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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
1/57

神様編 その一

 揺らめく水面に写る猫を覗くように、おぼろげに浮かび上がる遠い記憶。

 まどろみの中、誰かが僕に話しかけている。

 あるいは僕が誰かに話しかけているのかもしれない。


 意識を凝らすと、次第にはっきりとその声が聞こえてきた。



 *



 さて、先ずは一番印象に残っておる子の話をしようかのう。

 手続きが楽……いやすごく優秀だった子の話じゃ。






 その子も突然見知らぬ場所に呼び出されたせいで、やはり少し戸惑っておった。

 じゃがワシの存在に気付くと、すぐに平静を取り戻した。


 場合によってはここでひともんちゃくあるからのう。

 このあたりからしてすごく楽チン……いや利発な子だというのが分かったんじゃよ。


 まあそんなわけで、ワシはいつもどおりに話しかけたんじゃ。



「ワシは神様じゃ」


「?」



 目の前の子は首を傾げおった。



「お前が望むなら、異世界に転生させてやってもよい」


「!」



 今度はいかにも興味ありげな顔でワシを見おった。

 それを肯定と受け取り、ワシは説明を続けた。



「今からおよそ十年後、とある異世界で魔王が復活すると予測されておる。

 神々はその災厄を防ぐために、さまざまな努力をしておるのじゃ。

 だがどうやら残念なことに、復活は阻止できないらしい。

 そこで我々は今、その地で勇者となり魔王を倒してくれる者を探しておるんじゃ。

 つまり、お前がその候補者に選ばれたというわけじゃ。わかるかのう?」


「?」



 今度はあからさまに不服そうな顔をされてしまったんじゃよ。

 意外に思うかもしれんが、だいたいはこんな反応じゃのう。




 まあ稀にじゃが、魔王を倒せと言うと、やる気を見せる子もおるにはおる。


 だがそれはあくまでもレアケースじゃ。

 仕事と報酬という見方からすれば、報酬の部分がすっぱ抜けておるからのう。


 だからここであまり間を置かず、次の説明に移るのがコツじゃ。

 つまり報酬の話をしてやるのじゃ。




「もちろん転生に伴い、神の恩寵を授けよう。

 今時の若い者には、チート能力と言った方が分かりやすいかのう。

 とはいえ無制限に能力をやれるわけではない。

 これからお前に見合った転生ポイントを授ける。

 そのポイントと引き換えに、好きな能力を選んでよいぞ」


「!」



 ここでワシは能力カタログを手渡した。

 知っての通り、それには古今東西のさまざまなチート能力が詳細に記載されておる。



 体力増強や魔力強化、魔法各系統とそれらの無効化能力、再生能力に物理反射。

 各種身体変化系能力に加えてありとあらゆる魔眼、さらに分身、神器や高性能ペット。

 スキル操作系や時空間操作系も漏れなく取り揃えておる。


 もちろん戦闘系以外の能力もよりどりみどりじゃ。

 金運上昇や魅了、長命などは言うまでもなく、製作能力全種も魔力付加もばっちりじゃ。

 定番どころの鑑定や飛行、嘘を見破る能力などもきちんと押さえてある。



 そんなわけで、大抵の子はカタログを読むのに夢中になるんじゃよ。

 魔王討伐のことで抱えていた不満や不安なんぞ忘れてしまう子が大半じゃ。

 なんせ魅力的な能力がズラリと並んでおるからのう。



 ああ当然ながら全部は選べんよ?

 各人ポイントの許す範囲内でじゃ。




 そういうわけでのう、ほぼ全員がこのポイント振り分けでかなり悩むんじゃよ。

 悩むといっても、嬉しそうな表情を浮かべながらじゃがのう。


 例に漏れずその子も、キラキラと輝くような顔つきでカタログを読みふけっておった。




 さて、普通はここで質問がいくつも飛んでくるのじゃ。

 それに答えてやることがワシの重要な仕事じゃのう。


 そう聞くと面倒そうに思えるじゃろう?

 それがそうでもないんじゃ。

 大事なことを一つだけ覚えておけばよいのじゃ。




 それは、『候補者が選んだ能力で使命をまっとうできるかどうか』じゃ。




 それを念頭に置いて考えれば、質問を受けても答えは自然と出てくる。


 ……まあ能力の仕様的な話をされると、それだけでは答えられんかも知れん。

 だがそういうことは、カタログに詳しく記載されておる。

 だからそれを示してやればよい。丸投げでよいのじゃ。



 さて話を戻そうかのう。




 この子の場合、そんな質問が一切出てこなかった。


 質問がないのは楽で助かるんじゃが、逆にそれは要注意なんじゃよ。

 よく分かってないから質問できない、そういう状況にあるのだと疑うべきじゃ。



 実際にそういうときは、能力選択に問題がある可能性が高いのう。


 多くの場合、目的を達成できそうもない趣味丸出しの能力ばかり選んでおる。

 あるいは、能力が打ち消しあって無意味なことになっておったりするのう。



 まあそんなわけで、きちんとチェックしてやらんといかん。

 質問無しは注意信号、これは何にでも通じることじゃ。覚えておいた方がいいのう。



 それはさておき、この子が選んだ能力は勇者としてお手本のような組み合わせじゃった。

 よく分かっているから質問がない。そういうパターンじゃった。



「うむ、感心じゃ。これなら安心して送り出せるのう。

 では最後の確認じゃ。世界の運命をお前に託してもよいかの?」


「!」


「では頼んだぞ」




 これで一人分の手続きが完了なんじゃよ。

 ただここまで簡単に終わるのはすごいレアケースだと思って欲しいのう。






 ついでじゃし、手続きのやり取りをもう一例紹介してやろうかのう。

 ワシの記憶に鮮明に残っている子がもう一人おる。


 今話した子のすぐ次にやってきた子じゃ。

 その話をして進ぜよう。






 その子は今時珍しい黒髪ロングの女子高生だった。

 眼鏡をかけ読みかけの本を小脇にかかえたその姿は、委員長と形容するに相応しいのう。


 さてその委員長は、ワシに気がつくといぶかしげに睨んできおった。



「ワシは神様じゃ」


「………………えーと、もしかして、ナンパでしょうか?

 お断りです。他をあたってください」


「お前が望むなら、異世界に転生させてやってもよい」


「え、まだそのネタ引っ張るんですか。人を呼びますよ?

 というかここはどこですか? あなたが連れてきたんですか?

 未成年者略取及び誘拐罪ですよ。通報します、しました」



 その勢いにワシは心が折れそうになったが根気よく話を続ける。

 あくまでも事務的に感情を出さずにのう。

 テンプレに沿って話を進めるのが、ストレスをためないコツじゃよ。



「今からおよそ十年後、とある異世界で魔王が復活すると予測されておる。

 神々はその災厄を防ぐために、さまざまな努力をしておるのじゃ。

 だがどうやら残念なことに、復活は阻止できないらしい。

 そこで我々は今、その地で魔王を倒してくれる者たちを探しておるんじゃ。

 つまり、お前がその候補者の一人に選ばれたというわけじゃ。わかるかのう?」


「さきほどから会話を録音中です。これは証拠として提出されます。

 今すぐわたしを解放してください。戯れ言につきあっている暇はありません。

 そういうプレイがお望みなら、しかるべきところでお金を払って楽しんでください。

 わたしを巻き込まないでください。

 だいたい初対面の相手に『お前』って失礼じゃないですか。

 言動の端々から他人を見下したような態度がにじみでていて不快です。

 ちょっと! ちゃんとわたしの話を聞いてますか?」



 お前って呼んでもいいと思うじゃろう? だってワシは神様だもの。

 このお嬢ちゃんの言うことは分からないこともないけど、仕方ないんじゃよ。

 神様の威厳を保つためにも、そういう線引きが必要なんじゃ。



「いや、じゃからワシは神様で……」


「あ、もしもし、おかあさん? 今変な人にからまれちゃって困ってるの。

 そう、そうなの。うん、警察には通報済み。以前からマークしてた人なんだって。

 場所もばれてるから大丈夫。あ、狙撃班が配置についたみたい。

 うん、平気、安心して。じゃあちょっと待っててね。あ、おみやげ何がいい?」



 人の話を聞けと言ったくせに、神様の話は聞かないとは全くどういうことじゃ。

 まあそうじゃのう。話を聞けと言う人こそ、他人の話を聞かないものじゃ。

 一瞬でも期待してしまったワシが馬鹿じゃったよ。


 それにしても、ここは携帯などつながらないはずなんじゃ。

 小芝居じゃのう。強がりじゃのう。すまんのう、怖がらせて。


 そう思ったら、もうちょっとだけやさしく接してあげようという気持ちが芽生えた。

 そこでワシはできるだけにこやかな表情で話しかけたんじゃよ。



「あのぅ、ちょっといいかのう……」



 じゃがそんな思いは無駄じゃったようなんじゃ。



「ちょっと! 出口はいったいどこにあるんですか!

 いえ、答えなくていいです。勝手に探します。

 それと、念のために警告しておきます。

 あなたが私に近づいた瞬間、特殊部隊CATが突入する手はずになっています。

 命が惜しければ、動かないでそのままじっとしていてください。

 もう話しかけないでください。こっちを見ないでください」



 ………………まああれじゃ。

 少女にはまだワシの話を聞く準備が整っておらんかったのじゃ。



 仕方ない。



 ワシは少女のお望みどおり、目を閉じて黙り込む。

 まあそうしていても周りの様子は手に取るようにわかるがのう。だって神様だもの。


 それにしても特殊部隊CATのことがものすごく気になるのう。

 お前さんは知っておるかのう? むう、知らないのか。残念じゃのう。


 さて、少女はそんなワシをちらりと見ると、あたりを捜索し始めた。



「わたしこういう探し物得意なのよね。

 俄然やる気が出てきたわー」



 少女はワシにわざと聞こえるように独り言をつぶやいた。

 だがだんだんとそれが弱気なものへと変わってくる。



「そんなぁ、どうしてどこにも出口がないの…………」



 それはいつしかワシへの問いかけに変わっていた。



「早く出口を教えたほうがいいわよ! 罪が軽くなるわよ」



 しかしまだワシと対話する気はないようじゃ。

 少女はこちらを背を向けつぶやいておる。


 しかし次第に少女の態度は軟化してくる。

 横を向きながら呟くようになり、やがてはワシを見て話すようになった。



「こんなところに閉じ込めて、わたしをどうする気?

 いいえ、言わなくても分かってるわ。

 乱暴する気でしょう? ノクターンのエロ小説みたいに……」



 おいおい、ノクターンって何のことじゃよ。

 あれは十八禁じゃよ? お嬢ちゃんまだ読んじゃダメじゃよ!

 それにノクターンは男性向けじゃ! 女性向けはムーンライトじゃよ!

 だからといって十八歳未満の閲覧は禁止じゃからな! 注意じゃぞ!




 話が逸れた。

 本音を言えば、こんな子はさっさとお断りしたいところなんじゃ。


 じゃが、ワシはくさっても神様。

 ダメな子に即NGを出して切り捨てることは神様じゃなくてもできる。


 罵詈雑言に耐える忍耐力と、やる気のない候補者を説き伏せる熱意。

 それが神様には必要なのじゃ。




 さて、そうこうしているうちに、ようやく少女も話を聞く気になったらしい。

 ワシに正対すると、やや諦めたような口調でこう言った。



「分かりました。わたしも決心をつけました。

 でも条件をつけさせてください。

 まず、神様がどうのこうのというのだけは勘弁してください。

 そして終わったらすぐにわたしを解放すること。

 この二点を守ってくれるのなら………………、えーと、その、抵抗はしません!

 は、はじめてなのでやさしくしてくださいね」



 あれ……、どうにも誤解があるようじゃ。


 少女は口元に手をあて、恥ずかしげにもじもじと体をくねらせている。

 そ、そろそろいいかの。ちょっと話しかけてみようかのう……、ゴクリ。


 あ、いや、このタイミングで何か喋ったらいろいろと誤解されちゃうのう。

 違うんじゃよ? エッチなことなんかこれっぽっちも考えておらんのじゃよ?


 本当じゃよ!? その証拠にワシは話しかけるのをためらっておったんじゃ!

 すると少女は……。



「どうして黙っているの? 何か言ってください。寝てるんですか?

 ひょっとして、これもプレイの一つなのですか。放置プレイですか。

 どれだけ性癖ゆがんでるんですか。もしかしてわたしじゃ不満なんですか。

 えーん。分かりましたよー。なんでも言うこと聞きますから助けてくださいよー」



 そう言って泣き出してしまった。

 ワシはあわてて少女をなだめる。



 そしてようやく従順になった少女に、ワシはあらためて異世界転生の説明をしたのじゃった。




「にゃー」と一言感想をいただけると作者が喜びます

感想返しも「ニャー」だけの予定です

なのでお気軽に「にゃー」していただけると嬉しいです


2014.10.05 修正 「。」追加 ワシ→ワシは

2015.03.12 「ニャー」だとエラーになるそうなので「にゃー」に変更


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[良い点]  読み始めましたにゃー
[一言] にゃー
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