そりゃねーぜ!
別れ話を切り出した途端、元カレから怒号の電話が。
恐怖に震えながらも、頭をよぎるのは今まで買ってもらった家電や家具のことばかり……。
人間味あふれる(?)身勝手な主人公の、ちょっとブラックな修羅場ショートストーリーです。
「何をいきなり……」
達也の怒声は電話越しだからまだ聞いていられるけど、そうでなかったら、直接聞いたら鼓膜がどうかしてしまうかもしれない。
わたしはスピーカーから少し耳を離した。それでもまるでハンズフリーモードにしたかのような大音量が聴こえてくる。
「どういうことだよ!?別れたいって。意味わかんねえよ」
彼の怒声は当分止まることはない、英子は半分諦めて聞き耳を立てた。
「それは……」
「おまん、この前ネックレス買ってあげちょろう?そういう気持ちがあったのに強請ったのかよ!?卑怯者だし!嫌がらせ?!」
彼の声は少し掠れてきた。
英子は、ピンク色のシアー素材のネグリジェの生地を弄っていた。さらさらな生地が指先に心地よいのだ。
「どうすっと!?どういうつもり?!」
英子は答えられない。弱みがあるからだ。先に新たな恋人を見つけて結びついたのは英子の方なのだ。それと……。
「今まで買ってやった分、全部かえすとよ!あ!?いいな?」
「今まで買ってくれたもの……」
英子は思い浮かべた。
━━ダブルベッドをはじめとして━━。
新型のミストドライヤー…五万は下らなかったと思う……。食洗器━━もうすっかり食器を自分で洗うという作業を忘れかけている。━━それから、電動自転車━━。
それなしでは何処に行く気もしない。それから……。ほうれい線を消してくれるコンシーラーにカバーマークのファンデーションにルースパウダー……。
まだまだあるような気がする。
英子は気が遠くなる思いだった。
━━わたしって浪費癖があるのかなぁ
改めて思うまでもなくその通りだった。これは、少しでも罰を受けなければならないのかも、と考えた。
てまも、今となってはどれも返せない。返すことなど考えられない。新しいカレは、あまりお金持ちだとは言えない。それらの品 全てを買ってくれるとは思えない。
どれも大事なものだ。それでも、英子はエルメスやグッチやディオールやヴィトンのような高級品には目を向けなかった。
━━いや。ただ単に質より量を求めていただけなのかもしれない。モノグラムやケリーバッグ一つでドライヤーのごろっ個買えるかもしれないというしたたかな悪知恵で…。
「今日!一発ヤらせろよ!」
再び達也の怒声。英子はようやくスピーカーの音量を下げることを思いついた。
音量をゼロにした。ベッドに横になって目を瞑った。しばらく深呼吸を繰り返した。面倒臭いから彼と復縁するか?そこまで考えた。
その時だった。玄関のドアが激しくノックされた。心臓が止まりそうになった。恐怖だった。逃げ場はなさそうだった。そうかと言って後悔はしたくなかった。
達也はナイフとかを持ってきてはきないだろうか?にやってくるだろう ことは最初からわかっていたではないか!
英子は通話を切った。警察に電話する。いや……。新しいカレにすべきなのだろうか?だが、カレにそんな危険なことをさせたくはなかった。
━━かちゃり……
鍵が開く音がし、部屋に冷たい外気が入り込んでくるのがわかった。達也は、合鍵を持っているのだった。わたしは わたしの馬鹿さ加減を笑った。ドアチェーン もしてなかった。
「一発ヤらせろよ!」
怒声。
警察は間もなくやって来るだろう。
強姦をされるのとまったく同じようなセックスをしなければならないんだろうな……、恐怖に涙が出た。いやそれで済むならまだいいか。ベッドの自転車の 返さずにすむのなら。と私にはいつか 罰が当たるのだ。
【了】
最後までお読みいただきありがとうございました!
身の危険を感じる修羅場の中でも「もらった家電は絶対に手放したくない」と考えてしまう、ちょっと図々しくてしたたかな主人公を描いてみました。
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