第3話 うらぶれた元騎士と落ちこぼれ魔王娘 2
「では尋常に……参る!」
「うむ、受けて立つ!」
元騎士と魔王の娘の決闘は、死闘を極める結果となった。
大剣と素手、剣戟と格闘は、数百合、数千合と渡り合う。
「流石は魔王の娘……やるな!」
「オマエこそ、人間の割にかなりの手練れ!」
両方とも嘘偽りなく正直者なので、お互いがお互いに褒め称えた。
双方、時には水をすすり、時には汗を拭い、時には仕切り直しする。
「我が友・アイオロスよ、我に力を与えたまえ!」
死力を尽くすべくアルベルトは、親友の名を借りてそう叫んだ。
やがて陽が落ちて、月が昇るも、尚も脇目も振らず、一心不乱に戦った。
然して両雄並び立たず。ほぼ互角とはいえ、史上でも稀な大激戦であった。
だがしかし――時が経つにつれ、戦況には分があり、天秤が傾き始めた。
「……ぐふっ」
月が沈み、夜明けを迎えると、ついに決着はついたようだ。
息を切らさずも、両足で大地に立ったは、魔王の娘。
地へ膝をついて、両手から落剣したは、アルベルトであった。
「俺の……負けだ」
激闘に激闘を重ねた末、アルベルトは遂に力尽く。
もはやこれまでかと、首を差し上げた仕草で観念した。
「さあ、俺を殺すがいい」
息絶え絶えのアルベルトは、目を瞑って大の字となった。
しかし困り顔の魔王の娘は、腰を落として胡坐をかいた。
「……? どうした?」
「いや、殺そうにも、我の身体が言うことを聞かない」
こう言った魔王の娘は、芯の底から力なく疲れ切っていた。
そして魔王の娘は、空腹に耐えかねて殺そうにも殺せなかったのだ。
「やはり腹が減ったのか」
「一昼夜、何も食えず、疲労困憊なのだ」
「そうか……それは不憫だな」
腹が減っては戦が出来ぬ。
先程から豪快に腹の虫が鳴き続いていた少女の前では、尚のこと。
なればとアルベルトは、無理を承知で己の腰を上げた。
「仕方ない。料理をしよう。まずはそれからだ」
アルベルトは、謹厳実直であると同時に、情け深かった。
「料理とは、なんだ?」
「料理とは、飯を作るということだ」
「ふぅむ、料理……それでいいのか?」
魔王の娘は、申し訳なさそうに上目遣いをした。
素朴であり、純粋であり、素直であった。
「仕方なかろう」
アルベルトは、正直者であり寛容であった。
「では、オマエを殺すまで待つことにしよう」
二人とも自らの意思で、片付け始末と野外調理の準備を開始する。
「今回の料理とは、あり合わせなものでよいか」
「それでいい」
そういうことになった。




