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青い嘘  作者: しいな けい
【捌】
52/68

黒から桜色へ

「同じ『葵山』を思っています」

 茂野は白刃に吉水の顔を映したまま、静かに告げた。

「それ以上は説明するも弁解するも無粋です」

 吉水はそこではじめて茂野に対して興味を持った。

 間合いを意図的に詰めながら、ゆっくりと茂野をぐるりと周り観察した。

「そして貴方様も、私と同じ思いのはずです」

「俺はお前らを蹴散らして、ただ咲夜を抱きしめたいだけだ」

「それだけの浅い存在を『葵山』や松緒様が守りたいと願っているとは私は思いません。吉水様の真のお心を、私はこの場でお墨付きの代わりとして得るため剱を手にしております」

「俺の真? そんなものただの後悔の塊よ。こんだけ美丈夫で強くて最高なのになぁ、たったひとり愛した咲夜も救えない三下の屑だ」

「だからこのような場を作られて、そのお力を持って咲夜様に尽くそうとされたのですね」

 茂野の言葉に、吉水は続けて罵倒する予定だった言葉を詰まらせた。

「……よくよく分かっているようじゃないか。じゃあここで俺に切って捨てられても、後悔なしって訳だな。いい度胸だ山ノ狐! 神楽殿守らしく喪の舞でも披露しやがれ!」

 茂野の間合いぎりぎりを周りながら死角を探っていた吉水が動いた。

 茂野の右後ろを死角と定めたのは、茂野の鍛えた体の調和が右肩だけ微妙に下がっていることを見抜いたためだった。

 剣の扱いを見るに右利き。切り返すにも躊躇が生じるはずだった。

 接近した吉水へ向けて先手必勝で攻撃に移った茂野が翳した白刃は、今までよりたしかに威力が落ちた。吉水は袖を犠牲にし身をかがめて避けると、茂野の左足を払い体制を崩させる。

 だが茂野はよろめいた身をそのままに、片手をついて体をばねのようにしならせた。

 すぐに覆い被さるようにして手刀を下ろそうとした吉水の肩を蹴り上げる。

 蹴り上げた足はそのまま吉水の首の後ろで交差し、ひねりを加える。

 栓抜きをかけられた蓋のように吉水が浮き地に叩きつけられた。

 強い打音と共に砂が舞う。

「砂埃だらけの格好で咲夜に会えっていうつもりか? 無粋だな神楽殿守」

 皮肉を放つ余裕はまだ残って居るようだ。

 打ち付けられた背の痛みなどなかったとばかりに跳ね上がると、支倉から強奪した槍に手をかけ引き抜いた。

 茂野は接近戦に持ち込むのは危険な部類だと察知したようだ。

 茂野の剣の刃渡りは確認した。

 槍で間合いを崩していくのが正統だろうと判断したのだろうが、茂野は剣舞体術だけではない。

 距離が出来た相手にならば、より効果のある対峙法があるのだ。

「ではその埃払って差し上げましょう」

 茂野は胸の前で大きく柏手を二回打ち、地脈の流れを借り陰陽術を放った。

 手甲にはめた瑠璃と玻璃の数珠が淡く輝くと、呼び出すべき力の名を囁いた。

 吉水へ襲い掛かったのは、大量の水だった。

 だが濁流が襲い吉水を飲み込むのではない。まるで吉水が金魚鉢にでも詰められたかのように、水牢が完成していた。

 対象を傷つけるためではなく捕縛するための術であるが、対象が呼吸を必要とするものであれば溺死させることもできる。

「はぁ、これはまた観覧側も涼しさを味わえる雅な演出であること。ねぇ久照、あれは陰陽術というものだよね?」

 鬼嶽はそれが命の危うさがあると分かっているだろうに、扇で口元を隠しながら優雅に笑んでみせた。

「『観世水(かんぜすい)』と言って、水の名の付く捕縛術式で」

「久照がやるとどうなるの?」

「儂ですか? 儂が『観世水(かんぜすい)』を放っても茂野と大して変わらんが、そうさな、本殿くらいは丸呑みにはできる」

「それは今度、夏の宴の見世物として見せておくれよぉ」

「あとで本殿を掃除するのは誰だと?『大江山』侍従を貸してくれるなら検討するが」

 久照は肩をすくめやる気の無さを見せたが、鬼嶽には丁寧に説明を続けてやった。

「茂野の『観世水』の見所は、範囲ではなくあの水なのだよ。あれはただの水に見えるだろうがな、茂野は器用にあの水質を変化させる。酸度を上げたり石灰質をあげるなど器用にこなすのだ。私の『観世水』は透明であるからそう名付けたが、私はあれを『色水』とでも名付けた亜種の術式だと読んでもよいと思っておるのです」

「へぇ……天才と言われて守夏と名前を並べて錦絵に描かれているだけはあるってことか」

「特に縛術に関しては光るものがある。儂より器用なものだ。一門のために縛られて生きてきたためかな。茂野にはもっと自由に選択し羽ばたく場所が必要だと思う」

「それが咲夜のところで叶うと思う?」

「さぁ、それは儂には分からん。だが、茂野自身が望んで多くに働きかける姿を見るのは、儂は好きだな」

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