幕間
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ファウナ=ロベルティーナは、珍しく苛立ちを露わにしていた。
先日、聖玉による地震の第二波がやってきた。そのことを受けて八大国の首脳会談が行われ、先ほど終了した。ファウナも父であるロベルティーナ国王とその会談に出席していたのだが、そこでつい感情的になってしまったのだ。
――わたくしとした事が、なんと情けないのでしょう。
ファウナは先ほどの自分の失言を深く後悔している。国家間で迂闊な事をしてはいけないと、幼い頃より教えられ、今までその教えを守ってきたというのに。
――あぁ、どうしましょう……。
廊下をふらつきながら歩いていると、急に腕を引っ張られる。驚いて振り返ると、視界に深緑色が広がった。
「ロベルティーナ王女。供も連れずに如何したのですか?」
「ナ、ナルダン国王……ッ!!」
ファウナは驚きに、思わず上擦った声を上げてしまった。目の前にいるのは、四年前に若干二十三歳で王位を継承した現在のナルダンの国王だ。
「……も、申し訳ありません。少々、物思いに耽っておりました故……」
「先ほどの会談での事ですか。驚きましたよ、まさかあなたがあんな事を言うなんて。……私個人としてはもっともだと想いましたが」
「……王族として恥ずべき行動です。どうかお忘れ下さい」
ファウナは顔を俯かせる。現在適合者はフランズに向けて進行中だと言う。八大国としては一刻も早くルダロッタに到着して欲しいものだが、焦っても絆は作られない。会議の焦点としては、今後の国民への対応だった。しかしこれといった進展もなく、いつの間にかディアナとブラドワールの間で激しい論争が繰り広げられていた。ディアナ女王の宝玉を保有していないブラドワールに対してのなじりから始まり、最終的には全く関係のない個人的な話しになっていた。あまりにも低レベルな会話に、つい魔が差したのだ。
『いい加減にして下さい! そのような事は今どうでもいいではありませんか! 今最も考えるべきことは今後どうする事なのか、国民にどう対応するのか。……それでも一国の王なのですか!?』
最後の言葉はもう勢いで口から出てしまい、言った後ですぐに後悔した。
ディアナ女王もブラドワール国王も、当然烈火の如く怒り、もう会議どころではなくなっていた。
結局、火に油を注ぐ結果となってしまったのだ。
「……まぁ、少しはディアナ女王もブラドワール国王も目が覚めたでしょう」
「そうでしょうか? ……いずれにせよ、失言でした」
ファウナはナルダン国王に一礼すると、そのまま踵を返して宛がわれた部屋に戻った。ここはナルダン王国、その王城だ。今回首脳会談が開催されたのは騎士の国ナルダン。現在ロベルティーナを含む八大国の国王が一同に会している。
「はぁ」
ベッドに腰掛けると、深い溜め息を漏らす。
それにしても、シエラは大丈夫だろうか。とにかくそのことが今は心配であった。触れ合った時間こそ少ないものの、彼女からは底知れぬ何かを感じた。漏れ出ている魔力はあまりにも巨大で得体が知れない。
――心配です。どうか、無事であって下さい。
情報によれば今彼女は他の適合者と共にマフィオにいるらしい。無事に合流していた事に安堵しつつ、これからの事を考えると益々不安になる。
――シエラ、シエラ……。
ぎゅっと目を閉じて強く祈る。
こんな危機に直面している今こそ、心を強く保たなければならない。国民のためにも、上に立つ身としてしっかりしなければ。責任感でファウナは自分の心持を上向かせる。こうでもしなければ、挫けてしまいそうだった。
――……世界の運命は、一体何処に向かうというのでしょうか。
それは誰にも分からない事だけれど、出来るものならば明るい未来が待っていればいい。
誰も哀しむ事なく、誰も傷つく事なく、何事もなく再び聖玉が封印されれば。無理な願いだと知りつつも、ファウナは強く強く祈るのだった。




