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リディア―世界の中で―  作者: 知佳
第十二章:異
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****


 シエラは、涙を流して震えていた。

 脳内に流れていた映像は、恐らくウエーバーの過去だろう。魔物を疎み、憎み、嫌う彼の、哀しい過去。どうして彼がそこまで魔物を憎むのか、その理由は分かった。もし自分だったらと思うと、恐ろしくてたまらない。

 ――ウエーバー……。

 旅の最初の頃、クラウドが魔物にやられたとき、彼は異常なほど怯えていた。恐らくは、今見た過去が原因なのだろう。六歳で両親を失った少年が、今に至るまでの経緯は分からない。けれど、彼の心の傷は今でも深いままだ。

 シエラが目の前に広がっている虚空をぼんやりと見つめていると、急速に景色が変わりはじめた。暗闇は千々に分かれ、元いた神殿が隙間から見えてくる。

 シエラはウエーバーの姿を探した。けれど、求める少年の姿は無い。クラウドや他の仲間たちは、そこにいるのに。彼だけが、そこにいない。グラベボも、この場にはいない。シエラの頬を、冷や汗が伝う。その時、イヴが小さく鳴いた。何かを訴えかけるかのように、鳴いた。シエラは視線を持ち上げる。クラウド達も、上を見る。

「アレは……」

 そこには、深い闇があった。球体となり、静かに宙に浮いている。シエラ達を飲み込んだ先ほどの渦と、恐らくは同じ性質のものだろう。大きさは、直径二メートルほどだ。

「きゅーん……」

「あの中に、ウエーバーはいるの?」

 シエラはイヴに尋ねる。イヴは深い蒼の瞳でシエラを見つめ返した。

 ――助けないと。……ウエーバーを、助けないと。

 彼を闇の中から、一刻も早く。シエラは一歩、また一歩、闇に向かって歩き出す。すると、力強く腕を引っ張られた。

「コトノ……?」

 シエラの腕を掴んだのは、コトノだった。コトノは真剣な眼差しで、静かに首を横に振った。

「あの闇に、近づいてはならぬ」

 その言葉に、シエラは目を丸くする。

「アレは、ディアナの小僧が生み出したもの。いわば、小僧の心そのものだ。……霊獣は心に敏感な生き物故、あの小僧の暗い部分に反応してしまったのじゃろうが、今、あの闇に手を出すことは、誰の為にもならぬよ」

 諭すように言われ、シエラはじっと闇を見つめた。すると、いつの間にか隣にクラウドが立っていた。

「……もしかしたら、これはあいつへの試練なのかもしれねぇな」

「クラウド……」

「信じて、待とうぜ。あいつが、ちゃんと向き合って、あの中から出てくることを」

「……うん」

 シエラはクラウドの言葉に頷く。今はただ、前を向いて待つことだけが、シエラ達にできることだから。

 ――ウエーバー……。

 心の中で名前を呼び、シエラは祈るような気持ちで、目の前の闇を見つめた。




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