四
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シエラは、涙を流して震えていた。
脳内に流れていた映像は、恐らくウエーバーの過去だろう。魔物を疎み、憎み、嫌う彼の、哀しい過去。どうして彼がそこまで魔物を憎むのか、その理由は分かった。もし自分だったらと思うと、恐ろしくてたまらない。
――ウエーバー……。
旅の最初の頃、クラウドが魔物にやられたとき、彼は異常なほど怯えていた。恐らくは、今見た過去が原因なのだろう。六歳で両親を失った少年が、今に至るまでの経緯は分からない。けれど、彼の心の傷は今でも深いままだ。
シエラが目の前に広がっている虚空をぼんやりと見つめていると、急速に景色が変わりはじめた。暗闇は千々に分かれ、元いた神殿が隙間から見えてくる。
シエラはウエーバーの姿を探した。けれど、求める少年の姿は無い。クラウドや他の仲間たちは、そこにいるのに。彼だけが、そこにいない。グラベボも、この場にはいない。シエラの頬を、冷や汗が伝う。その時、イヴが小さく鳴いた。何かを訴えかけるかのように、鳴いた。シエラは視線を持ち上げる。クラウド達も、上を見る。
「アレは……」
そこには、深い闇があった。球体となり、静かに宙に浮いている。シエラ達を飲み込んだ先ほどの渦と、恐らくは同じ性質のものだろう。大きさは、直径二メートルほどだ。
「きゅーん……」
「あの中に、ウエーバーはいるの?」
シエラはイヴに尋ねる。イヴは深い蒼の瞳でシエラを見つめ返した。
――助けないと。……ウエーバーを、助けないと。
彼を闇の中から、一刻も早く。シエラは一歩、また一歩、闇に向かって歩き出す。すると、力強く腕を引っ張られた。
「コトノ……?」
シエラの腕を掴んだのは、コトノだった。コトノは真剣な眼差しで、静かに首を横に振った。
「あの闇に、近づいてはならぬ」
その言葉に、シエラは目を丸くする。
「アレは、ディアナの小僧が生み出したもの。いわば、小僧の心そのものだ。……霊獣は心に敏感な生き物故、あの小僧の暗い部分に反応してしまったのじゃろうが、今、あの闇に手を出すことは、誰の為にもならぬよ」
諭すように言われ、シエラはじっと闇を見つめた。すると、いつの間にか隣にクラウドが立っていた。
「……もしかしたら、これはあいつへの試練なのかもしれねぇな」
「クラウド……」
「信じて、待とうぜ。あいつが、ちゃんと向き合って、あの中から出てくることを」
「……うん」
シエラはクラウドの言葉に頷く。今はただ、前を向いて待つことだけが、シエラ達にできることだから。
――ウエーバー……。
心の中で名前を呼び、シエラは祈るような気持ちで、目の前の闇を見つめた。




