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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
17/57

ご褒美編 そのニャニャニャーン

 ママ殿のいる救護所への往路では、ニャルミと神様のやり取りの話を聞かせてもらった。

 話の細部は違うもの、やはりニャルミはあの夢に出てきた少女だった。


 それは知っていた話なのだが、ニャルミの視線で語られたので、ある意味新鮮で面白かった。


「実はあの神様ってわたしの理想のタイプに近かったのよね。

 もうちょっと若ければお付き合いしてもいいかなってくらいに」


 あんなのが好みだったのか。

 ちょっとショックである。



 さてこれでようやく判明したのだが、僕の使命はやはり魔王を倒すことらしい。


 魔王復活はニャルミが十歳になるころだそうだ。

 それまでもう2年も無いが、潜伏期間があるはずだから、実際に討伐に向かうのはもう少し後になるだろうとニャルミは言う。


「ニャスターは何か話を聞いてないの?」


「ニャー」

 全然覚えてないです。


「そっかー、もっと詳しい情報聞けると思ったんだけどな。

 それにしても、追加でニャスターを送ってきた理由が気になるわね」


 ニャルミの言うことも当然だ。

 不測の事態が発生して人員を追加したかったが、成長の遅い人間では間に合わないために僕を送ったと見るべきか。


 まあ気を引き締めるにしても、あまりネガティブなことは考えないでおこう。



「話を聞いてくれてありがとうね、ニャスター。ちょっと気が楽になったわ」


 ニャルミは記憶が戻ったことによる気持ちの整理が追いつかないようだ。

 こうやって誰かに話し、秘密を共有することで心のバランスを保ちたかったらしい。






 救護所に着くとママ殿が椅子にもたれてうたた寝している。

 治療魔法の使いすぎで疲れ果てた様子だ。


 ニャルミが「分かっているわね」とでもいった顔で僕を見る。


 はいはい、アレをやれというのですね。

 僕はママ殿の膝に座ると、ママ殿の最大魔力を測りながら魔力を注いでいく。

 今日は緊急じゃないので落ち着いてできるから気が楽だ。

 ニャルミにやったときは加減が分からず全力を注ぎ込んでしまったからね。


 さて、あんまりあからさまに回復させちゃうと不自然かな。

 七割、いや八割くらいに留めておくか。


 終わったよとニャルミに合図を送ると、再び抱き上げられた。

 そして何事もなかったかのようにママ殿を起こす。


「ママ、起きて。お昼ごはん持って来たよ。一緒に食べようよ!」


「あら、ニャルミ。わざわざ届けてくれたのね、ありがとう。

 うーん、よく寝たわぁ。なんだかとても元気になった気がするの。

 ひょっとして、ニャルミが来てくれたおかげかしらね」


「ふふふ、そうかもね」


 おいおい、僕が頑張ったんだんだよ。


「よし! ご飯食べたら頑張るわよ。

 これなら今日中にみんな家に帰れそうよ。もちろんママもね」


 ニャルミが本当に嬉しそうに笑った。

 強がってはいるが、ニャルミもまだまだ甘えん坊なんだな。




 治癒の様子を遠くから少しだけ観察してみたが、それはとても一朝一夕で習得できるものだとは思えなかった。


 と言うよりも、あまり真似したくなるようなタイプのものではない。

 何かにそれを例えるなら、編み棒を使った編み物に似ていると言えるだろう。

 時間をかけてひたすら根気よく地味な作業を繰り返すイメージなのだ。


 治すというのは大変なことなのだなと実感させられた。


 その代わり魔力消費が少ないのが救いであり、ママ殿一人でもどうにかなっているのはそれが理由らしい。



 能力カタログには、魔力を一気に注ぎ込んで治すという方法もあると載っていたはずだ。

 だが記憶が正しければ、今のママ殿のやり方のほうが長期的には良いと記されていた。


 過剰再生で組織が肥大してしまうため、見た目が良くないばかりでなく時には肉体機能に差し障りが出たりするからだそうだ。

 それは自然治癒でもそうか。傷跡が盛り上がったりするよね。


 もちろん緊急時には魔力をドカンとつぎ込んで治す方が良い。

 まあどちらも一長一短ということだろう。


 とりあえず治癒魔法は後回しでいいや。



 僕らはおみやげにお菓子を渡されて帰された。

 差し入れにもらったが、食べきれなくて困っているらしい。






 帰り道は僕の話を聞きたいと、ニャルミが言い出した。


 僕も神様との話をしたかったのだが、残念なことによく思い出せない。

 それをどうにか伝えると、ニャスターも大変なのねと同情された。



「それでニャスターはどこの世界から来たの? それも分からない?

 わたしは地球という星の日本というところに住んでたみたい」


「ニャー」

 今さらだけど僕も同じだよ!


「え? ニャスターもそうなの?! わたし一人じゃなかったんだ、嬉しいな!

 ニャスターも日本語が分かるんだ!

 それならウィジャ盤みたいなのを作ればお話ができるよね。

 こっちの世界の文字を教えるついでに、帰ったら早速作ってあげる」


 どうやら言葉の問題もなんとか解決しそうだ。

 それに同じ日本育ちという親近感のおかげで、ニャルミは孤独感から少し解放されたようだ。


「あらためてよろしくね。ニャスター」


 ニャルミの顔に少しずつ元気が戻ってきた。

 もちろん今でも充分明るいのだが、初めて会ったころのような無鉄砲さは感じられない。

 記憶が戻って落ち着いたということだろうか。

 また無茶をされても困るから、このくらいがいいのだけどね。






 あくびをしたくなるような穏やかな昼下がりに、僕は少しだけ遠回りをしたくなった。

 そんなお願いをニャルミは快く聞いてくれる。


「何よ、もうホームシックなの?」


「ニャーン」

 違うよ、元気でやってるよって挨拶したいだけだよ。


「隠したって駄目よ、分かってるんだからね。

 恥ずかしがらなくったって良いじゃない」


「ニャ、ニャー」

 まあどうだっていいじゃない。せっかく近くに来たんだし。


「んもー、仕方ないにゃあ。この甘えん坊め!」


 だがそうやって僕を冷やかすニャルミは、僕にとてもやさしかった。




 記憶が戻って混乱する感じは、多分ホームシックによく似ているのだろう。

 ここが自分の居場所じゃないような気がして不安になるのだ。

 ニャルミの気持ちが少し共感できたような気がした。


「ニャーン」


「いいのよ、お礼なんて。

 ニャスターだってさっきママに力を貸してくれたじゃない。

 みんな助け合って生きてるのよ。……ってパパが言ってたわ。

 だからお返し。ちょうど手土産もあるしね」


 そっか。たいしたことをしたつもりじゃなかったんだけど、それでニャルミが喜んでくれるなら僕も嬉しいよ。






「あら、ニャルミお嬢様じゃありませんか。こんにちは」


「こんにちはニコルさん。

 近くまで来たのでちょっと寄らせてもらったのだけれどご迷惑でなかったでしょうか。

 ニャスターがさびしそうにしてたので、ちょっとだけお母さん猫に会わせてあげようかなって」


「ニャルミ様が尋ねてきてくださるなら、それは我が家の誉れですよ。

 いつでもお越しくださいませ。

 ささ、こちらへどうぞ。今お茶をお出しします」


「すいません、急におしかけてしまって。

 お菓子をいただいたので、よければお召し上がりください」


「ああこれはありがとうございます。

 御持たせで恐縮ですが、早速お出しいたしましょう。

 先日大層な物をいただいたばかりですのに申し訳ない」


「いえいえ。それと猫の飼い方についてもう少しご教授していただけますか」


「はい、それはもちろん喜んで。

 それにしてもこの数日でずいぶんと仲良しになられたみたいですな。

 むしろそのコツを教えて欲しいくらいですよ」



 突然の訪問にもかかわらず、見慣れた家の人たちが温かく出迎えてくれる。

 お母さん猫は僕のことを毛繕いしながらゴロゴロと喉を鳴らす。


 そんな僕らを見ながら、ニャルミたちは笑顔でたわいのない話を交わしている。

 魔物からこの街を救うことができて本当に良かったなと感じる。


 何でもない日常がとても幸せなものだと思えてくる。

 あの戦場で見たさびしそうな笑顔でなく、こうして本当に喜んでいる顔をまた見せて欲しいよ。



 ああそうだ、今度マッグーロパーティがあるんだ。みんなでお腹いっぱい食べようか。

 そうしたら、またみんなの笑顔が見られるね。




ご褒美編はここまでで、次からは解読編の予定です

またストックがなくなったので少しお休みします

もし「ニャー」と一言だけ感想をいただけるなら、その分早めに帰ってきます


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