幕間
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グレイは、目の前で金の十字架に触れる女性に微笑みかける。しかし女性は哀しげに柳眉を寄せていた。
「ついに、適合者がルダロッタに辿りついたそうよ」
「……そう、か。やっと、折り返し地点にきたんだね」
グレイは窓の外へと視線を走らせる。穏やかに流れていく雲の白さが、やけに眩しく感じた。
「私は、準備できてるわよ。いつでも動けるわ」
女性はグレイの肩に手を這わせ、妖艶な微笑みを浮かべている。グレイは彼女の薄桃色の髪の毛を救い上げ、毛先にキスを落とした。
「この数年、君は本当によく働いてくれたね。ありがとう。……だから、もう少し、俺の我侭に付き合ってほしいんだ」
「勿論よ。最後まで付き合わせて?」
女性はグレイの背中に腕を回すと、子供をあやすように優しく抱きしめる。
「私は、あなたに出会ったあの日から決めたの。だから、私はあなたの手となり足となるわ」
グレイは女性の言葉を聞きながら、今聞こえるこの心臓の鼓動を、柔らかな温もりを、どうしようもなく空しく感じていた。
何度も繰り返した“どうして”が、心の奥でとぐろを巻く。
「……なら、俺は君の為にもゲームに勝たないといけないね」
微笑んでそう言えば、女性は「あら?」と少し非難めいたからかう声を上げた。
「あなたの全ては、リディアの為にあるんじゃなくて?」
「意地悪な言い方だなぁ」
グレイは眉を下げて、女性の手を取る。今度はその掌にキスを落とした。女性はその仕草を遠い目で見つめながら、ゆっくりとグレイから身体を離す。
「……そろそろ、行くわ」
女性は白い手袋を両手に嵌めて、そっとグレイの頬に指を這わせ、そこに優しいキスを返す。
そして扉に歩み寄り、ノブを捻った女性に、
「いってらっしゃい――ルミーナ」
グレイは淡い微笑を送った。




