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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
26/57

解読編 その九

 マッグーロパーティは朝から大変な賑わいを見せた。

 昨日の数倍の人が集まっているようだ。



 串焼きや刺身やタタキなど、テントごとに違った調理方法で提供されている。

 マッグーロ尽くしなので、飽きさせないようにいろいろ趣向を凝らしているらしい。



 一番人気のあるところは、調理が間に合わないようで長蛇の列ができている。

 その料理を説明している人がいる。僕らはついついその声に耳を傾ける。


 シルバーシャーリーという穀物を大量に炊き、少しばかり酸味をくわえて器に盛る。

 そこに海草を干したものを乗せ、その上にマッグーロの切り身を乗せる。

 そしてセウーユやワッサービで味を調えると完成だそうだ。


 要するに鉄火丼のようなものなのだが、これが大好評らしい。


 料理人さんたちは生産ラインを増やして対応しているようだが、間に合っていないのが現状だ。

 それを見かねた街の人たちが手伝いに入り、あれこれ教わりながらどんどん料理が作られていく。

 多分もう少しすればこの混乱もおさまるだろう。


 一足先に鉄火丼を食べ終えた楽団が、緩やかな音楽を演奏し始めた。


 空は青く晴れていて、風は穏やかだ。






 これからオーオトローを賭けた何かの大会が行われるらしい。


 大人たちがぞろぞろと集まっていく。

 ルールの説明が始まった。


 どうやらサッカーに良く似たスポーツをやるようだ。

 優勝チームを当てた人には賞品が出るようで、みんなの期待が高まっていく。




 競技が始まりみんなの注目がそちらに集まるころ、ようやく僕らは挨拶に訪れる人々から開放された。

 まあ今回はある意味ニャルミが主役だから仕方ない。


 僕らは少しみんなから見えにくい位置に引っ込むと、用意してもらっておいたマッグーロ料理に舌鼓を打つ。


「いやー、マッグーロの輸送は何度かやってるんだけど、実際に食べるのは今日が初めてなんだよ。

 おいしいにゃあ、ニャルミ」


「うん、テッカドン最高!」


 僕もようやくオーオトローを貰った。


「ニャーン! ウニャンウニャン」

 待ってました! ここ数日ずっとこれを楽しみにしてたんだよ。

 何これおいしい! おかわりちょうだい!


「ニャスターもおいしいって言ってるよ」


「そうみたいだな、にゃははは」






 ニャルミとニャルカお姉ちゃんはしばらく取り留めの無いおしゃべりを楽しんでいた。


 そして話すネタが尽きたころ、ニャルミがお姉ちゃんに問いかける。


「そう言えば昨日あれから魔道書の解読をやってみたんだけど、全然早くならないの。

 もし良かったら、コツとか秘訣とかを教えてくれないかな」


「うーん、そうだなー。いくつか助言をしてやることは出来るよ。

 だけどそれを聞いたところで今はあまり役に立たないかもしれない。

 ある程度先に進んでいないと理解できない話というのもあるからね。

 だから今現在でニャルミに教えて上げられることだけを話そう。

 それでもいいかい?」


「うん、お願い」


「よし、じゃあまず最初の壁はウィニャ盤だ。

 これを使うことができるようになると、解読のスピードが一段階上がる。

 パパに聞けば色々教えてくれるはずだ」


「ウィニャ盤ね。この前倉庫で見つけて実はもう使っているの。

 本も読んで使い方は覚えたわ」


「おお、それなら次の段階の話もやりやすい。

 一つ聞くけれど、ウィニャ盤をいじるときニャルミはどっちの手を使っている?」


「えーと、それは右手よ」


「やはりそうか。ニャルミは右利きだから、字を書くのも右手だよな。

 それだとウィニャ盤操作との切り替えでタイムラグが発生するんだ。

 だから次の段階は左手でウィニャ盤を操作することを覚えるんだ。

 最初は戸惑うかもしれないが、それに慣れるにしたがってどんどん早く出来るようになるはずだ」


 ニャルミは自分の左手を見つめ、ウニャウニャと動かしている。


「おそらく今まで左手は本を押さえるのに使っていたのだと思うが、パパに頼めば専用の固定台を貸してくれるはずだ。

 それがあれば魔道書を傷めずに本を開いておける。

 試験場にも設置されているから今のうちから慣れて置くと良い」


「分かった、左手でウィニャ盤を操作するのと、本の固定台だね」


「そこから先は地味な努力を積み重ねていくしかない」


 お姉ちゃんはおもむろにコップを二つ取り寄せ水を注いだ。

 その一つを凍らせると、もう片方にコースターで蓋をして慎重に魔法をかける。


「いいか、こっちがお姉ちゃんでこっちがニャルミだ。

 ニャルミはまだ水のままで、お姉ちゃんは氷だ。

 氷に成りたいのなら、毎日弛まず訓練を積むことだ。

 そうすればいつの日かきっと、自分がもう水でないことを理解できるだろう」


 そこまで言い終えるとニャルカお姉ちゃんは魔法をかけるのをやめた。

 だがコップの中に水に変化は見られない。

 ニャルミはその水に自分を重ねているのか、不安げな表情でお姉ちゃんを見つめる。


「こればっかりはうまく説明できないんだ。

 無理に言葉にすることも出来るが、間違った先入観を与えちゃいけない気もする。

 だから、ある日突然それがやってくるとだけ言っておこう。

 ニャルミ、その水をこっちの空のグラスに移し変えてみろ」


「え? う、うん」


「多分何かのきっかけで、お前は変われるはずだ」


 ニャルミがコップを傾けると、水は注ぎ込まれた先から突然凍り始めた。

 コップの中に氷柱がニョキニョキと育っていく。


「あ、あれ……、何これ。どうなってるの?」


「いつの日になるかは分からないが、そんな風に何かのショックで突然水が氷になることもある。

 だからたとえ結果が出なくとも、努力をあきらめちゃいけないぞ」


「うん、分かった。ありがとうお姉ちゃん!」


 ニャルミは面白がって水を注いだり止めたりを楽しんでいる。


 この現象も前に見たことがあるな。確か過冷却とかいうやつだ。

 水を静かにゆっくりと冷やしてやると、凝固点以下になっても凍らないという。

 ただしそれは非常に不安定で、何らかのショックが加わると即座に氷になってしまう。



 ところでニャルカお姉ちゃんが言っていた突然の変化とやらが気になった。

 おそらく日々の努力によって『魔道書解読』の能力に近いものを手に入れたのだろう。

 あと半年でそこまでの域にたどり着けるかどうかは分からないが、頑張れよニャルミ。






 大会では同点のゴールが決まったらしく、応援は賑やかさを増してきた。


 観客の中には、見たことのある顔がいくつか並んでいる。

 兵士さんたちや、昨日会場の設営に来てくれた人たち。



 そういえば、おかあさん猫たちは来ているかな。


 何かの予感がして群集に注意を向けると、僕らに駆け寄ってくる猫の姿を見つけた。


「ニャーン」


 それはおかあさん猫だった。



 そこへあわてて走り寄ってくる猫耳の人たちが見える。あれはニコルさんたちだ。


「ニャルミ様、申し訳ありません」


「こんにちはニコルさん、いいんですよ。

 ニャスターもおかあさんに会えて喜んでいます」


 おかあさん猫は僕に擦り寄ると、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


「そうだね。わたしも猫が喉を鳴らすのを見ているのが大好きなんだ。

 どうかしばらくこのままで居させてやってもらえませんか。

 その間どうぞ皆さんお祭りを楽しんでいってください」


「ニャルカ様まで、ありがとうございます。

 ではしばらくしたら戻って参りますので、よろしくお願いいたします」



 食事中の僕らを邪魔しては悪いと思ったらしく、おかあさん猫をそのまま置いて彼らはパパ上殿たちへのところへと挨拶に向かう。


 パパ上殿やママ殿はみんなから開放される気配はないが、楽しそうにキャウィ酒を飲んで歓談している。



「昨日のお酒の話だけどな、ニャルミ。

 猫が乗っている樽はおいしいお酒だって話があるんだ。

 あれってゴロゴロが関係しているそうなんだよ」


 そういえば昔ワインでそんなことがあるって話を聞いたことがあるな。

 ラベルに猫の絵が描かれているのをよく見かけた気がする。


「そうなんだ、ゴロゴロってすごいね」


「ああ、猫は喉鳴らしのおかげで傷の治りも早いそうなんだ。

 ゴロゴロの振動が体全体に良い効果を与えているそうだよ」


「そうなのかー。わたしたちも喉を鳴らせたら良かったのにね」



 え、ニャルミたちって喉鳴らせないの?

 そうなんだ。猫耳があるからてっきりできるのかと思ってたよ。


 って、あれ? 何か大事なことが分かりそうな気がする。

 昨日から続いている何かの予感。僕はそれに引っかかる単語を思い出す。




 キャウィ、発酵、お酒、熟成、海、潮流、振動。


 コップ、水、氷、変化、過冷却、ショック、振動。


 樽、猫、ワイン、ゴロゴロ、治療、喉鳴らし、振動。




 もしかしてゴロゴロの振動が物質化の鍵なのか?


 確かに振動は物質の変化を促し、また時によって必要不可欠のものだ。

 喉鳴らしの振動が魔力と共鳴して何か特別な反応が起こっているとも考えられる。


 考えをまとめようとする僕の脳裏に、新たなキーワードが浮かび上がる。




 振動、喉鳴らし、魔道書、ヒント、猫言語。




 てっきりニャルミたちも喉を鳴らせるものだと思っていたから見過ごしていた。

 しかしそれならば、猫にしか使えない魔法だと言うことも納得できる。


 猫言語魔道書の最初の方にも、確か『子猫の喉鳴らしがどうのこうの』という記述があった。

 意味の無い文章にみせかけて、ヒントが書かれていることがあるとも聞いた。


 それにそもそも『猫言語』魔法という名前なのに、呪文も何も無いのがおかしい。

 猫だけが発することのできるゴロゴロ音を、『猫言語』と表現したのではないだろうか。

 それなら辻褄も合う。




 考えれば考えるほど、今すぐにでも試してみたくなってきた。

 だが落ち着こう。試してみるならせめてみんなが寝静まった夜だ。






 マッグーロパーティは半日かけて無事に終わった。


 とても食べきれないだろうと思った量だったが、みんなの食欲は僕の予想を上回っていた。


 祭りの片付けはまた明日行うということで、今日は簡単な掃除と片付けだけだ。

 それもすぐに終わり、僕らも部屋へと戻る。


 そして魔道諸解読の続きを始めようとした時、ニャルカお姉ちゃんが部屋を訪れた。



「ニャルミ、パパが呼んでるよ。子猫を連れて来なさいってさ。

 どうやら例の薬が完成するらしい。せっかくだからお姉ちゃんにも見せてくれよ」




あ、明日は花見なので……


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