昼下がりの魔法少女
※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。
注意:同性愛に関わる表現があります
「うわっ、喜久福じゃん!
ありがと〜!うちの子、これ大好きなんだ。」
「そうなんだ?じゃあもっと買ってくれば良かったね。」
「いやいや。うちの冷凍庫、常にパンパンだから。入らないって。」
クミは、笑いながらそう言うと、私が買ってきたお土産を手に、台所に入った。
「それで、ホノカ〜?
今度は何年くらい仙台に居られそうなの?」
台所から声だけが届く。
「うーん、実はね。
子どものことも考えて、うちの旦那、転勤のない地域社員に転属したんだ。
だから、今後はずっと仙台住まいの予定。」
「そうなんだ!
まぁ、今まで数年に一度で引っ越してたもんね。大変だったよねー。
良かった良かった。」
「ちょっと収入は減るけどね〜。
その分、私が腰を落ち着けて働けるから、むしろ世帯収入は増ですよ。フヒ」
「よかったじゃん。
それに、私達もまたこうやってお茶飲みできるね。
嬉しいな。」
ティーカップを手にクミが台所から出てきた。
他愛のない会話が進む。
私達は魔法少女だ。
だった…といったほうが良いか。
◆◆◆◆◆
『間に合って良かった〜。佐伯さん大丈夫?』
中学1年生の秋。
ある日、私は突如化け物に襲われた。
そしてその直後。私は、何の前触れもなく魔法少女に変身する。
ちょうど精神的に参っていた時だった。
私はその状況を、画面越しの出来事のように呆然と見ているしか出来なかった。
襲いかかって来る化け物。
ああ、死ぬんだな…。
…けれども、その瞬間は訪れなかった。
現れたもう一人の魔法少女に、私は救われたんだ。
それが、同じクラスの堂上さん…クミとの、魔法少女としての初めての出逢いだった。
◆◆◆◆◆
「ふぅ〜、痛たた。」
「どしたのホノカ? 腰、辛そうだね?」
「下の子を産んだあたりから、腰痛がひどくてさ。
おまけにうちの子、抱っこちゃんだから、治る暇がないのよ。」
「私の通ってる整形外科に行ってみる?
こっちの話聞いてくれるし、説明も丁寧なの。」
「クミも腰痛?」
「私は首痛。お互い年は取りたくないねぇ。ハハハ。」
◆◆◆◆◆
『佐伯さんも魔法少女だったんだ?。初めて他の魔法少女に会ったよ〜〜!』
クミは、1年ほど前に魔法少女に覚醒し、以来世界を救うため、異界の化け物を退治する任務を続けているという。
あの化け物と戦うだって!?
怖い…絶対に無理だ。殺されるに決まってる!
私は半狂乱になりながら、いま魔法少女になったばかりだと言うことをクミに伝えた。
するとクミは、
『ふ~ん…、このタイミングでかぁ。容赦ないな。
美人さんだから、【アレ】に前から目を付けられてたのかも。
なんにしても酷い話だ。』
と、呟いた。
その時は、私にはクミの言っている意味を正確には理解できていなかった。
◆◆◆◆◆
「この前、カンナに会ったよ。」
「うわ、久しぶりに名前聞いたわ。どうしてた?」
「今や3児の母だって。体格もずいぶんよろしくなってたわ〜。
でね、『3人の子供はかわいいけど【もう一人の子供】はマジで邪魔!』って言ってた。」
「もう一人?」
「旦那のことよ。ハ、シ、モ、ト。」
「うわぁ…中学の時からの超絶片思いを実らせて結婚したのにねぇ…うへぇ。」
「ね。“恋に一途な夢見る乙女“の面影は何処?だったよ。」
◆◆◆◆◆
魔法少女になってから、私は常にクミにベッタリだった。
そしてクミも、足手まといの私を見捨てずにずっと一緒にいてくれた。
一緒に戦う、というより一方的に守ってもらうだけの関係。私は完全にクミに依存していた。
あの狂った世界で、クミは私の全てだった。
『私達はね。【ソレ】に選ばれたんだよ。
【ソレ】の好物はね、若くて美人で可愛くて、心に葛藤を抱えた女の子なの。
そういう子が悩みながら戦って、傷つくのが大好物なの。
私もホノカも可愛いからね、へへへ。
そして、私の場合は両親の離婚が切っ掛け。
ホノカの場合は、おそらく…ご両親が直前に事故で亡くなった。
その事で【ソレ】に目を付けられた…。』
◆◆◆◆◆
「ホノカ。ご両親のお墓参りは?」
「ここに来る前にね。午前中に行ってきた。」
「そっか…。」
「なんかさ…。親が死んじゃった時。自分はなんて不幸なんだって、思ったの。
生活とか将来の不安もあったけど。
何より、愛する人を失うっていうのは、世界の終わりのような絶望だと思ってたのね。
まあ、その後の超展開に、そんな事全部ぶっ飛んじゃったけどね、ハハ。」
「…うん。」
「だけどさ。
30歳も間近になって、改めて周りを見ると、
同級生にも、祖父母や親を亡くしたって話を結構聞くようになって。
それに、死んだわけじゃないけど、好き合って結婚したのに、離婚した子も結構いるじゃん?」
「うん。」
「そうなってくると、『愛する人との別れ』は特別なものじゃなくて、早い遅いの差こそあれ、誰もが必ず、沢山経験するものなんだなぁ、って。
それでも人生は続いていくんだな、って。
ものすご〜く実感した。」
「…若い頃って、永遠に変わらないモノを追い求めたり、命をとてもキラキラした神聖なものって考えたりするよねぇ。」
「歳を重ねて見え方が変わって来た、っていうのかな…。
今は、『永遠』よりも『延々』と続く腰痛のことが重大事ですよ。」
「私も、今一番の心配事は、『子供が小学校で問題起こしてないかなぁ』…って。
今年に入って、もう二回学校に呼ばれてるんだよ!!ホント勘弁してよぉ〜〜〜っ。」
「ハハハハハハ!」
◆◆◆◆◆
『もう嫌だぁ…いつまでこんな事続けなくちゃいけないの?』
『…』
『クミ、私にはクミしか居ないの。
ううん、クミがいれば何も要らない。
たから…私とずっと一緒にいて!』
『…うん。ずっと一緒だよ。』
『ねえ、ホノカ。
多分。多分だけどね。この戦いは永遠には続かないよ。
おそらく私達が大人になった時に、この戦いは終わる。少なくとも私達の戦いはね。
ホノカは、魔法少女の物語を観た事はある?アレはね、少女の成長物語なの。
【作り手】がね、居るの。脚本がね、あるの。
脚本という名の、【ソレ】がまき散らす欲望。
若くて美人で可愛くて、心に葛藤を抱えた女の子が、戦って、悩んで、傷つくのが大好物な【ソレ】の作った物語。
そのキャストに選ばれたのが、私達なの。』
◆◆◆◆◆
「ところで、前から聞きたかったんだけどさ。ホノカってレズちゃんなの?」
「言うな黒歴史っ!!!」
「ハハハハハハ」
「あの狂った世界でね。依存をこじらせてクミを好きになっていたことは否定しない。
気持ち悪いとか思われたくなくてずっと黙っていたことも。それもバレバレだったであろうことも。
でも、今は 旦那と ラブラブですから!!」
「あら残念。覚悟決めにゃならんかと思ってたのに。」
「憎い!こんなヤツを一度でも好きになった自分が憎い!」
「ハハハハハハ」
騒がしくも静かな昼下がりだ。
◆◆◆◆◆
高校卒業前後から、私達の前から化け物が明らかに減り始めた。
20歳を迎える頃には、完全に目の前から消えた。
クミが言うには、私達は賞味期限切れらしい。お払い箱なんだそうだ。
おそらく、若くて美人で可愛い子が、新しく見つかったんだろう、とのこと。
クミが言うことは全て憶測だ。でも当たっていると思う。
やがて、日常を取り戻した私は、急に気恥ずかしさを感じて、クミと疎遠になってしまった。
そうこうしている内に、私は故郷を離れ、就職し、結婚し、子供を二人儲け、
…そして故郷に戻ってきた。
◆◆◆◆◆
…耳の奥が微かに響く。
「あ、クミごめん。ちょっと急ぎの用事思い出した。」
「あ、もしかしてホノカも助っ人?」
「え…もしかして、クミも?」
「んだんだ。
現役魔法少女を、ちょ〜っとだけね、手助けしてる。
化け物殴ってストレス解消もあるけど。」
…後者がメインではないだろうか。
ただ、なら話は早い。現場に急ごう。
私は魔法少女に変身する。
当時のままのコスチュームは、もう既にかなり恥ずかしい。
「え?ホノカ、まさかそのまま活動してるの!?」
「だって仕方ないじゃん!このコスチューム変わらないんだもの。」
「そっかー。私はね…これ!! ジャーン!!」
「着ぐるみ?…そうか!魔法少女コスの上にそれを着るんだ。」
「そういうこと!
因みに手作りよ。名付けて『ずんだマン』!!
もう一個あるけど着る?『ずんだマンブラックRX』。」
「それは既にずんだでは無く黒ゴマあんでは?
…でも、良いね。じゃあ貸して?」
「いいよー。
でも…その魔法少女コスを着て恥ずかしそうなホノカもなかなかにそそるわ。
…そのまま行かない?」
「バカなこと言ってないで早く貸すっ!そして急ぐっ!!」
「へいへーい。子供が帰ってくる前に片付けないとねー。」
◆◆◆◆◆
私達は、【ソレ】によって勝手に見出され、勝手に戦わされ、そして勝手にお払い箱になった。
ただ、お払い箱になっても私達の能力はそのままだった。
【ソレ】にとっては、もうどうでもいいことなんだろう。
◆◆◆◆◆
【ソレ】にとっては価値の無い、私達のその後の物語。
オバチャンが日常を生きるだけの物語だ。
キラキラなんてない。頭の中はいつだって毎日の生活のことで一杯だ。
ああ、平凡な物語だ。
平凡すぎて……愛おしい。
今を生きる魔法少女にも、今の先の物語を見て欲しい。
だから私は今も戦うんだ。
世界を救う、魔法少女を救うため。
「ねぇクミ?」
「なにホノカ?」
「ずんだマンブラックRXの前に、ずんだマンブラックがあるべきじゃない?」




