表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リディア―世界の中で―  作者: 知佳
第四章:然
34/159

****


 シエラ達と別れたラミーナは、人気のない細い路地裏に入った。そこには黒い仮面をした怪しい男が佇んでいる。

「……こんな時間に珍しいわね」

「至急との事だったからな。……これを」

 ラミーナは男から魔術式で書かれた伝書を受け取る。伝書の文字を追いながら、ラミーナは深い溜め息を吐く。本当にいい加減にして欲しい、そう心から思う。

「お父様がこんな状態になるまで、お母様は何をしていたの?」

「……あまり、責めるような事を言ってやるな」

 男は険しい声でそう言うと、視線をラミーナの奥――シエラ達のいる大通り――に向けた。

「あれが、各国の適合者か。お前、ちゃんと馴染めてるのか?」

「問題ないわ。それにあんたに心配されるほど、もう子供じゃないのよ」

 拗ねたように反論するラミーナに、男は喉の奥で笑って「そうだな」と呟いた。そしてラミーナに渡した伝書に視線を戻すと、声のトーンを落とす。

「……覚悟は、出来ているな?」

「えぇ、とっくの昔にね。……あたしがやらないで、誰がやるっていうのよ」

 毅然とした態度ではあるが、その態度を本人を前にしたときに保てるのか。男はそれを心配していたが、今のラミーナの瞳には迷いがない。

「あの女がした事は重罪よ。許される事じゃない……。それはあんたも知っているでしょう」

 男は無言で頷く。あまり無駄口を叩いて彼女の傷口を抉るような真似はしたくない。ラミーナは銀の十字架のペンダントをぎゅっと握り締める。

「……悪かったわね、こんな遠方まで」

「いや、大丈夫だ。たまには遠出するのも悪くないしな。お陰で久々にお前とも逢えたわけだし」

 ラミーナは肩を竦めた。全く、この男は昔から口だけは達者なのだから困ったものだ。男はそんなラミーナの心情が分かったのか、再び喉の奥で笑う。

「安心しろ。別に誰にでも言っているわけじゃない」

「まぁ、その内女の子に刺されてもあんたは文句言えないけどね」

 ラミーナが冗談めかして言った台詞に、男は僅かにだが肩を揺らした。どうやら、思い当たる節があるらしい。やはり困った男だ。

「……ま、元気そうで良かったわ」

「お前もな」

 仮面で男の表情は分からないが、声は柔らかい。もしかしたら笑っているのかもしれない。ラミーナは受け取った伝書を燃やすと、代わりに鞄から一枚の白いカードを取り出す。

「ちょっと待ってて。今、お父様に書くから」

 ラミーナはカードに魔力を込める。するとカードは途端に真っ黒に染まり、魔術式が浮かび上がった。そして素早くラミーナは魔術式で文章を組み立てると、男に手渡した。

「お父様と、それからこっちは陛下に」

 男が受け取ったのは黒のカードと、それから小さな封筒だった。男は僅かに首を傾げる。

「おいおい、なんだ陛下にって」

「必ず届けて。頼んだわよ」

 しかしラミーナの真剣な眼差しと声から何かを感じたのか、すぐに頷き内ポケットに仕舞いこむ。

「……それじゃ、俺はこれで行く。武運を祈るぞ」

「ありがとう」

 ラミーナは男から数歩離れる。男の足元には魔法陣が浮かび上がり、次の瞬間男は炎に包まれ消えていた。ラミーナも路地裏を出ようと踵を返し、足を進めた瞬間。

「きゃぁああぁあぁぁあぁ!!!!」

 何処からとも無く悲鳴が聞こえた。慌てて大通りに出ようと駆けたものの、そこはもう群集で埋め尽くされていた。

 ――ちょっと、何が起きたのよ!?

 出しかけていた体を路地裏に引っ込め、ラミーナは壁伝いに空を飛ぶと、建物の屋上から様子を窺う。これといって目立つものはない。人の流れてくる方向に目を凝らしてみると、微かにだが魔力を感じる。

「……困ったわね」

 シエラ達は今どこにいるのか。出来れば合流したいが、下は人でひしめき合っている。迂闊に降りれば合流することは困難になるだろう。

 ――ま、クラウドあたりが勇んでそうだけど……。

 そのラミーナの予想は当たっているのだが、それを彼女が知る術は無い。すると、ラミーナの視界に誰かが入ってきた。

「ウエーバー……?」

 良かった。ラミーナは胸を撫で下ろす。恐らく今出てきた路地にシエラ達もいるのだろう。そう思い近寄ろうとした。しかし、ウエーバーが一人で先の方へと行ってしまった。ラミーナは様子を見る事にし、その場で姿勢を低くする。ウエーバーは何かを見つけたのか、その手に魔力を集中させている。

 ――ちょっと、街の中でぶっ放すなんて事しないわよね……?

 ラミーナは危惧しているが、案の定低級魔法だった。しかし安心したのも束の間、一陣の光がウエーバーに向けて放たれた。あまりにも一瞬の事に、ラミーナは言葉が出ない。

「……ウエーバー!」

 思い余ってウエーバーに飛んで行ったラミーナだったが、途中ではっとした。今下には敵がいるかもしれないのだ。そこに自分が迂闊に姿を見せれば……。

 ――マズいわね……。

 ラミーナは辺りをきょろきょろ見回す。居た。シエラ達だ。やはり路地裏に隠れていた。

 ラミーナはウエーバーの背中を一瞥すると、そのままシエラ達の元に下降していった。とにかく、ウエーバー一人に戦わせるのは非常に危険だ。前回魔物と戦闘になったときの情緒不安定ぶりは、何か引っ掛かるものを感じる。ラミーナがゆっくりと降りていくと、視線を上に向けたシエラが気づき声を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ