャルミの計算のうちだったのだろうか。そうだとしたらニャルミ凄いな。



「よし、じゃあ言葉を覚えてもらうためにも、この前ニャルカお姉ちゃんから貸してもらった本を読んであげるね。

 ちょうど簡単そうな本が一冊あったはずだから、ニャスターも楽しめると思うよ」


「おいおい、いきなり本の読み聞かせかい。

 ニャスターはまだ子猫で影響を受けやすいだろうから、幸せなお話を選んであげるんだよ」


「大丈夫だよ、パパ。

 ニャルカお姉ちゃんの貸してくれる本は、いつも楽しい本ばかりだもの」


「ああ、パパの趣味に影響されちゃって、そういう本しか読めなくなっちゃったよ」


「そうか、それならいいんだ」


「勉強ばかりじゃなくて、たくさん遊んであげるんだぞ」


「うん!」


「まるでニャルミに弟ができたみたいね」


「ははは、このままニャルミ共々良い子に育って欲しいものだ」


「それじゃそろそろ戻るね、行こう、ニャスター」


 僕らはニャルミの部屋へ戻り、ニャルカお姉ちゃんから借りた本を開く。

 ニャルミの言うとおり、それはとても愉快な本だった。






 その日から魔法学園入学へ向けての特別プログラムが開始された。



 朝夕二回、小さなキューブ状に魔力を物質化させ、それを保存しておく。

 後でこれを再変換して着ぐるみの作成に用いる予定だ。


 それ以外の時間は、言葉の習得と世の中のいろいろなことを学ぶのに割り当てられた。

 そう言うと仰々しいが、実際はニャルミと一緒に色々な本を読んでいるだけだ。


 そしてそれに合わせ、日毎に語彙と話し方を調節していく。

 みんなは賢い猫だと僕を褒め称えた。



 小さな約束も課せられた。

 それは家族以外の人に僕が話せるのを秘密にしておくことだ。


 そして少しずつ約束事は増えていく。

 それを守れるかどうかで、僕の精神的な成長度合いを測っているらしい。


 僕に魔法を教えるかどうかは、おそらくその結果を見守ってから決めるのだろう。

 そういった訳で、僕自身の魔法訓練は行っていない。



 それに併せて、解読途中ながら猫言語魔法書は一旦パパに返すことになった。

 表向きの理由は、パパが確認したいことがあるからということになっている。

 だがこれはおそらく危険な魔法を僕に教えないための措置だと思われる。

 ネコテティックパンチという魔法が攻撃系のものらしく、それをしばらく隠しておきたいのだろう。

 変わりに別の魔道書を渡され、ニャルミはそれを用いて解読訓練を続けている。




 ニャルカお姉ちゃんはあれからさらに三日間滞在し、毎日僕と遊んでくれた。


「これならニャルミが言うように、来年は一緒に学園に来られそうだな。

 学園長にはうまく話しておいてやるよ」


「お姉ちゃん、わたし頑張るよ。落ち着いたら手紙書くね」


「ああ、ニャスターの成長具合を教えてくれると嬉しいな。

 ニャスター、最後にお姉ちゃん大好きって言ってくれよ」


「ニャルカお姉ちゃん、大好きだよ! また一緒に遊んでね!」


「そうだな、きっとまた遊ぼう。ニャルミも元気でな」


「うん、お姉ちゃん、大好き!」


「にゃはは、それじゃまたな!」


 ニャルカお姉ちゃんを乗せた馬車が出発した。

 ちょっぴりさびしいが、またそのうち会える日が来るだろう。






 そうそう、封印開放で僕の記憶を呼び覚ます件だが、ようやく実行できる準備が整った。

 あの日から十日ほど過ぎた頃、パパ上殿がいる時を見計らって僕はニャルミに掛け合う。



「ニャルミ、僕お休みが欲しい。明日お休みの日にしてくれないかな」


「お休み? 何をしたいの?」


「久しぶりに一日中寝ていたいんだ。魔力キューブは作っておくからいいでしょ?」


 実はこれまでこっそりと欠片を作って溜め込んでいたのだ。

 それを組み合わせれば二個分くらいになるだろう。

 その一つは明朝ニャルミに渡し、もう一つは封印開放に用いる予定だ。


「ははは、ニャスターも一人前に休みを欲しがるようになったか。

 いいんじゃないか。疲れがたまっているのかもしれない。

 そういうことを要求できるようになったのは良い兆候だ。

 ゆっくり休みを取ることも大切だよ」


「そうね、まあそういうことなら、いいかな。

 言われて見ればずっと休みなしだったものね」


「ありがとう! パパ、ニャルミ」


「ニャルミも明日は一緒に休みにしたらどうだい。

 このところ頑張りすぎだろう」


「そうね。でも良い機会だから、ニャスターの着ぐるみ素体のことでも考えてみるわ」


「そうか、あまり無理はしないようにな」


「大丈夫よ、ありがとう。ニャスターも休みが欲しくなったらいつでも言ってね」



 ニャルミに相談も無く、わざわざパパ上殿の前で休みを要求したのはちょっと不自然だったかもしれない。

 だがニャルミは単に僕が疲れているのだろうと考えているようだ

 キューブの製作もお休みにしてもいいと言ってくれたが、僕はそれを断る。

 だって封印開放で魔力を消耗したことの辻褄合わせにする予定だからね。


 準備は整った。


 ようやく今晩、僕は長い間知りたかった記憶を呼び覚ますのだ。




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