幕間
****
ラミーナは舞台に立っているサルバナを眺めながら、言い知れぬ不安を覚えていた。今はシエラ達の準々決勝で、戦っているのはサルバナだ。ユファが先ほど一勝をもぎ取り、今は二試合目だ。相手も中々の力を持っているものの、到底サルバナには及ばない。
――……に、しても妙ね。
ラミーナはサルバナの戦い方に違和感を感じていた。余力を残しているのはユファやクラウドもだが、彼の場合少し違うような気がする。まるであえて魔法を使っていないような、そんな感じだ。ラミーナからすれば低級魔法でも使えばいいと思うのだが、サルバナはそれさえもしない。
彼が大会初日に見せた幻影の魔法も、ラミーナが頭を抱える一つの原因だ。あんな上級の中の上級といっても過言ではない魔法を、詠唱もせずに発動させる。そんな事が本当に可能なのだろうか。
――確かに魔法は使役回数に応じて詠唱破棄のレベルも上がるものだけど。……あれはもっと何か違う、特別な気配がするわね。
そもそもラミーナが大会に参加しなかったのも、サルバナと、そしてユファの実力を知りたかったからでもある。バイソンが参加できないのは好都合だったし、後は自分とウエーバーに理由をつけてしまえば簡単なものだった。正直、少々冷たい言い方をしてしまったのは申し訳なかったが。
――ここ一ヶ月近く一緒にいるけど、中々尻尾出さないのよねぇ。
仲間の事を疑っているわけではないが、どうにも性分なのか気になってしまう。サルバナとユファには何かと気になる点が多いのだ。
――そもそもナールのS級魔術師なんていったら相当なモンじゃない。しかも単独戦闘員。……何かそれなりの理由があるに決まってるわ。
しかし、試合を見れば見るほど違和感ばかりが積もっていく。無理に聞いたり暴いたりするつもりは一切ないが、これぐらいの詮索は許して欲しい。それに人には誰だって知られたくないものの一つや二つ、あって当然なのだ。その深い部分を無理矢理抉るなんて趣味は、ラミーナには全く無い。
「おおっとここで決着がつきました! 勝ったのはサルバナ選手です!」
ワイズの言葉にラミーナは我に返った。見ればサルバナは涼しげな顔で歓声に応えている。
「はは、これでクラウドが勝てば準決勝だな」
「そうですね。あともう少しです!」
隣で笑いあっているバイソンとウエーバーを横目で見つつ、ラミーナは未だ観察するようにサルバナを見ている。
――ま、悪い奴じゃないからいいかしら。
何だか隣にいる二人の呑気な声を聞いていたら、気分も削がれてしまった。それに次はクラウドの出番なので、特に心配いらないだろう。
「クラウド――!! あんた、絶対勝ちなさいよ!」
他の観客に混じってラミーナも檄を飛ばす。まさかと思ったが、どうやらクラウドは聞こえたらしく、当たり前だ、というような視線をこちらに寄越してきた。クラウドらしいその反応に、ラミーナは少々驚きつつも笑みを漏らす。ゴングとワイズの声に合わせて、クラウドは相手に突っ込んでいった。
――それにしても、あの子もあの歳にして隊長やってんのよねぇ。末恐ろしいわ。
もっといえば、更に末恐ろしいのは今隣にいるウエーバーだ。クラウドは十七だが、ウエーバーはまだ十四だ。ラミーナもまだ十九だが、この二人の才能は得体が知れないし、これからもっと伸びる予感がする。自分はどうなんだと言われれば、まだよく分からない。けれど今のままでは、きっと隊長という管理職につくことはできない。絶対に。
ラミーナにも、強くなりたいという向上心は勿論ある。この試合を見て気づいた事でもあり、再認識した事でもある。
――あたしも、まだまだ負けてられないわねぇ。
素早い剣さばきを見せるクラウドを眺め、ラミーナは内心で一人ごちた。




