二
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「結局、あれから大した収穫なかったね」
シエラはベッドに寝そべりながら、隣にいるユファに話しかける。結局あれ以降は目ぼしい情報を手に入れることはできず、話は進展しなかった。ただリディア達に関することが一つでも分かっただけ、上々吉である。
明日はこのフランズを発ち、いよいよ神の国ルダロッタへと本格的に向かい始める。リディア達の旅のはじまりの地にして、シエラ達の目的地だ。そしてシエラ達の誰しもが、神という存在を見るのも初めてになる。
――ちょっと、楽しみかも。
一体彼らがどんな生き物なのか。話によれば姿形は人間と全く同じだという。ふと視線を上げれば、ユファは何か考え込んでいるようで、難しい顔をして黙り込んでいる。
「ユファ……?」
「……どうした?」
改めて話しかけてみれば、彼女はふわりと微笑んだ。
「いや、難しい顔してたから……」
思ったことをそのまま伝えると、ユファはきょとんとした表情でシエラを見つめ返してきた。なんだかいつものクールなユファとは違い、シエラは思わず噴き出してしまう。
「な、なんだ? 私の顔に何か……」
「ううん、違うよ。ごめん、なんかちょっと……」
「可愛いなって思ったから」とシエラが口元を押さえながら笑うと、ユファは目を見開いて、そして顔を真っ赤にした。
ユファは俯いたまま、ぼそぼそと何かを呟いてから枕に顔を埋める。そんなユファの仕草に、シエラは再び笑みを漏らした。これからシエラ達は大国を出る。そして小国を渡り歩き、八大国の次に力を持つゼインをいう国から、ルダロッタへと入る。先行きは不安だが、それでも心は落ち着いている。
「ユファ、ありがと」
「……今日のシエラは、何だか変だな」
自然と出たシエラからの感謝の気持ちに、ユファは再び顔を赤らめた。
翌朝、シエラ達は庭園にいた。大門までの道のりには兵士達が連ねており、仰々しく演奏が行われている。門には幾つもの旗が棚引いていて、朝だというのに人々の動きが慌しい。
「……なにこれ」
「見送り、にしては物々しいな」
「……すみません。陛下の計らいでして」
シエラ達は目の前の光景に少々戸惑いながらも、高い鐘の音に合わせて門へと歩き出す。剣を持った兵士達の間を通りながら、シエラは表情を強張らせる。自意識過剰なだけかもしれないが、全員の視線が自分に刺さっているような気がするのだ。シエラが冷や汗を流していると、横を歩いているクラウドに小突かれた。視線を少し上に向けると、彼は「大丈夫だ。胸張ってろ」と小声で囁く。そして、シエラは言われた通りに胸を張って歩く。
――クラウドの、くせに……。
自分が何をそんなに意地っ張りになっているのか分からない。クラウドの言葉には何度も助けられているのに、それを認めるのが何だか癪だ。
――……でも、ありがと。
兵士達の行列から出ると、大門にはディアナ女王が立っていた。彼女は少々やつれた表情で、強気に笑っている。
「適合者よ、信じるままに進むがいい。わらわ達も、陰ながら支えている」
「陛下……」
「ウエーバーよ、何も言うでない。……その方達、このものを、世界を頼んだぞ」
ディアナ女王はそれだけ言うと、大きく腕を翳し、指を弾いた。王城の方から炸裂音のようなものが聞こえ、次いで光の雨が降り注ぐ。金、銀、翡翠、赤銅。煌く光を浴びながら、シエラ達は一歩を踏み出す。
「……あの様子なら、大丈夫そうだな」
魔物嫌いで有名なディアナ女王。今回のことで心を折られてやしないかと心配だった。けれど、その必要はなさそうである。シエラはクラウドの言葉に頷き、それからどこまでも広がる空を見上げた。
「やっと、ここから」
翳した拳を握り締めれば、ウエーバーとラミーナが微笑んでくれる。バイソンとユファが頷いてくれる。サルバナが髪を靡かせて笑う。クラウドが隣に並んでくれる。シエラは仲間の顔を見回して、大きく一歩を踏み出した。




