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リディア―世界の中で―  作者: 知佳
第六章:明
48/159

****


「うわなになになに!!!?」

 シエラは素っ頓狂な声を上げながらベッドから飛び起きる。髪はぐしゃぐしゃで寝起きそのものだ。実際、今の今まで寝ていた。既に着替えを終えているラミーナとユファも、怪訝そうな表情で立ちすくんでいる。

「……緊急警報か」

「一体何が起きたって言うのよ」

 シエラは部屋中にけたたましく響くベルをうらみがましい眼差しで見つめた。ラミーナは素早くカーテンを開け放つと、身を屈めて窓の外を窺う。ユファは部屋の扉を開けて、廊下の様子を窺っている。

「シエラ、すぐに支度しなさい。……もしかしたら、相当ヤバい事が起きてるかもしれないわ」

「わ、分かった」

 ラミーナの言葉通りにシエラは洗面所に駆け込み、手早く顔を洗い髪を束ねる。そして十分ほど経った頃だろうか。部屋に衛兵と思わしき青年がやってきた。

「適合者様、すぐにご支度を。緊急事態ですので、三の間にご案内します」

「私たちはもう準備できている」

「左様で御座いますか。では、私についてきて下さい」

 シエラ達は衛兵に案内され部屋を出ると、廊下を真っ直ぐ進んだ先にある大広間に通される。そこにはクラウドとバイソンがおり、ウエーバーの姿はなかった。

「ここでしばらくお待ちを」

 そう言って衛兵は扉を閉めると、駆け足でどこかへと遠ざかっていった。

「……ふあぁ、ねみぃ。どうしたって言うんだよ」

 バイソンが大きな欠伸を漏らすが、皆が皆険しい顔をしただけで答えない。シエラは胸の内に広がる不安を抑えこみながら、警鐘を打ち鳴らす宝玉に眉をしかめていた。この得体の知れない恐怖にも似た不安感。よくない事の前触れだ。すると、扉が静かに開いた。姿を現したウエーバーの顔はとても冷えていて、シエラは背筋が凍った感覚を覚える。

「……貴族種が七体、出現しました」

「七体……ッ!? おい、それはどういう事だ!!」

「幾らなんでも多すぎるわ」

「……奇妙だな」

 ウエーバーは冷めた表情のまま、ただ淡々と言葉を紡ぐ。

「出現場所はフランズを囲むようにそれぞれ東西南北と南南西、南南東、北北東の七箇所です」

 シエラは実際に貴族種とは対峙していないから想像でもできない事だが、それでもやはり恐ろしいと思う。下級や上級の魔物でさえ身が竦むような威圧感を持っており、人間よりも遙かに強いというのに。それよりも更に強力な貴族種が、しかも七体。とんでもない話だ。

「……ちょ、ちょっと待って」

 シエラが顔を引きつらせていると、ラミーナが慌てたように声を上げた。視線が一斉に集まり、ラミーナは顔を真っ青にしている。

「ね、ねぇ。シエラ達には前に言ったわよね……? ほら、貴族クラスが七体“消えた”って」

「……そ、そういえば」

 最初にラミーナに会ったとき、魔物を説明をしてもらっている時だ。“最悪の情報”として、貴族クラスの魔物の消失について、確かに彼女は言ったいた。

「じゃぁ、まさかその魔物が……」

「可能性はありますね」

「とにかく、私たちはどうすればいいんだ」

 ユファがウエーバーに視線を向けると、彼は表情を更に曇らせる。

「何か指示があったのだろう?」

 更にユファが追究すると、ウエーバーは覚悟を決めたようにぱっと顔を上げた。

「僕には出撃命令が下りました。しかし、皆さんは今すぐこの城を出てください。そして一刻も早く、ディアナを出てください」

「ちょっと、なによそれ!!」

 ウエーバーの言葉にラミーナが大きく噛み付く。勿論シエラだって文句を言いたい。ウエーバー一人残してディアナを出る――それはつまり先に進めという事だ。最後の適合者も見つかっていない状況で、その上ウエーバーまで欠けてしまうなど、あってはならない状況なのはず。イヴも抗議の声を上げるように「きゅーん!!」と珍しく大きく鋭い声で鳴いた。

「ですが、これはディアナ王国の問題です! 確かに国際問題ではありますが、ディアナとマヨクワードゥだけの――」

「落ち着けよ!」

 クラウドは、捲くし立てるように喋っていたウエーバーの肩を掴み、そして思い切り頬を殴った。鈍い音が広間に響き、シエラは「ちょっとクラウド!?」と二人を引き離す。

「全部背負い込むんじゃねぇよ! 大体これはもう二国間だけの問題じぇねぇ! ……いいか。出現したって事は誰かが召喚したって事だ。それだけでもう八大国を巻き込んだ大問題なんだよ」

「そうよ、クラウドの言う通りだわ。それにあたしとクラウドは国家構成員の、しかも戦闘員。七大国間の条約で、他国のピンチには惜しみない助力をするって決まってるのよ。ま、そうじゃなくても仲間だしね」

 ラミーナの言葉にウエーバー以外の全員が頷く。一人だけ置いていくなんて事はできやしないのだ。それにこんな時だからこそなのだ。 

「ウエーバー、大丈夫だよ」

 一体何が大丈夫なのか自分でもよく分からなかった。けれど、今ウエーバーには必要な言葉のような気がした。シエラが力強く笑ってみせると、ウエーバーは安心したように微笑む。

「行こう」

 シエラの言葉と共に、適合者たちは城を飛び出した。そして広い庭園を突っ切って、真っ直ぐに大門まで走る。衛兵たちがせわしなく駆け回り、隊列を作り、そして次々に出動していく。

「はぁ、はあ……。ていうか、やっぱ広すぎるって!」

 荒く息をつきながらシエラは悪態をつく。流石に階段を駆け下り何百メートルとダッシュしていると息が辛い。まだ大門まで少し距離がある。シエラが息を整えようと大きく口を開いた瞬間。

「うわぁぁああぁぁぁあぁぁぁ!!!!」

 大門の外から断末魔の叫びが響いてきた。

「な、なに……ッ!?」

 シエラ達は立ち止まって目を凝らす。砂塵が巻き起こり、それによって衛兵たちが吹き飛ばされている。

「……魔物が、ここまで攻めてきたのか?」

「いえ、恐らく違うでしょう。流石にこの短時間でここまでは来れません」

 緊張感が辺りを包み込み、まだ出撃していない衛兵たちは大童だ。そして次の一撃で大門は轟音と共に崩壊していき、そこは瓦礫の山と化す。凄まじい衝撃と突風がシエラ達の所にまで伝わってくる。

「こんな凄い魔法使えるなんて……やっぱり貴族種なんじゃないかしら」

 ラミーナがそう呟くと、砂埃の向こうに人影が浮かび上がった。その見覚えのあるシルエットに、シエラ、クラウド、ウエーバーは目を見開いた。

「……んもう、着物が汚れたじゃない」

「るせぇなこのカマ野郎。大体、てめぇまだ何もしてねぇーだろ」

「ほら、二人ともお止めなさい。敵陣で喧嘩なんてみっともないわよ」

「はぁ、うるせぇな。折角の祭りなんだから、もっと楽しもうぜ」

「それにしても、中々重厚な門扉に外壁でしたね。材料は何を使っているのでしょうか」

「……グラベボ、少し、ずれているぞ」

「……貴様ら、黙って歩けないのか」

「申し訳ありませんアン様!」

 随分と賑やかな連中が現れたものだ。最初に対峙したときよりもやや人間味に溢れた会話だったが、それでも彼らの纏っている空気は殺伐としている。シエラは黒髪の少女を見た瞬間、自分の中の何かが疼くのを感じた。

「やーん、ひっさしぶりねぇクソガキ共! あら、なんか暫く見ないうちに随分と増えたのねぇ」

 意気揚々と声をかけてきたオカマを無視しつつ、シエラ達は険しい表情で彼らと対峙する。

「あいつらが、例の刺客か」

「そうです。……しかし、なんでこのタイミングに彼らが?」

「何にせよ、俺たちとドンパチやりに来たんだろ!」

「バイソン、ちょっとはりきりすぎよ」

「そういうラミーナもなんかやる気じゃない?」

「……はぁ」

 クラウドの重い溜め息に、その場がしんと静まる。緊張感と殺気に包まれた空間に、シエラは不思議と恐怖しなかった。視界の端にはまだ新人なのだろうか、年若い衛兵が小刻みに震えているのが見える。

「……ここは、僕達が何とかしますから。皆さんはどうぞ行って下さい」

 ウエーバーが周りにいた兵士たちに指示すると、彼らは意を決したように刺客たちの脇を走り抜けていく。

「おいおい、簡単に行かせるかよ」

 ゆらり、とジルが動いた瞬間、甲高い金属の衝突音が木霊する。

「……させるかよ!」

「へっ、やっとおでましじゃねぇーの!!」

 いつの間にか突っ込んでいたクラウドの剣を受け止めながら、ジルは恍惚とした表情を浮かべる。剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。

「血気盛んねぇ」

 ビルダはそう言いつつも、シエラ達の方をじっと観察している。そしてバイソンを見た瞬間、甲高い声を上げて膝から崩れ落ちた。

「……ついに頭までおかしくなったか」

「ショコラ、ビルダの頭は元々おかしいじゃないですか」

 そんな彼を二人は冷めた目で遠巻きに眺めている。しかし当の本人は本当に嬉しそうに顔を綻ばせて小躍りしており、周りなど気にしていない。

「ビルダちゃん、彼に決めたわぁ! んもう、いい男いるじゃなーいっ!!」

 ビルダはそう言うと一気にバイソンの元へと突っ込んでいく。しかしそれは一見すると軽いものに見えるが、実際は弾丸のように重く素早かった。

「ッ!?」

 バイソンは思い切りビルダに頭から突っ込まれ、腹部に衝撃が直撃した。数メートル後退しつつも受け止めると、ビルダは嬉しそうに「ごうかーっく」と笑う。

「さて、ショコラ。あなたは誰を相手しますか?」

「あん? んなの誰だって構わねぇよ。どうせ全員殺すんだしよ」

「そうですか。では、そうですね……。僕は彼とやる事にします」

 グラベボはゆっくりとした足取りでシエラ達に近づいていく。そしてウエーバーの前まで来ると、口元に弧を描いた。

「……あなた、ですか」

「えぇ、礼儀正しい少年は好きですから」

「……分かりました。お相手しましょう」

 ウエーバーはシエラ達から離れると、庭園の隅へと移動していった。

「それじゃ、あの女はあたしが相手しようかしら」

 ラミーナは余裕の笑みでショコラを指差す。

「上等じゃねぇーか」

 ショコラは血管を浮き立たせながら、思い切り地面を蹴ってラミーナに殴りかかった。ラミーナはそれをひょいとかわすと、身を捩って顔面目掛けて蹴りを落とす。

「容赦ねぇじゃねぇか、このクソアマ」

「あら、随分と口が悪いのね」

「はん……ッ!!」

 不敵な微笑みを交わすと、ラミーナとショコラは激しい戦いを始めた。そして残ったユファとシエラはアン、エリーザ、フォーワードの三人と向かい合っている。

「さて、どうしたものか……」

 ユファが思案顔で腕を組むと、エリーザが優しい笑みを浮かべて一歩前に踏み出した。

「アン様、ここは私にお任せ下さい。フォーワード、アン様を頼んだわよ」

「……あぁ」

 一歩、また一歩と近づいてくるエリーザにシエラとユファは身構える。どうやら彼女一人でシエラとユファの二人を相手にするつもりらしい。確かにシエラはまだ戦えるレベルではない。ユファの実力も未知数だ。

「さぁ、どこからでも来なさいな」

 両手を広げて微笑むエリーザに、ユファは右手に巻きつけている数珠を外した。

「……シエラ、ここは私が何とかしよう」

 しかし、シエラはユファの申し出にゆるゆると頭を振った。

「少ししか力になれないけど、私も戦うよ。任せきりには、もう出来ないから」

 これはシエラなりの決意だ。もう二度とあんなもどかしい気持ちにはなりたくない。役立たずの足を引っ張るだけの存在になど、なりたくない。シエラが毅然とした表情でそう言うと、ユファは「分かった」と小さく微笑んだ。

 シエラは鞄から小刀の魔道具を取り出し、それに魔力を込める。まだ魔法の成功率は高いとはいえないし、素手では接近戦のときに一瞬で決着がついてしまう。

「……行くぞ」

「うん。……翳した刃よ、水を纏え――アクア・ランス!!」

 シエラが右手を振り下ろすと、上空に巨大な水でできた槍が出現する。それはシエラの三倍ほどの大きさを誇っており、周りにいた兵士たちからどよめきが上がった。

「あら、随分と立派な矛ね。でも……」

 真っ直ぐに向かってくるそれにも、エリーザは微動だにしない。エリーザがゆっくりと手を横に薙ぐと、シエラのアクアランスは一瞬にして消えてしまった。

「……甘い、な」

 いつの間にか接近していたユファがエリーザに思い切り雷撃を叩き込む。ドガァアン、という凄まじい音と共に地面が焼け焦げ巨大な穴が開く。

「ッ!?」

 しかしそこにエリーザの姿はなく。

「こっちよ」

「がはっ」

 ユファが後ろを振り返ろうとした瞬間、思い切り背中に蹴りを叩き込まれ、数メートルに渡り吹っ飛ぶ。ユファは空中で身体を捻り、地面を引き釣りつつも何とか足で踏ん張る。いつの間にかエリーザはユファの後ろを取っており、その長い金髪を靡かせている。

「我が敵を燃やし尽くせ、フレイム・アロー!」

 シエラが再び詠唱すると、今度は無数の巨大な炎の矢が出現し、それはエリーザを目掛けていく。しかしそれもまた軽々とよけられてしまい、しかもエリーザが腕を薙いだ瞬間また消されてしまった。

「確かにあなたの魔力は凄いわ。でもね、大きければいいってものでもないのよ」

 戦闘中に、しかも敵に諭されるように言われてしまい、シエラは思いっきり顔を顰めて見せた。

「気にするな」

 しかしユファの言葉に、シエラはすぐに気を取り直す。ユファはエリーザに再び突っ込んでいくと、その右手に電気を纏わせる。

「はぁっ!!」

 その拳を振り上げ何とかあてようと突きの連打を繰り出すものの、全てかわされてしまう。エリーザは左足を軸として、右足を振り子のように大きく薙ぎ、ユファの右脇に踵を滑り込ませる。脇に踵を引っ掛けると、その勢いで倒れたユファの左腕を掴み捻り上げ、そして空中から地面に向かって叩きつけた。

「ッ!!」

「ユファ!」

 あまりの速さにシエラは勿論、ユファ本人も何が起きたか把握できなかった。ただ背中に衝撃がはしり、自分が地面に叩きつけられたのだという事だけは、数秒遅れて認識した。シエラは魔道具の柄をぎゅっと握り締めると、助走をつけてエリーザに向かって走り出す。

「やぁ! はぁ! ふぅ!」

「無理しない方がいいわ」

 エリーザはシエラの剣を軽々と避けると、彼女の左の脇腹を蹴り、ユファのところまで吹っ飛ばした。

「がはっ! ……はぁ、はぁ」

 シエラの息は段々と上がってくる。しかし休む暇などない。エリーザは倒れているシエラとユファに微笑みかけると、すっと右手を差し出した。

「冷たき奏、刹那の泉、御魂の在り処――アクア・フレア」

 エリーザが人差し指と親指を擦り合わせると、そこから水弾が幾つも飛び出し、それは真っ直ぐにシエラ達に飛んでくる。しかもそれは近づいてくるにつれ水量を増し肥大化していく。

「あぁぁぁあッ!!」

 水弾が直撃したシエラとユファは痛みに呻き声を上げて地面に倒れ伏す。強い相手だとは知っていた。しかし、エリーザの実力はシエラの想像の範疇を越えており、痛みで意識が朦朧としつつも驚きを隠せずにいる。立ち上がろうとシエラが腕に力を込めると、隣にいるユファがそっと手で制してきた。

「……このままでは、確実に私たちは負けてしまう」

 ユファの妙に落ち着き払った声音に、シエラは眉間に皺を寄せる。こんな状況下にも関わらず、些かユファは落ち着きすぎではないだろうか。何か秘策でも――シエラがそう思った瞬間、目の前に影が差す。

「あら、随分と余裕なのね。……ねぇ。私、痛めつける趣味はあまり無いの。だから早々に降参して欲しいのだけれど……」

「断る!」

 エリーザの言葉を、シエラとユファは声を揃えてすぐさま打ち消した。エリーザは眉間に皺を刻み、一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。ユファはシエラの背中を押さえつけると、神経をエリーザに集中させた。そしてエリーザがあともう二、三歩でシエラ達の目の前に来るという所で、ユファは何かを投げ付けた。

「これは……ッ!?」

 次の瞬間、エリーザの立っている地面の半径一メートルが、円形状に縁取られると光を放った。その光は次第に形を形成していき、エリーザを締め上げる鎖になる。両腕両足を封じ込められたエリーザは困った風にユファを見つめる。

「まさか、こんな小癪な手を使ってくるなんて思わなかったわ」

「小癪でも何でも、私はあんたに負けられない」

 ユファはゆっくりと立ち上がると、シエラを起き上がらせてから視線を彷徨わせた。

「すまない、シエラ。……イヴ!」

「きゅーん」

 ユファはイヴの名前を呼ぶと、どこからともなくイヴが駆け寄ってくる。屈みこんでイヴに目線をあわせると、ユファはその柔らかな毛並みを優しく撫でた。

「フォックスの血統ならば、イヴにも結界が張れるはずだ。……シエラを、頼む」

「きゅーん!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私も戦うって――」

「シエラの魔力を、ここで無駄に使うわけにはいかない」

 抗議の言葉は冷静にユファにかき消される。シエラは訳が分からず呆然とした。

「これだけの戦いならば、沢山の兵士が怪我をしているだろう。シエラの魔力は、治癒のために残しておきたい」

「ユファ……」

 足手まといというのも実際あるのだろう。けれどきっとこれはユファの優しさだ。シエラは一歩下がると、駆け寄ってきたイヴを抱き締める。

「すまない……」

「謝らないで。ありがと、ユファ」

 笑うことはできなかったけれど、これで良かったのかもしれない。先ほどまでの戦いでも結局シエラは何の役にも立っていなかった。

 ――悔しいけど……これが現実問題なんだ。

「きゅーん」

 励ますようにイヴが鳴く。それと共にシエラの周囲を翡翠の光がすっぽりと包み込む。ユファはそれを確認すると、エリーザに向き直った。

「……話し合いは、済んだみたいね」

「あぁ」

「なら良かったわ」

 エリーザは次の瞬間には鎖を消していた。自由になった腕を回して、にっこりと微笑む。

「二人で駄目だったのに、あなた一人で大丈夫かしら?」

「……そっちこそ、本当にあんた一人でいいのか」

 殺伐とした空気が二人の間に流れる。鋭い視線がぶつかりあい、そして強く地面を蹴っていく。拳と拳、魔法と魔法が激しくぶつかり合う。エリーザが繰り出す突きを避けながら、ユファは上体を捻り回し蹴りをする。それをエリーザは腕で受け止めると、ユファの足首を掴んで大きく宙へと放り投げた。シエラは二人の激しい攻防を見つめながら、ゆっくりと物陰に身を潜める。巨大な噴水とその周りの木々に寄り添い、ただ呆然と二人の戦いを眺める。

 ――レベルが、違いすぎる……。

 体術では圧倒的にユファは不利だ。まだエリーザは息も乱れておらず、随分と余裕な表情をしている。しかしユファは先ほどもろに魔法の直撃を喰らい、体力も磨り減ってきている。

 ――このままじゃ……。

 何かユファには秘策でもあるのか。シエラが固唾を呑んで見守っていると、反対方向から一際大きな破壊音が聞こえた。巨大な外壁のすぐ傍で戦っていたのは、グラベボとウエーバーだ。シエラは束の間ユファから視線を逸らし、二人の様子を眺める事にした。



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