第7話 再会
視界のすべてを、粘りつくような暗闇が支配していた。 次元のうねりに身を投じたベルを待ち受けていたのは、音も、光も、方向感覚すらも奪われた空間――「次元の廻廊」。 一歩踏み出すごとに、自身の存在が薄れていくような底知れぬ恐怖が、冷たく背筋を這い上がってくる。
ふと、あの神が遺した言葉が脳裏に蘇った。 ――あの日、知ってしまった残酷な真実。 世界という箱庭を維持するためには、定期的な魔力の供給……つまりは「魔女という名の供物」が必要だったのだ。
(私は、世界を支えていた神様を殺した。これ以上、誰も犠牲にしたくなくて)
けれど、その選択が正しかったのか、ベルはわからなくなっていた。
(でも、それって結局、世界そのものが消えて皆死んじゃうってことだよね。私がしたことって、何の意味もなかったんじゃ……)
思考の渦が、彼女の足を止めようとする。絶望が喉元までせり上がってきたそのとき。
――パンッ。
乾いた音が、虚無の空間に響いた。 ベルは自分の両頬を、赤くなるほどの強さで叩いた。
「しっかりするの、ベル!まだ、終わってなんていないんだから!」
声を出して、自分の中の弱さを叩き出す。
(探さなきゃ。里も、みんなも、全部救う方法を……!)
瞳に決意の火を灯したその瞬間、背後から染み出すような声がした。
『ふふ、よくやったわね、ベル』
次元のうねりに飛び込む直前、耳元で囁いたあの声と同じだった。 光源などどこにもないはずの暗闇の中に、その人物の姿だけが、嫌に鮮明に浮かび上がっている。 豪奢なローブを纏い、威厳に満ちた佇まいを見せる一人の女性。
「……あなたが、私をここに呼んだのね」
ベルが静かに問いかけると、女性はまるで可愛い妹を見るような、茶目っ気のある微笑を浮かべた。
『ええ、そうよ、ベル』
「……『長老』、ですね?」
『流石はベル。やはりあなたは、誰よりも優秀ね。……そう、里ではあんな姿だったけど、こっちが本当の私』
ベルの心に、驚きはなかった。あの里が造り物だと知った時から、それを管理する長老もまた、何層もの皮を被っているのだと確信していたからだ。
「色々と聞きたいことはあります。でも、これだけは、ハッキリさせておきたいです」
ベルは杖を構え、その身に魔力を滾らせる。 周囲の闇が、彼女の殺気に呼応して微かに震えた。
「……答えてください、あなたは、私の敵ですか?」
突き刺すようなベルの視線。対する女性は、困ったように首を傾げて答えた。
『まさか、敵なわけないじゃない』
女性は一歩、ダンスでも踊るかのような軽い足取りで歩み寄る。
『改めて名乗りましょうか。私の名前はウィズ。始まりの魔女……なんて呼ばれてるけど。……まあ、あなたのいた世界の、本当の神様ってところかしらね』




