七
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シエラは舞台から降りてきたクラウドと、満面の笑みでハイタッチを交わす。これでシエラたちは準決勝へと駒を進める事が出来た。
次の相手は昨年の準優勝チームであるブルームだ。カイザーズとバレンダスも先ほどの準々決勝を勝ち上がっている。シエラたちの試合の前に、この二つがぶつかるのだ。
「さっき、彼らは中々に暑苦しい事をしてくれたからね。見ものだよ」
サルバナの言葉にシエラは苦笑いを浮かべる。先ほどあった宣戦布告を見ていないシエラとユファだけれど、彼らのこの試合への意気込みはよく分かる。
――私たちも、負けてられないけどね!
シエラは握りこぶしを作り、一旦控え室へと続く通路へと降りた。ここならば日陰で、しかも試合をゆっくり観戦できる。勿論、これから登場するカイザーズかバレンダスのどちらかとは鉢合わせになるが。
すると控え室の扉が開き、現れたのはアギヤ率いるバレンダスだった。彼らはシエラたちを見ると不敵に微笑み、アギヤに至ってはクラウドに手を差し出してきた。
「さっきの試合、良かったぜ。それに初参加で準決勝に進むたぁ、近年稀に見るダークホースっぷりだ」
「そりゃどうも」
クラウドはアギヤの手を握り返し、鋭い視線を彼らに向ける。
「はは、そう殺気立つなよ。……まだ、俺たちが当たるとは限らねぇんだぜ?」
その挑発ともとれるアギヤの発言を、クラウドは鼻で笑った。アギヤは余裕の笑みを崩すことなくクラウドから手を離すと、今度はシエラに視線を向けてくる。
「リーダーのお嬢さんが、決勝では出てきてくれる事を願ってるよ」
アギヤはそう言うと、仲間を率いて舞台へと出て行った。
――赤い短髪にしなやかな筋肉……かぁ。
シエラは間近で見たアギヤの体躯を脳裏に焼き付ける。他のバレンダスの面々もそれなりに筋肉を持っている事がはっきり分かる。バレンダス、カイザーズ、ブルームの三チームはメンバー構成比率が同じだが、その中でもやはりバレンダスは個々の能力が高い。男性三人に対して女性一人。そんな構成なのだが、どこも女性が男性並の実力を持っている。
バレンダスが舞台に上がった途端に湧き上がる歓声も、彼らの人気と強さを裏付けている。一方でカイザーズの面々は、どことなく険しい表情をしている。
「おいおい、フロレンよー。そんな固い表情すんなって。もっと楽しもうぜ」
「あぁん!? こっちは去年も準決勝でてめぇらに負けてんだぞ!! んな楽しんでなんてられっかよ!」
アギヤの能天気な笑顔にカイザーズのリーダーであるフロレンは思いっきり顔を顰めてみせた。しかしアギヤは笑みを崩すことなく、片手を上げる。
「それじゃ、俺たちはいつも通り楽しませてもらうわ」
その一言にフロレンは大噴火寸前だ。慌ててワイズが「火花が激しく散っております! 皆さんお待ちかねの準決勝第一回! カイザーズVSバレンダス第一試合開幕です!!」と空気を少しだけ和らげる。
結果として、カイザーズの面々を焚きつける材料にしかならなかったが。第一試合は女性対決。それぞれの紅一点同士がぶつかりあう。しかも客の中には二人のファンもいるらしく、しきりに名前が叫ばれている。
「うっわぁ、凄いね……。皆なんでそんな元気なの」
シエラの呟きは、そんな凄まじい観客の声援に呑まれてしまった。ワイズのカウントに合わせて、双方腰を落とす。そして「ファイト」の叫びで、二人は一気に前に飛び出した。激しい武器のぶつかりあいに、シエラは目が釘付けになる。鞭と鎖鎌。異色の組み合わせだが、とてもレベルの高い戦いを繰り広げている。
片方が仕掛けてきたかと思えば、既に片方は反撃の準備を整えている。
――……なにこれ。
シエラは唖然としたまま成り行きを見る事しかできない。素早く、それでいて力強い戦い方は、まるでクラウドやバイソンのようだと思った。暫し見惚れていてシエラだったけれど、すぐに大歓声によって現実に引き戻される。見れば、鎖鎌を使っていたカイザーズの女性が地面に倒れこんでいる。バレンダスの女性の鞭は、どことなく青白く光を帯びていた。
「出ました! マシュラの必殺技、アイス・フィップス!! サザンもこの技の前にはやはり負けてしまうのか!?」
ワイズの解説にまた会場が沸き起こった。
バレンダスの紅一点マシュラが鞭を振るうと、途端に鞭が何もない空間で反射し出しす。鞭は反射を繰り返し、まるで茨に閉ざされたような空間が出来上がる。しかも段々と鞭から氷柱が出現しているではないか。中央に倒れこんでいるカイザーズの紅一点サザンは、傷ついた腕で鎖鎌を握りなおす。鎌で鞭を引き裂こうとするものの、反射を続ける鞭に四肢を切り裂かれた。
「くっ……!」
しかしこれでサザンも終わるわけがなかった。彼女は鎖鎌を頭上で回転させると、その刃に電流を迸らせる。
「きました! サザンのエレクトリック・ターンです!」
氷と雷が激しくぶつかり合い、茨のフィールドの中心で二人は交錯した。轟音と閃光に会場が包まれ、シエラも慌てて手で視界を覆う。
「一体どちらが勝ったのか!? 視界が覆われてその確認が出来ません! 果たして勝者は、マシュラか、サザンか!!」
ワイズの興奮した声と共に、段々と視界が開けてくる。人影は一つ。つまり勝敗は決したのだ。果たしてどちらか――。
「マシュラです! 立っているのはバレンダスが紅一点、マシュラです!!」
その瞬間、どっと歓声が沸いた。マシュラは客席に向かって手を振っている。足元には身体中が凍りついたサザンが、無残にも気を失って倒れていた。
「……今の、なんだったの?」
シエラは口元を手で覆いながら、ぽつりと呟きを漏らす。凄すぎて上手く言葉が出てこない。
――ほんとに一般人の戦い、なの? こんなの、ラミーナ並の実力じゃん……!
今は観客席にいるラミーナの顔を思い浮かべながら、シエラはあんぐりとしている口に触れる。一体全体、何をしたらあんなに強くなれるのだろうか。シエラとしては是非教えてもらいたいところである。
カイザーズの面々は負けた事がよっぽど悔しいのか、サザンを舞台から引きおろす際、バレンダスの面々を睨みつけていた。なんだかそれが子供染みていて、シエラは思わず苦笑いを浮かべていた。
もっとスポーツマンシップに則り、正々堂々潔く勝敗を見届ける事は出来ないのだろうか。自分がとやかくいえる事ではないが、ついついそんな事を思ってしまう。
そして続く第二試合は、カイザーズが辛くも勝利し、一勝一敗同士となっている。第三試合はバレンダスの快勝。そして現在は最後の大将戦へともつれ込んでいる。
アギヤVSフロレン。
会場にいる全ての人たちが、舞台に立っている二人に刮目している。二人から放たれる闘志のようなものが会場に伝わり、観客は緊張感に包まれている。
「なぁフロレンよ。……悪いが、今年も勝たせてもらうぜ」
「ぬかせ! 今年こそ優勝は俺達カイザーズだ!」
二人の間で激しく火花が散っている。ワイズが興奮しながらカウントを始めると、それに合わせて観客もカウントし始めた。
「――ファイト!!」
ドガァァアアァアン。
「おおっと、早速です! 二人の激しい肉弾戦が幕を開けました!!」
試合開始早々、アギヤとフロレンの拳が何度もぶつかり合っている。一撃一撃が重たく、互いの身体を削り取るかのような勢いだ。アギヤはフロレンの蹴りを避けると、大きく身体を捻って顔面目掛けて蹴りの連打を繰り出す。フロレンもそれを全て避けると、今度はアギヤの胴体に拳を何度も突き出す。そんなに激しく動いて、体力は大丈夫なのだろうか。シエラは少しばかりそのように思ったけれど、今の彼らからはそんな心配微塵も感じない。
軽やかに、しなやかに、強く、たくましく、美しく。
イヴを取り戻す為の大会で、まさかこんな出会いを果たすとはシエラは思ってもみなかった。美術品のような、気高さや気品というものが彼らの戦いからは感じ取れる。
――きっと、魅了されているんだ。私も、お客さんも。
胸躍る戦いがそこにあるから。だから見ていて飽きない。彼らは争って戦っているのではなく、きっと魅せるために戦っているのだ。
――戦うからには優勝っていうのも勿論あるんだろうけど。でも、楽しんでるんだろうな……。
試合前はあれだけ険悪な雰囲気を纏っていたカイザーズのリーダー、フロレンですら表情は生き生きとしている。
するとアギヤはふっと笑みを浮かべると、フロレンの襟元を掴んだ。突然の事にフロレンは対応できず、そのまま思い切り投げ飛ばされる。このままだと場外になると判断したのか、フロレンは上空で回転し勢いを殺す。そして地面に足がついた途端、アギヤに向かって突進していく。
しかし。
フロレンは突き出されたアギヤの拳に、全く反応できなかった。アギヤの拳はフロレンの右頬に入り、彼の肢体は放物線を描き地面に倒れこんだ。先ほど、フロレンが飛び出すのが既にアギヤには分かっていたのだろう。見事に決まったカウンターに、観客は地響きのような声を出している。
「動けないのかフロレン!? そしてこれでバレンダスの勝利が決まってしまうのか!?」
ワイズが声を掛けるものの、フロレンの身体は痙攣してしまって思うように動かないらしい。しかもあんな重い一撃を顔面に食らってしまったのだ。きっと脳みそにも衝撃がいっているだろう。
「では十数えて立ち上がらなければ、この試合はアギヤ選手の勝利となります!」
たった十秒で起き上がれるのか。シエラは顔を顰める。もうアギヤの勝利は決まったも同然ではないか。それにもうフロレンの意識は朦朧としている。しかし、ワイズが半分まで数えたところで、なんとフロレンが立ち上がったのだ。
「!!」
会場の誰もが瞠目した。しかし、アギヤだけが冷静にフロレンを見つめている。
「……この勝負、俺の勝ちだな」
アギヤはそう呟くと、くるりと踵を返して歩き出す。異変に気づいたワイズがフロレンに近づく。すると。
「フロレン選手……なんと気絶しています! 気絶してもなお、戦おうというのでしょうか!!」
ワイズのその言葉に、会場から拍手の嵐が巻き起こる。それぞれのチームを褒め称える言葉が飛び交い、カイザーズに「来年も待ってる」といった言葉が数多く投げかけられた。カイザーズの面々はその言葉に涙を堪えながら応えると、控え室の方に消えていく。シエラ達とは反対側の控え室だったため、鉢合わせにはならなかったが、なんだか複雑な気持ちだ。
しかし、次はシエラ達の準決勝だ。相手は昨年の準優勝チームブルームだ。シエラも油断はできない。
「準決勝第一試合、激闘を制したのはバレンダスです!! 会場も本日最終試合に向けてヒートアップしております!! さぁ、そしてお次は、今大会ダークホースとなったフォックスと、昨年準優勝を飾ったブルームです! 皆さんもご存知かと思いますが、やはりブルームもバレンダスと因縁深いチームで御座います!!」
シエラ達はワイズの熱の篭ったアナウンスを聞きながら、ゆっくりと表に出て行く。シエラはなんだか緊張してしまって、ぎゅっと服の裾を握り締めた。
「グロップさーん! そんな奴らいっぱつで倒しちゃえ――!!」
「そうだ! 今年こそお前らが優勝してくれよ!!」
「俺はお前達とバレンダスの試合を見に来たんだ!!」
観客からは当然ながらブルーム贔屓の声援が大多数を締める。シエラ達は野次を浴びながらも、互いの顔を見合わせて笑った。
「……だってさ、どうするかい?」
「今更何を戸惑う必要がある。……私たちは、勝つだけだ」
「当然だろ。どんな相手でも、俺たちは倒す」
「うん、イヴを取り返さないとね!」
もう一度再確認すると、シエラ達は強く頷き合う。確かに相手は強敵かもしれないが、こんなところで負けていられない。シエラ達の漲る闘志がブルームに伝わったのだろうか、彼らも一様に真剣な顔つきになる。
「それでは、行ってくる」
「ユファ、頑張って!」
舞台に颯爽と向かうユファの背中に、シエラは声を投げかけた。相手はブルームの紅一点、イシャという淡い栗色の髪をした女性だ。ユファは彼女と対峙すると、その鋭い双眸を剣呑に細める。イシャはそんなユファの様子を見て優雅に笑う。口元に手を宛がい「そんなに殺気を出さないで下さいまし。わたくし、乱暴なのは苦手ですの」と澄んだ高音で言葉を紡ぐ。
「まぁもっとも、わたくしの美技の前にはあなた方もひれ伏すほか、道がないのですけれど」
「……生憎、私たちはひれ伏す時間なんて持ち合わせていない」
「あらあら。とんだ皮肉ですこと」
なんだか試合開始前から雲行きが怪しい会話をしつつ、ユファは数珠を、イシャは紫紺の長い棒を、それぞれ構える。
シエラは深く息を吐き出し、心を落ち着ける。
「スリー、ツー、ワン、ファイト!!」
ワイズの掛け声と共に、イシャは強く地面を蹴り飛び出してきた。その手に握られた棒は高く振りかぶられており、矛先はユファの脳天だ。ユファは右足を捻り横に飛ぶ。イシャの棒はなんと舞台を穿ち、瓦礫が四散した。
「なっ……!?」
流石にユファも驚いたのか、素っ頓狂な声を上げてイシャの事を凝視している。
「ふふ。わたくし、実はこう見えても怪力なんですの。ちょっと力加減を間違えると、すぐにこうですわ」
――いやいやいや、今の当たってたら死んでたよね!?
シエラはイシャの言葉に激しく内心でツッコミを入れる。そんな洒落にならない事が起きてたまるか。そもそも、イシャはどこから見ても華奢な妙齢の女性だ。一体彼女のどこにそんな力が潜んでいるのだろう。
「でもわたくし、負けるわけにはいきませんの。だから……」
「!!」
イシャは言葉の途中で突然ユファに向かって駆け出してきた。
「死にたくなければ、全力で避けて下さいね」
その顔には、無邪気な笑顔が広がっていた。ユファはイシャの素早い突きや力任せに叩き込む技を、何とか間一髪で避けていく。イシャが棒を振るう度に、舞台にそれが当たる度に、幾つもの瓦礫が飛び散る。そのうち舞台が全て削れてしまうのではないかと思うぐらい、躊躇いの無いイシャの攻撃。ユファはその猛攻を避け続けているが、それでは勝負は終わらない。
一体どうするのだろうとシエラが思案していると、ユファがイシャに仕掛けた。避けた瞬間、重心を左足に傾けて右足を高く振り上げる。イシャの地面にめり込んだ棒をその右足で上から押さえつけると、超至近距離でユファは魔法をぶっ放した。しかしユファの出した光の矢は、イシャの頬を掠める程度だった。イシャが咄嗟に顔を反らしたのだ。しかもイシャは棒を握った手に力を込めると、ユファごと持ち上げる。
「なっ……!?」
流石に棒に乗った状態で持ち上げられるなんて予想もできなかった。ユファもシエラもあんぐりと口を開けている。ユファは慌てて棒から飛び降りると、そのまま数回転して距離をとる。イシャの方は息を乱す事もなく、また元気に棒を振り回している。数珠を握りなおして照準を合わせ、ユファはもう一度魔法を放つ。
「甘いですわ!!」
しかしイシャは巧みに棒を旋回させ、光の矢を場外へと打ち返した。ユファに驚く暇も与えず、イシャは再び猛攻を始める。このままではユファが負けてしまうのも時間の問題だ。何か手は無いのかとシエラが拳を握ると、隣にいるサルバナが「大丈夫だよ」と笑いかけてきた。
「一見すれば劣勢に思えるけど、彼女、何か考えてるみたいだから」
「え……?」
サルバナのその言葉と余裕の表情に、シエラは慌てて視線を元に戻す。相変わらずイシャが棒を振りかぶる度に、舞台が瓦礫へと変わっていく。轟音と共に砂塵が舞い、ユファは徐々に舞台の隅へと追いやられている。
「これで終わりですわ!」
イシャがダン、と強く地面を蹴り上げ、天高く飛び上がる。勢いよく旋回した棒を振りかぶり、ユファに向かって叩き込んだ。しかし、それはユファに直撃する事はなかった。
「どういうこと、ですの……?」
疑問を口にするイシャだが、警戒は解けない。なにせ、先ほどイシャが作り出してしまった瓦礫たちが浮遊しているのだから。
「……あんたが瓦礫の山を作ってくれたお陰だ」
ユファはそう言うと、数珠を持った右手を横に縦にと自由に動かし始める。すると浮遊している瓦礫もその動きに合わせて移動し始めた。
「なるほど。魔法ですわね」
イシャは納得したように一つ頷くと、再びユファに向かって走り出す。
「ですが、それが一体なんだっていいますの!? 障壁は破壊するのみでしてよ!」
イシャが走ると共にユファも瓦礫を動かす。シエラ達からもユファの姿は瓦礫に覆われて見えなくなってしまう。しかしイシャは戸惑う様子もなく、次々に瓦礫を更に破壊していく。瓦礫は粉々になっていくと同時に、砂塵を撒き散らす。
「さぁどうしましたの!? この程度で終わりだなんて、わたくしがっかりでしてよ!」
目の前の瓦礫を破壊していくイシャだが、突然その動きを止めて飛び上がると、瓦礫を足場に舞台の中央へと退く。警戒するようなその視線に、シエラは先ほどいた彼女が立っていた場所を見やる。
「そっか、舞台ギリギリ! ……ユファ、今場外にしようとしてたんだね」
「瓦礫で視界を奪うと同時に、さりげなく誘導してたんだな」
「でも、残念ながら見破られちゃったみたいだね」
三人は今のユファの行動に納得すると、今度はイシャの方へと意識を持っていった。あそこできちんと冷静になれるあたり、彼女は今までの対戦相手とは違う。
「……気に入りませんわ。そんな甘い考えで、この舞台に立つなんて」
イシャはどこか苛立った声音で呟くと、瓦礫の中へと突撃していく。凄まじい音で壊れていくそれらに、会場もイシャへのコールが響く。
「ユファ……」
大歓声の中、シエラは小さく名前を呼んだ。信じていないわけではないが、イシャの実力は本物だ。ここでどう戦いが決着してもおかしくない。
「もうお終いですの!? ほら、さっさと姿を見せて――」
イシャが一撃を入れようとした瞬間、途端に瓦礫が霧散した。細やかな粒子となったそれらは、イシャの視界を奪う。そしてその中心にはいるはずのユファの姿はない。
「ど、どういう事ですの!?」
「不本意だが、あんたにはどうやら大きいのを使わなければならないらしい」
ユファの声に、会場中の視線が一点に集まった。イシャの真後ろに立ち、天高く手を上げているユファ。その右手には電流が迸っている。
「サンダー・フレア」
閃光と衝撃と雷鳴が空間を満たし、その中にイシャや観客の悲鳴も呑まれて消えた。全てが収束した頃には、イシャは口から泡を吹いて気絶しており、舞台にはユファだけが立っていた。しかし奇妙なのはイシャに全く雷撃が当たったと見られる形跡がない事である。
「げ、激闘を制したのはユファ選手です!! 凄かった、いやほんと凄かったです!!」
ワイズも言葉にならないのか、同じ言葉を何度も繰り返している。ユファはゆっくりと舞台から降りてくると「なんとか、勝ったぞ」と薄く微笑んだ。




