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終わりが紡ぐ

「お前より生きることを、絶対に許すな」

 青年は屍から剣を引き抜いた。その深緑の髪と瞳は赤に染まり、辺りは死臭で満たされている。青年はただ、弱い力で剣を握っているのが精一杯だった。身体から力は抜け骸と共に崩れ落ちる。

 この状況は十分に理解している。が、気持ちは依然として晴れない。

「……馬鹿野郎」

 真っ赤な両腕で温もりの消えた身体をやんわりと包む。

 二度と目が覚める事は無い。殺してしまったのだ。その自覚は血肉に刃が当たった瞬間から、彼の中に芽生えている。

 罪悪感とやるせなさが募る。青年は拳を地面に叩きつけた。

「馬鹿野郎が……!!」

 骸を包む腕に力が篭る。青年の叫びは曇天に木霊し、ぽつりぽつりと雫が零れた。何度も叩きつけられた拳は更に赤くなり、それは苦痛を伴った。

 そしてやっと気づいた。心が悲鳴を上げていたことに。

 鼻を突くような異臭も、切られた身体も、疲労からくる気だるさも、今は然して問題ではない。埋めようの無い喪失感が青年を襲う。取り戻すことも、ましてや代わりになるものも、この先の未来で現れることはないだろう。

「……見事な人生だったよ」

 青年の言葉は骸の胸中に吸い込まれて消える。

 壮絶な戦いは青年と、世界に大きな傷痕を残した。遙か未来にまでわたる深い溝と共に、語り継がれる英雄の物語として。


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