幕間
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記憶にある両親の顔は、いつだって笑っていた。
ランティアは学校の屋上から一望できる景色に目を細めながら、校庭や屋外演習場で魔法を扱う生徒たちを鼻で笑う。
キルデレット魔法学校は今昼休みだ。生徒たちは各々好きな事をしており、ランティアもその内の一人である。空は今日も青く、雲は穏やかに流れていく。けれど、生徒たちの表情には心なしか不安の色が見え隠れしている。聖玉による地震の第一波が起きてからもうすぐ一ヶ月経とうとしている。世界はまだ滅んでいない。それが却って皆の心を不安にさせているのだ。
キルデレット魔法学校の生徒の面々は目の前で適合者選出を見てしまった。あの異常ともいえる光景を目の当たりにしてしまった以上、世界の滅亡という大きすぎる話を実感せざるを得ない。ランティアは適合者に選ばれた後輩の顔を思い出した。
一体あの後輩に何が出来るのだろうか。一体世界などという大きなものをどうやって動かすというのだろうか。たかが七人の人間が何をできるのだろうか。そしてそのたかが七人によって動かされる世界とはどの程度のものなのだろうか。
「――ランティア先輩!」
声のした方に視線を移せば、校庭からこちらに手を振って笑っているツヴァイがいた。にこにこへらへら。ランティアはツヴァイを無視すると、視線を再び遠くに見える王城や山々に戻す。小国を中心とした絆を信じさせる活動は、奇妙なほどに順調だ。絆が交わること――それは大きな力になる。
「適合者の真似事だな」
堪えきれなくなりランティアは思わず言葉を吐き出していた。アハトのやっている事に今更文句などつけない。しかし、時々おかしさに笑いが込み上げてくるのだ。あの膨大で強力な魔力を有したお転婆娘は、一体今どうしているのだろうか。適合者として、どんな困難にぶち当たり泣き言を言っているのだろうか。
「俺も、馬鹿だな」
こんな感情になど気づきたくなかった。けれど面影が重なってどうしても消えてはくれない。
――こんな事なら、さっさとツヴァイの奴を使えばよかったな。
世界はそう簡単に滅んだりはしない。ただ人間が生きていけなくなるだけで。今のところ出ている被害というのは小国を中心とした農作物への影響だけだ。それ以外は特にない。地震による建物の倒壊も地割れも隆起も断層も、起きていないのだ。
「……絆、か」
ランティアは独りごちて、ゆるゆると息を吐き出した。




