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青い嘘  作者: しいな けい
【壱】
1/68

赤から青へ

こちらはシリーズもの続編になりますので、単独で作品を楽しんで頂くことは難しくなります。


『ある稲荷の笑い方』→『赤い嘘』読了の方への4/1更新の定期連載小説です。





 いまはまだ 徒花なれど 年重ね 咲けまた巡る 清明のころ





 『葵山』清祥咲夜は目を覚ました。


 まるで背を押されるような感覚と共に得た目覚めに、目尻から涙がこぼれ落ちる。


 夢──を見た気がした。


 大事な何かと繋がっていたのだが、それを断ち切られた。

 それが何であるか、まだ思考にもやがかかり分からない。


「咲夜様、お目覚めですか。お加減は」

 横からかけられた声の主は信頼厚い、侍女松緒(まつお)

 そこまではいつもの目覚めとなんら変わりはない。

 しかし天井から下がる瓔珞(ようらく)壁代(かべしろ)几帳(きちょう)などの建具に見覚えはなかった。

 自らが体を横たえていた(しきもの)を確認するようにして半身を起こし周囲を見回した。

 ここは自分の山葵山でも、身を寄せていた紅葉山でもない。

「松緒……ここは…」

 乾いた口を開くと松緒は急に引き締まった顔を作る。

「『豊山』の奥の院でございます」

「……『豊山』の、お兄様…の…」

 まだ痺れが取れない頭で咲夜は記憶を辿った。

 自身は京の真南にある桜の名山葵山を守る稲荷神の一柱、であるからして体は葵山にあるべきであるが、他山である豊山に体はある。

 なぜここにいるのかと言えば、名目上『救出』されたからに違いない。咲夜の感覚ではつい先ほど、眠りに落ちる前に紅葉山にあった。

 紅葉山──その名の通りこの国の全ての赤を寄せ集めた秋の象徴を担う紅葉の名山、その山の稲荷神の懐にいたのだ。

  すぐに思考の(もや)は晴れ、全ての神経に行き渡る。

 弾けるようにして立ち上がろうとすると、激しい痛みが頭を貫く。

 今までに経験したことのないような、喪失感広がる。

 今までにない不定愁訴に起こした体を保てず、松緒に支えられた。

 松緒に薬湯を勧められるが、その前に「時雨は」とまだ幼い赤子の姿を求めた。

「『豊山三ノ輪』久照様が面倒を見て下さっています。久照様は御薬事です。時雨様がよく眠れるように薬を煎じて下さっております」

「それで『紅葉山』のお兄様は、どうなされたのです」

 咲夜が覚えている最後の兄の言葉を探る。


 ──許すのは私ではない、『みかど』でもない、いつかその子がそなたを許してくれる──


 それの、その後は。

 咲夜が求める赤子の時雨は、本来咲夜が産み落とすことのなかったひとの子である『みかど』との間にできた赤子であった。

 禁忌を犯した自らに変わって、『紅葉山』は全ての秘密を引き受けたのだ。


 『紅葉山』は確か、深い思いを寄せて自らの名を呼んだ。

 咲夜、とそう呼んで、それから先のことはまるで覚えていない。

 目が覚めたらここにいた。

 山は『豊山』をはじめ、『紅葉山』の所業を悪とするものが囲い、処断をも辞さぬ勢いだった。

 『紅葉山』の無事が危ぶまれた。

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