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リディア―世界の中で―  作者: 知佳
第六章:明
50/159

****


 シエラは呆然とそれぞれの戦いを見ていた。否、見る事しかできなかった。どの戦いもシエラが介入する余地はなく、手を出そうものならすぐに絶命する、そんな次元の戦いである。歯痒さと不甲斐なさと、何より悔しさがシエラの中で渦巻いていた。

 ――私だって適合者なのに……! 私だって……!

「きゅーん」

 結界を張っているイヴがシエラの顔を見上げて鳴いた。その目はどこまでも透き通っていて、どこか物憂いげで、それでいて力強い。

「……そっか、しっかりしなきゃ駄目だよね。弱気なんてらしくないし」

 いつだって強気で、いつだって前を向いて。そうだ、そうでなければこれまでもこれからも生きていけないのだ。シエラは顔を上げて、目の前で戦っているユファの背中を見つめる。もう随分とエリーザの攻撃をまともに喰らってしまい、相当なダメージが蓄積されているはずだ。魔法のキレも大分なくなってきている。

「……イヴ、私を結界から出して」

「きゅーん?」

「少しぐらいなら、私にもできる事があるの」

 エリーザとユファの戦っている奥、大門のすぐそばにフォーワードと共に立っている少女がいる。長い黒髪をなびかせ、無表情でただ成り行きを見守っているアン=ローゼンが、そこにはいる。

「お願い」

「きゅーん」

 イヴは仄かに身体を光らせる。するとたちまちシエラを覆っていた膜は消え去り、シエラは自由に動けるようになった。

 ――私が知っている最大級の魔法をぶちかませば、きっと……。

 シエラは大きく息を吸い込む。狙うはアンただ一人。神経を研ぎ澄まし、両手を天に翳す。

「降り注ぎし地獄の業火、彷徨いし心、汝らは古よりの歌、来たれ――メテオ・ファイア!!」

 シエラの手が眩い光を放つと、その上空に雲が重く垂れ込め始める。先ほどまで晴れていたためか、皆が異変に気づき空を見上げた。

「お、おいあれ……!」

 一人の兵士が声を上げる。雲が渦を巻き、その中心から炎を纏った巨大な岩が現れ出したのだ。全長四メートルほどのそれは、ゆっくりとアンに向かって落ちてくる。そして、シエラが腕を大きくアンに向かって振り下ろした瞬間、目を疑うほど加速を始めた。

「アン様ッ!!」

 エリーザの焦った叫び声と、岩が爆発したのはほぼ同時だった。巨岩はアンに到達する前に粉砕され、火の粉があたりに爆ぜる。

 シエラは予期していなかったそれに、思わず口を開けたまま固まってしまう。そして今まで別々に戦っていた他の適合者と刺客が、シエラとアンをそれぞれ取り囲むように戻ってきた。

「はぁ、はぁ。……おい、今のは一体――」

「全く、スマートじゃないなぁ」

「!?」

 クラウドの言葉を遮り、適合者と刺客の間に入るように金髪が靡く。全員の視線が中央に集中する。何時の間に、気配もなくこんなところまでこれたのだろうか。それ以前に、何故彼がここにいるのか。

「サルバナ=シャイファン……」

 シエラが彼の名前を呼ぶと、サルバナと名乗った青年はふっと微笑を浮かべた。

「やぁ、また逢ったね」

 この殺気と緊張感に包まれた空間において、彼だけは異質だ。不敵な微笑はその余裕を表しているし、この状況で全く動じていない。

「てめぇ、急に出てきてなんだよ!」

 ショコラが右手を大きく振り下ろすと、サルバナに向かって強烈な振動が迸る。しかしそれはサルバナに直撃する前に左へと弾かれてしまう。ドガン、と凄まじい音と共に地面が削れる。

「……レディーには手を出さない主義なんでね。それに、俺は今現在、どちらの味方でもない」

 サルバナはシエラとアンの顔を見比べてから、何か思案するように顎に手を当てた。

「それで、なんでこんな所で戦ってるのかな?」

「今更かよっ!」

「つーかそこからかよっ!」

「なんで出てきたの!?」

「……なんだこいつ」

「ビルダちゃんあーゆー男嫌い」

 クラウド、バイソン、シエラ、ショコラ、ビルダは思わずサルバナに向かってそう突っ込んでいた。アン以外の刺客たちは眉間に深く皺を刻んでおり、適合者の面々は呆れて言葉も出てこない。

 それよりもシエラは何故サルバナがここにいるのか、そっちの方が気になる。軽く溜め息を吐いてから、シエラはサルバナに向き合った。

「それより、あなたはどうして此処に?」

「俺? うーん、まぁディアナ政府から要請があってねぇ。仕方無しにって感じかな」

「ちょ、ちょっと待って。要請ってつまり――」

「俺も一応、国家構成員の端くれなんだよね。これでいいかな?」

 シエラはおろか、適合者の面々はサルバナの顔を凝視する。この男が、国家構成員。しかも要請という事は他国の、という事だ。サルバナはシエラ達の反応から察したのか、面倒そうに着ているコートの首元のファーを押し上げた。

「ナール王国S級魔術師特別隊単独戦闘員。これがそのバッチ。ここまで見せれば信じてくれるだろう?」

 その瞬間、クラウドやウエーバー、ラミーナ、ユファの目の色が変わった。鋭く、何かを探るような視線。それと同時に、いくらかの安堵の色もある。サルバナは周りを見回し、それから少し離れたところで待機している兵士達に話しかけはじめた。

「それで? 俺は何をすればいいわけ? 侵入者の排除とか言われても分かんないんだよねー」

 兵士達はサルバナの言葉に困ったように、互いの顔を見合わせる。一般兵士にはそんな重要な連絡は普通回ってこないし、何より他国の国家構成員ともなればまた別だ。すると、今まで黙り込んでいたアンがおもむろに口を開く。

「侵入者は私たちだ。私たちの目的はただ一つ、そこにいる適合者の宝玉を奪うこと。ただ、それだけだ」

 あまりにもあっさりと言ってのけたアンに、シエラ達も周りにいた兵士達も驚きを隠せない。ただ一人、サルバナだけは愉快そうに口元を歪めている。

「へぇ、君たちが侵入者。随分と綺麗なレディー達が揃っているじゃないか」

「まぁ、ビルダちゃんがいるからねー」

「おいリーダーこの三十路いい加減黙らせてくれよ」

「馬鹿野郎。俺にそんな面倒な事回してくんな。グラベボ、お前が何とかしろ」

「丁重にお断りさせて頂きますよ。なんで僕がビルダのお守なんか……」

「ちょっと何よ皆してその反応!! ビルダちゃん傷ついてんだからね!?」

 ぎゃいぎゃいと騒ぎ出した面子を尻目に、アンはシエラへと視線を向けてきた。

「中々、面白いものを見せてもらった」

「……?」

 僅かにだが、アンが笑ったような気がした。シエラは彼女の言葉の意味が分からず、顔を顰めてアンの事を見つめ返した。

「私は、私たちは、絶対にあなた達なんかに屈しない」

 シエラの凛とした声が響く。

 どんなに相手が強くたって、どんなに今の自分が足手まといだって、前を向くことだけは止めない。屈するなんてらしくない。

 シエラは真っ直ぐに刺客たちを見据えた。間に挟まれたサルバナは居心地が悪そうだったが、大仰に肩を竦めてさっとシエラ達の方へと身を引いた。そしてシエラの隣に立つと、その肩を抱いてアン達に笑いかけた。

「なんだ、そういう事だったんだ。なら、俺も挨拶しとこうかな。ほら、君たちって適合者狙ってるんだろ? これから宜しくねー」

「……は?」

 軽々しく告げられた言葉に、シエラ達はまたしても思考回路が停止する。にこにことしている彼の表情から真意は窺えない。ただアンは「勿論そのつもりだ」とあっさり言い返してきた。それに刺客たちは全く驚いておらず、最初から彼が適合者であることを知っていたらしい。

「ちょ、え!? ほ、ほんとに適合者!?」

 シエラは慌ててサルバナの手を振り払うと、彼の顔を凝視した。しかしサルバナは笑顔のまま「勿論さ。何なら、ディアナ女王に確認してもらってもいいよ」と余裕の返事をしてきた。

 クラウドやウエーバー達も相当困惑しているが、状況が状況だ。シエラは何とか再び意識をアンへと戻す。アンは翳すと、その額にある紋章を光らせた。するとアン達の目の前に、七体の魔物が出現した。鋭い爪と人ならざる四肢は赤や青の皮膚に覆われている。

「!?」

「ちょっと、あれって……」

 目の前にいるのは、前にラミーナに見せられた貴族種の魔物たちだった。大きさは人とさほど変わらないものの、不気味な目やグロテスクな肢体が恐怖心を煽る。

「役目は終わりだ。……戻れ」

 アンが短く命令すると、魔物たちは一瞬にして消えてしまった。正確には、刺客たちの持っている札の中へと消えたのだ。アン以外、一人一枚、長方形の札にそれぞれの魔物が映し出されている。

「ちょっと、どういう事よ!? 貴族種を七体も使役して! しかも消えたはずの魔物じゃない!」

 ラミーナが声を荒げるものの、アンは全く意にも介していない。ウエーバーは顔面蒼白でわなわなと身体を震わせている。その目は次第に冷えていく。

「よくもディアナに、魔物を持ち込んでくれましたね……ッ!」

 ディアナ女王は魔物が大嫌いだ。外交を除けば、如何なる理由であろうと魔物がディアナに踏み入ることは許されない。しかも今回は襲撃が目的であり、魔物たちが王都を荒らしていたのだ。ウエーバーからすればアン達は最悪の状況をもたらしたという事になる。

「どうやって装置を外したのかも、聞かせてもらおうじゃないの!!」

「今ここで抹殺します……!!」

 ラミーナとウエーバーは叫ぶと同時に、アンに向かって突っ込んで行った。それぞれ放たれた魔法は両者の中間地点で、轟音と共に相殺された。

「止めないで頂戴!」

「邪魔をするなら、あなたにも攻撃します!」

 二人の目の前にいるのは、なんとサルバナだった。彼は涼やかな目で二人のことを見つめている。シエラにはこの状況が理解できなかった。

 確かに魔物を持ち込んで暴れたアン達は、ウエーバーからしたら万死に値する相手だろう。しかしラミーナは違う。国家構成員ではあるが、ディアナ国民ではない。それなのに激昂具合は二人とも同じだ。一体何がそんなに頭にきたのか、シエラには分からない。サルバナは二人の肩を掴むと、シエラ達の元へと押し戻す。

「そんなに興奮するものじゃないよ。ほら、君たち今死ぬ直前だったんだよ?」

 視線を刺客に戻せば、彼らは全員殺気をむき出しに戦闘体勢に入っていた。確かに今の二人ならば確実に殺されていた。

 シエラは全身の皮膚が粟立つのを感じ、震えた右腕を左腕で押さ込む。

「……でも、俺も魔物については気になるかなぁ」

「使役できるから使役している。それだけの話だ」

 微笑むサルバナには目もくれず、アンはそれだけ言うと踵を返す。

「撤退するぞ」

 ゆっくりと歩き出したアンの背中を見つめながら、シエラは呆然としていた。どこか遠くで兵士達の叫ぶ声が聞こえる。アンを追いかけるように雪崩れ込む兵士。ジルたちに容赦なく蹴散らされていく。ショコラが放った衝撃波に土煙が立ち上り、庭園の木々や噴水が更に無残なものへと変わっていく。今目の前で起こっている事全てが、どこか遠くに感じる。変わっていく景色がゆったりと流れていく。

 ――やめてよ。やめてよ。

 瓦礫へと変わっていく大門。倒れていく兵士達。どれもこれもがただ過ぎていく“もの”にしか感じられない。アンの姿が砂塵に呑まれ、消えていく。ジルやショコラの姿も、もうそこには無かった。

 ――痛い、宝玉が、痛い……。

 胸がきゅうっと苦しくなる。なんでこんなに虚しくて寂しいのだろう。シエラは誰かの視線に気がついて顔を上げた。真っ直ぐに自分を見ている碧眼に、息が詰まる。

「あんまり、気にしても仕方ないと思うけどね」

「どういう、意味」

「そのまんまさ。これが戦争ならもっと惨いよ。それに、今なら何人でも助かるさ。被害は街には一切ないからね」

「ほんとですか!?」

 先ほどまで沈んでいたウエーバーが勢い良く顔を上げる。その目には希望が差していた。サルバナは口元に弧を描き「あぁ、本当さ」と大門の外を指差す。

「手の空いている人は今すぐ負傷者を救護室へ!」

 ウエーバーはすぐさま指示を下すと、負傷者の元へと駆けて行った。シエラは自分の掌を見つめると、拳を握る。そしてウエーバーに倣って、倒れている兵士達に走って行った。幸い、王城にいる兵士達は先ほどのアン達が逃げるときに受けた傷だけで、軽傷が多数だった。

 シエラ達が怪我人を手伝っていると、鎧を纏ったがたいが大きい兵士がやってきた。

「ジャシュウオ粛清隊長。それから適合者の方々は、あちらでお休みください」

「ですが、怪我人の搬送がまだ……」

「良いのです! あなた方は休んでいればそれで宜しい!」

 いきなり怒鳴られ、シエラはびっくりして肩を震わせる。そこにラミーナがやってきて、その兵士を睨みつける。

「ちょっと! いきなり出てきてなんなのよ! 今は怪我人が最優先でしょ!」

 しかし兵士の方も負けじとラミーナに鋭い視線を送り、胸を張って声を荒げた。

「あなた方は世界を救う御身なれば、このようなところで動かれては困るのです!」

「それはそれじゃない! 目の前で怪我してんのよ!? それを放っておけって――」

「ラミーナさん!」

 口論の始まった二人に、ウエーバーが慌てて割り込む。シエラもラミーナを後ろからはかい締めにする。

「すみません。ではお言葉に甘えさせて頂きますね。……ヒルガ一番隊参謀」

 ウエーバーは少しだけ皮肉めいた言い方をすると、そのままシエラ達を引きずって歩き出す。壊れた噴水の瓦礫の上に座らされ、シエラは顔を顰めた。

「さっきのあの人、何あれ」

 そう言えば、ウエーバーは困ったように溜め息を吐く。

「彼はディアナ王国騎士団、一番隊の参謀です。剣士としての腕はイマイチですが、その頭脳を認められ、今では参謀という地位についています」

「あー、なるほどねぇ。だからあんなに嫌味っぽいわけ」

 ふんっと鼻で笑ったラミーナも十分嫌味っぽかったが、シエラも同じ気持ちなので人の事は言えない。瓦礫にもたれかかっているクラウドの表情は何処か浮かなく、バイソンもまた然りだ。ユファは目を瞑っているため何を考えているのか分からない。サルバナに至っては彼そのものがよく分からない。

「……それよかよぉ、お前って本当に適合者なのか?」

 バイソンが重苦しい空気の中切り出すと、サルバナは「やだなぁ」と笑った。

「それより、そっちこそ本物なのかい?」

「ははっ、それもそうか」

 サルバナの思わぬ返答に、バイソンは一瞬きょとんとしてから豪快に笑った。シエラはゆっくりと立ち上がると、サルバナへと近づいていく。

「あなたが適合者なら、私たちと共鳴できるはずだよ」

「きゅーん!」

「へぇ。面白そうじゃないか」

 シエラはすっとサルバナに手を差しだ。今までなら触れるだけで共鳴できた。それにラミーナとの出会い以降は、宝玉が近くにあれば感じる事もできるようになった。

 しかし、今回のサルバナではそれが一切ない。図書館であったときも、先ほど肩に触れられたときも、全く宝玉の気配を感じなかったのだ。駄目元で手を差し出してみたが、彼は一向に手を握ろうとはしない。

「どうしたの?」

「いやぁ、実は俺の魔力って特殊でさー。右手では握手したくないんだよねー」

「は?」

 サルバナのその一言にシエラはぽかんと口を開ける。確かにシエラが差し出したのは右手だ。右手を差し出せば必然的に右手で握るしかないわけだが。

「なにその理由。訳分かんない」

「冷たいなぁ。こればっかりは仕方ないじゃないか。ほら、左手。あ、何なら身体ごとでも――」

「はい左手どうぞ」

「ははっ、つれないねぇ」

 シエラが間髪いれずに左手を差し出すと、サルバナは軽快に笑う。そして、シエラの指先と触れた瞬間――。

「ッ!?」

 全く感じなかった宝玉の存在が、シエラの中へと流れ込んできた。今回は焼き尽くすような光は生まれなかった。しかし、今までよりもはるかに強く宝玉の存在を感じる。

「これって……」

 それはクラウドやラミーナ達も同じらしく、自分の胸に手を当てている。優しく、それでいて力強く、温かな鼓動が身の内に宿る。

「共鳴、したのか……」

 クラウドも自分の身におきた事が信じられないようで、目を見開いている。

「これで、全員揃ったんだね!」

 シエラは思わず笑みを零していた。ついに、ついに最後の一人が揃ったのだ。これでやっと、旅のスタートラインに立てたのだ。

「やったな。私も嬉しい限りだ」

「そうだね。ほんと、信じられない……」

 誰がこんな状況で最後の一人が見つかると予期できただろう。イヴも嬉しそうに辺りを駆け回っている。

 長かったような、短かったような、今までの旅。沢山の出来事を乗り越え、やっとこれから始まっていくのだ。今までを振り返り、シエラは感慨深い気持ちになる。クラウドと出会い、ウエーバーと出会い、ラミーナと出会い、バイソンと出会い、ユファと出会い、そしてサルバナと出会った。そのほかにも沢山の人とふれあい、世界が広がり、見知らぬものに感動し、心動かされてきた。勿論辛いことも心痛む事も沢山あった。

 過酷な旅であるが、それでも魔法学校にいた頃よりもシエラの心は安らぎを覚えている。そんな感慨に浸っていると、 ラミーナとユファも同じなのか、目尻を下げて口元に弧を描いている。しかしそれは次第に真っ直ぐな笑顔へと変わっていく。シエラ達が笑い合っていると、突然城内から鈴の音が聞こえてきた。

 シャラン、シャラン、シャラン。

 優しく響くその音は、まるでシエラ達を祝福してくれているようだ。けれど、鈴の音は数回鳴り響くと、突然ぴたりと止んでしまう。次いで鐘の音が聞こえ始める。その音はひどく耳障りで、シエラ達の顔から途端に笑顔が消え去った。ウエーバーは信じられないという表情で立ち上がる。

「これは……」

 ウエーバーが目を見開き、その場の空気が凍りついた。兵士達も、誰も彼もが動きを止め、王城のてっぺんに備え付けられている鐘を注視する。

 カラン、カラン、カラン、カラン、カラン。

 乾いた鐘の音が、不気味に王城内に響き渡る。まるでさきほどの喜びを打ち消すかのように、これからの事を暗示しているかのように。不吉に揺れる鐘。シエラは額に冷や汗が伝うのを感じ、けれど呆然としたまま微動だに出来ない。

 そして。

「――ロベルティーナ国王が、崩御なさった!!」

「え……?」

 運命は、加速を始めた。





魔法のiらんどさんではここまでを一巻の内容として掲載していました。引き続き二巻以降の内容をお楽しみください。

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