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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
12/57

ご褒美編 その一

 戦後処理というものはある意味ドラゴン退治よりも厄介だ。



 ニャルミへの謝辞と賞賛のラッシュが落ち着いたころのことだ。

 一人の兵士が「これからどうすべきか命令を賜りたい」とニャルミに尋ねた。


 すると口火を切ったように、周囲の者たちがニャルミの指示を仰ごうと押し寄せてきた。


 パパ上殿が不在の今、あれだけのことをやり遂げたニャルミに全てまかせてしまいたくなるのが人情というものなのだろう。

 それは分からなくも無い。

 しかし相手は年端も行かぬ少女だぞ。

 過度な期待を寄せるんじゃないよ。



「ニャルミ様、念のため偵察を出して安全を確認すべきです」

「山火事の恐れがあります。消火に人員を割いていただきたい」

「負傷者を運びきれません。どのようにいたしましょう」

「炊き出しの準備を任されていたのですが、ブレスで食料品が駄目になりました」

「僭越ながらここは危険かと、至急詰め所まで撤退すべきかと」

「ドラゴンや子鬼の資源保全が急務です。措置の許可を」

「戦闘用の物資が不足しております。特に矢玉がほぼ尽きております」



 要するに、人員がとても不足しているらしい。


 それらの進言を一通り聞き終えると、ニャルミはみんなを制するように両手を挙げて話し始めた。



「みなさん、落ち着いて聞いてください。

 まず、今回の一連の襲撃の原因ですが、それは間違いなくあのドラゴンです。

 それがこうして退治された今、しばらく魔物の襲来はないと見て良いでしょう。

 したがって戦闘の準備や偵察への人手を他にまわすことができます。

 これで急場は凌げるはずです。

 念のため、わたしとニャスターとで魔力探知による偵察を行います。

 ドラゴンを発見できたわたしたちですから、信頼していただけると思います。

 そういったことなので、当面は負傷者の治療と消火を優先します。まず……」



 ニャルミが細かい指示を出していく。

 自信に満ちたその物言いのおかげで、みんなは安心を取り戻したようだ。



 それを横目で見ながら、僕は魔力探知で敵の偵察を試みる。

 魔力が空っぽの僕にこんなことをさせるなんて無茶振りもいいところだ。

 しかしみんなが必死で頑張っているのを見せられてはしょうがない。

 かなりしんどいのだが、狭い範囲に区切ってゆっくりやっていけばなんとかなりそうだ。

 それにしても全く猫使いが荒いぜ。




 重傷者だけを詰め所へと運び、ママ殿の治療を受けてもらう。

 軽傷者のためには簡易テントを設営し、救護兵に措置を任せる。

 さらにドラゴンのブレスで燻っていた木々を処置する。


 緊急を要することだけとはいえ、その仕事は意外と多い。

 さらに実際には他に平行してやらねばならぬいくつかのことがあり、持てる人員をフルに使っていても終わりが見えてこない。


 例えば食事の用意だ。人がそれだけ働けば当然お腹が空いてくる。


 腹を満たすため、水で薄めたスープが配られ始めたが不評のようだ。

 屋敷かどこかに備蓄してあるだろう食糧を持って来れればいいのだが、少し距離が遠いらしく調達に時間がかかるらしい。


 ニャルミが何かいいたげに僕を見る。

 はいはい分かりましたよ。こういうときは肉が一番ですよね。


 僕はしぶしぶ近場の森の中を探ってみる。

 そういえばドラゴンが来る前、イノシシらしきものを見つけたな。

 あれはどの辺りだったっけか。


 思ったよりも近場だったその場所をニャルミに教えると、すぐさま弓隊を中心として二十名ほどの狩猟班が組織された。


 彼らはたいまつを片手に意気揚々と出発していく。

 夜中であるにもかかわらず、ものの三十分ほどで彼らは無事巨大な獲物を担いで帰ってきた。

 その早すぎる狩の理由は、正確な場所が分かっていたからか、あるいは食欲という原動力が大きく働いたからか。

 いずれにしろあれなら全員に十分な量がいきわたるはずだ。




 狩猟班の帰還でみんなは盛り上がる。

 その喜びようからして、イノシシはご馳走であるらしい。


 すぐにその肉が切り分けられ、その端から次々に炙られていく。

 その一番おいしいところ、おそらくヒレ肉がニャルミに届けられた。


「おいしい! みんなも遠慮しないで食べて! ニャスターも一口いかが?」


 小さく切って食べさせてもらうと、柔らかいその肉はとろけるように噛み千切れる。

 そしてそのたびに旨味たっぷりの肉汁があふれ出て、喉をすり抜けてゆく。

 これは一度食べたら病みつきになる味だ。



 みんなもこの美味さを知っているのか、焼かれた先から次々とみんなの胃袋におさまっていく。

 作業中の者たちや、怪我で動けない人たちのもとにもどんどん配られていく。




「ニャー」


「何? もっと食べたいの?

 仕方ないにゃあ、今切ってあげるからちょっと待っててね。

 あ、ちょっと大きかったかな。ええいこれはわたしが食べちゃえ」


「ニャー!」


 お腹が満たされたからだろうか、ようやくみんなから笑い声が聞こえてくるようになった。

 どうやら知らず知らずのうちに、山場を乗り切っていたらしい。






 空が白み始めたころ、パパ上殿がようやく戻ってきた。


「ニャルミ、みんなをまとめてよく頑張ってくれたようだね」


「パパ! 良かった! 大変だったんだよ!」


「うんうん、分かっている。

 そうそう、ご褒美をあげる約束だったね。

 何か欲しいものがあったら、今のうちになんでも言っておきなさい」


「本当? なんでもいいの?」


「ああ、もちろん。たいていのことならかまわないよ。

 ドラゴンの素材も手に入ったからね」


 するとニャルミはとんでもないことを言い出した。


「じゃあね、ニャスターとお話できるようになりたいな。

 パパならどうにかできるわよね」


 パパ上殿はそれがどうにも無理なことだと思ったのだろう。

 別のことに気を向けさせようとニャルミに問いかける。


「うーん。どうしてニャスターとお話したいんだい?

 お友達が欲しいのかい?」


「ううん、ニャスターと結婚するの。

 ママがそうしなさいって言ってた。

 魔法がむにゃむにゃ」


「え、結婚?! ママがなんだって? おい、ニャルミ!」


 パパに会えて安心したからか、ニャルミは電池が切れたように眠ってしまった。


 ニャルミが言いかけたことが気になるが、おおかた魔法の得意な人を旦那様にしなさいとか吹き込まれたのだろう。


 それにしてもまさか求婚されるとは思ってもいなかった。

 僕猫だよ、それでもいいの?


 パパ上殿が僕を見るその表情から推測すると、どうやら子供の戯れ言だと思っているようだ。


 さて、後のことはそんなパパ上殿におまかせすれば大丈夫だね。

 僕もニャルミに続いて、気を失うように寝てしまった。




2014.08.02 修正 自身→自信

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