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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
2/57

神様編 そのニャー

「ぐすん、わかりました。そういうことにしておきます。

 それにしても魔王ってなんですか。設定が曖昧だとこっちが困ります。

 ちゃんと説明してください」


「いや、設定とかそういうのはないから……。

 魔王ってのは………………、えーと、つまり悪いやつなんじゃよ。

 イメージしにくいなら、下着泥棒とかそういうものだと思ってくれれば良い。

 今はそれだけで十分じゃろう」


「なるほど、つまりあなたの下着を盗まれたから取り戻したいと……。

 ようやく合点がいきました。それなら妄想しやすいです。

 確かに下着泥棒は許せませんね。ギャフンと言わせてやりましょう!」


「なんでワシのなんじゃよ! それにどうして嬉しそうなんじゃよ!

 そんなことより時間がもったいないのじゃ。

 おぬしには転生ポイントが百二十ある。

 これをどう振り分けるか、できるだけ急いで決めてほしいんじゃ」



 そう言ってワシは能力カタログを手渡した。

 少女はそれを受け取りなら小首をかしげる。



「転生ポイントって何ですか? どんな設定なんですか?」



 まだ設定とかぬかしておる。


 もうスルーした方がいいのう。ワシはそう思って黙り込むことにした。


 しかし少女は説明を求めるような眼差しでワシを見つめて動かない。

 ワシはカタログを読めという念をこめて少女を見つめるが動かない。


 そんな不毛なにらみ合いがしばらく続いたが、大人のワシが折れることにした。

 あれじゃよ? 根負けしたんじゃないよ? 時間がもったいなかったからじゃよ。



「……て、転生ポイントとは、正確に言うなら魂の輝きを数値化したものじゃよ。

 チート能力を受け入れるための器の大きさみたいなものじゃと考えて欲しい」


「ふーん」



 少女は鼻で笑ったかのような相槌を打ち、ようやくカタログを開く。


 ワシの胸の奥に、なんだかウニャウニャとした感情が芽生えた。

 だがせっかくやる気になってくれたのじゃ。突っ込むのはよそう。



「それにしてもよくできたカタログですね。何もこんなに凝らなくても……。

 こういう情熱は別のことに向けたほうがもっと生産的……、いえごめんなさい。

 これがあなたの特殊な趣味ですものね。わたしが口を挟むべきことではなかったわ」


「うんうん、もうそういうことでいいから。

 それよりさっさとカタログに目を通して欲しい能力を決めてくれんかのう」



 そんなふうにニャーニャー文句を言いながらも、少女はカタログを読み始めた。


 だがこうなればこっちのものじゃ。

 ワシの思惑通り、少女も次第にカタログに夢中になっていきおった。




 ここでもう少しカタログについて詳しく説明しておこうかのう。

 どんな能力があるかはさっき紹介したから、今度はカタログ自体の解説じゃ。

 ん? もう知っておる? いいから黙って聞くんじゃ。




 カタログは一つ一つの能力を見開きニページで詳しく紹介しておる。


 能力名、必要ポイント、その概要と詳細、注意点や使用例。

 さらに挿絵やマンガもついていてイメージしやすい。


 特にマンガが分かりやすいと、一般に受けが良いのう。



 だがこの少女のような活字中毒者には、使用例の方が好評じゃ。

 それは、能力の具体的な活用方法や使命達成の過程を、転生者の視点で物語風にまとめたものじゃ。



 いかにしてその能力者がかの地で伝説になったか。

 あるいは能力の意外な使い方を推理小説風に。

 武具やペットに関しては、その歴々の使い手のエピソード。


 美しき姫や王子との恋愛、それを成就するまでの悲喜こもごもの過程。

 事件の後日談や、その英雄の子孫たちについて。

 あるいは単に、彼や彼女がどれだけ人々に感謝されているかの記録。



 これから選ぶかもしれない能力について、そんな話が載っているのじゃ。

 つい自分を重ねて読んでしまうじゃろう。




 そんなわけで初めは馬鹿にしておった少女も、すっかりカタログの虜になった。

 こういうタイプがこうなってしまうと、質問をされることはほとんどないかのう。


 むしろ邪魔にならぬように静かに見守っておる方がよさそうじゃ。




 そうやって油断していると、不意に少女が声を上げた。


「あれ? ひょっとして記憶は受け継がれないんですか?

 こういうのだと前世を覚えてるのが定番じゃないですか!」


 なんじゃ。嫌じゃイヤじゃと言っておったわりには詳しいじゃないか。

 これならもう少し踏み込んだ説明をしても大丈夫じゃろう。



「そうじゃよ。定番だからこそお前も……、お主も分かっておるじゃろう。

 記憶引継ぎがとてつもなく強いチート能力であることを」


「それはそうですが、やっぱり納得いきません。

 設定がおかしいです! バランス悪いです!」



 少女が不満を漏らす本当の理由、ワシにはそれが分かっておった。

 それは『記憶残留』の必要ポイントが高すぎることなのじゃ。


 そのページに記された数字は百ポイント。

 それは少女の持つ転生ポイントのほとんど全部といっても良い。



「逆に考えてみてはどうじゃ?

 記憶を引き継がない代償として、別の強い力を得られると」


「むー」



 少女はまだ納得がいかない様子だった。

 そこでワシは特別に詳しい説明をすることにした。





 まず、記憶残留の恩恵はいくつもあるが、一言であらわすなら『早熟』だと言える。


 前世記憶のおかげで、学習に使うさまざまなリソースを節約できる。

 この場合リソースとは、金銭、時間、体力、機会などいろいろなもののことじゃ。


 そしてそれらのリソースを別の成長にまわせる。これが重要じゃ。


 おすすめは運動能力の向上じゃな。

 武芸を学ぶのが一番じゃが、ただ走り回るだけでも他の子と差が付くじゃろう。


 あるいは技術を身につけるのも良い。

 その世界の歴史や風習について学ぶのもアリじゃな。



 いずれにせよ、これらにより目立つことは間違いないのう。

 特に幼いうちは持てはやされるじゃろう。


 しかし悲しき哉、二歳で神童、八で才子、十五過ぎればただの人。

 そうなるのがオチなのじゃよ。

 いずれ他の人に能力が追いつかれてしまう。


 なぜなら人間としての成長限界という壁にぶちあたってしまうからじゃ。




 つまり『記憶残留』単体では、ずば抜けた効果が期待できないということなのじゃ。

 逆に、他の能力との組み合わせ次第で、ずば抜けたものになり得るとも言える。


 相性が良いのは才能系や限界突破系の能力じゃな。

 それなら十五歳を過ぎても、ただの人で終わることはない。




 繰り返しになるが、記憶残留を選ぶには百ポイント必要なのじゃ。

 この少女が選んだ場合、他の能力を選ぶ余地がほとんどない。



 結論としてこの子の場合は、他のチート能力を選んだ方がマシということになる。




 それに記憶残留を選ぶときは、特別な誓約が必要となる。

 転生したという事実を誰にも話さないこと、そして悟らせないこと。

 この二つを守ることを、言わば『魂にかけて』誓ってもらうことになっておる。


 なお誓約を破った場合のペナルティは、敢えて教えないことになっておる。

 とはいえ、ワシら転生をつかさどる神々を敵にまわせばどうなるのかは推測できるじゃろう。

 まあ、そういうことじゃ。



 そうそう、ついでの話をしておこう。

 前世の科学的知識を広めることも、そういった理由により禁じ手になっておるのじゃ。


 抜け道がないわけではないが、そもそも知識や技術の伝達は基本的に推奨されていない。

 偏った発展は好ましいものではないからじゃ。




「内政チートしたかったのになあ……、残念……」


「ふむ、内政チートのう……。それを許可している世界もあるにはある。

 じゃがそういう求人はレアじゃし競争倍率が高いんじゃよ。

 それゆえほとんどまわって来ないのじゃ」


「そっかー、残念だなあ」


「そんな目でみつめてもダメじゃぞ。

 ないものはどうしようもないのじゃ。すまんのう」


「それじゃもういいです!

 カタログ読むのに忙しいので、もう話しかけないでください!」




 少女はカタログを再び開いた。

 どうやら能力の使用例がいくつか連作になっておるのに気がついたようじゃ。

 続きの話を求めて、その手は幾度となくページをめくっておった。



 少し時間がかかったものの、少女はようやくカタログを一通り読み終えたようじゃ。

 虚空をみつめて満足気に溜息をついておる。



「読後感に浸っておるところすまんが、能力は決まったかのう?」


「んー。なんとなくですがだいたい決まりました。

 ところで、わたしの百二十ポイントって多い方ですか? 少ない方ですか?」


「かなり多い方じゃな。わしが見た中では五本の指に入るのう。

 精確な数字はわからんが、普通の人間の平均値は五十くらいじゃ」


「そうですか。今までで最高の人はどれくらいですか?」


「百五十くらいが最高じゃのう。

 お前さんのすぐ前に来た子がそれくらいのポイントじゃったわい」


「そんなもんですか。ではこの猫言語魔法って何ですか?

 三百ポイントなんて全然足りないじゃないですか」


「ああ、それはなんというか、カタログのかざりみたいなものじゃよ。

 使用例にも書いてあるじゃろう? 誰も試したものはいないと。

 まあおそらく現地の神様が悪乗りして作ったページなんじゃろうな。

 そういうのが好みなら、ドラゴンのやつが百ちょいで選べるのう」


「ん、いえ、それならいいんです。

 細かいポイントの計算までしていないので、もう少し時間もらえますか」


「うむ、そういうことなら手伝えそうじゃのう。

 まずどうしても欲しい能力はあるかのう?」


「えーと、まずは……」




 結局少女が選んだのは、魔力の超才能と魔法の超才能じゃった。

 どちらも五十ポイント。どちらか片方だけでも歴史に残るのは間違いないはずじゃ。


 うむ、この組み合わせなら問題ないじゃろう。

 勇者の良きサポート役になれるはずじゃよ。



 少女は残りのポイントを自分自身の趣味嗜好、人生の楽しみのために使うことにした。

 それくらいは転生者の役得ということで許されておるのじゃ。


 少女はかなり迷っておったが、猫耳エルフの里の良い家柄に産まれることを望んだ。

 欲しかった能力は他にもあったようで、細々とした能力をどんどん選んでいく。



「残り三ポイントじゃ」


「美少女が三ポイント、グラマーが三ポイントかぁ。

 美少女を選んだとしたら、どのくらい綺麗になれるんですか?」


「今のおぬしと同じくらいじゃ」


「……そんな遠まわしな表現使わずに、直接かわいいって言ってくれてもいいんですよ。

 でも美しいって、良いことばかりじゃないんですよね。

 こうやって変なジジイにさらわれちゃうし」


「うるさい、さっさと決めんか」


「そんなこと言ったって、これは女の子にとって大事なことなの!

 どっちか選べって言われてもそうやすやすと決められるわけないじゃない!

 一生を左右するのよ! 何ならこれから一日中考えていてもいいんだからね!」


「分かった分かった。

 じゃあ『美少女』と『そこそこグラマー』の組み合わせでどうじゃ?

 それくらいならおまけしてやれんでもない。それでどうかのう?」



 少女はやや不満げに唇をとがらせたものの、その目元は嬉しそうに和らいだ。



「仕方ないにゃあ。それで我慢してあげる」



 本当は『眼鏡っ子美少女そこそこグラマー』にしてしまったんじゃが、これは内緒じゃよ。

 だってポイントが足りないからのう。

 許してくれるじゃろうか。今も眼鏡っ子じゃし許してくれるじゃろう。



「ではこれで転生ポイント振り分けは決まりじゃ。転生手続きは完了じゃよ」


「終わったの? おしまい? わーい、やったー。

 じゃあ、解放してくれますか? ご満足いただけましたか?」


「最後まで疑っておるんじゃな。まあいいじゃろう。

 きっちり美少女を選んでおったから、一応の覚悟はあるじゃろうし。

 では頼んじゃぞ」


「え? やっぱり本物……」



 最後まで言い切る前に、少女は希望の地へと転送されていった。

 やや強引じゃったが、これも仕方なかろうて。




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