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青い嘘  作者: しいな けい
【漆】
41/68

青から金へ

「わかった。私の縁深き弟として処遇を計ろう」

「ありがとうございます。兄弟皆、お兄様の広い心に感嘆するに違いありません」

「だが櫻花と吉水の処断の方針を変えるつもりはない。これを生かす代わりに二柱の処遇をこれ以上言う事は許さん」

 『豊山』は咲夜の反応を待たずに、茂野へ視線を投げる。

 この状態で座敷に上げているということは、咲夜の信頼を得られたということだ。

 茂野へよくやったと声にして褒めることはしなかったが、視線でそれに代えて続けた。

「それを『葵山』侍従に据える心づもりでいるようにな。気に入ったのだろう? 時雨をこうしてそなたの元へと気をきかせたのだ、そなたの心よく理解していると思っていい」

「茂野は『豊山』のお兄様の膝元の名誉を体現する見事な若者です。それは妾も深く感じ入っております、ですが」

「どうだ茂野。そなたからも嘆願して褒美を受けよ」

 『豊山』が茂野の言葉を求めたので、茂野は黙っていた口を開いた。

「僭越ながら、侍従位というものは底知れぬ相互の信頼から命じられるものと心得ております。まことに無念ながら私には『大豊山』と守夏様のような信頼関係がいまだ築けぬままでございます」

「そなたが悪いわけではない。先代侍従のことなら気にかけることはない。あれらはもう侍従位を退いたのだからな。余計な口だしをさせぬためにも処断をする」

 勝ち誇った『豊山』は鼻を鳴らしてみせた。

 明言に誰も抗議の声を上げることはできない。

「信頼を得るために私に別の褒美をお与えいただけますか」

「侍従の処断に関わる話でなければ聞くだけは聞いてやろう」

 茂野の求めに『豊山』は興味を持ったのか改めて茂野へ居直る。

「縁付けをお許し頂きたい御方がございます」

「申してみよ」

「『葵山』側近の松緒様でございます」

「松緒? なぜ松緒なのだ? 」

「松緒様は『葵山』の側近として長くお勤めの御方です。多くを学ぶことができるはずです」

「そのくらいの役目を与えて残しておくのも悪くはないが……」

 『豊山』はそこまで考えると咲夜へ視線をやった。咲夜は突然の茂野の言葉に理解及ばずにいたようだ。

「そなたも松緒くらいは残して欲しいか?」

「妾はもう誰の血も見たくはありません、それだけは何度も処遇をお願いしております」

「なるほどたしかに咲夜のこの頑なな態度は難しい。周囲から切り崩していく他にないな。私はその婚儀許す」

 松緒は咲夜のものであるが、『豊山』はもうそのつもりはないらしい。

「ですが茂野、そのような方法をとっても私はお前を侍従にはできません。それに松緒にも心があります」

 咲夜の主張を『豊山』は白けた目で却下した。

「心が必要なのは勧請の儀式だけだ。縁付は勧請とは違う。私的な家の永続のための契約に過ぎない」

「形は勧請の儀式と同じです。相手がいて身も心も預けるものです。勧請と違い心が要らないとしても、心を殺して茂野のために尽くせというのですか? それはあんまりです。縁付こそ契約ではなく、勧請こそが契約です 」

 声を張り上げる咲夜に、茂野は黙っていたが口を開いた。

「姑息な手段と嫌悪される覚悟はございます」

「分かっているのなら……!」

「私も一度貴方様の侍従になると決めたのです。必ずその約束を守り、真の信頼を持って侍従位を得てみせます」

「見ろこの茂野のさまを。そなたから真の信頼を得るために、没落し処断されようとするおなごを嫁に定めたのだ。感謝されて然るべきだろうに」

 これでは松緒が不憫なだけ──と咲夜は自分のために利用されようとする松緒の身を心配し、ふと気づいた。

 いや、今のままでは間違いなく松緒も処断されてしまう。

 茂野はそれを救ってくれたのだ。『紅葉山』が己にしてくれたように──

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