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白銀の街で、桜色の君と

一月のトロント――。

白銀の世界に舞い降りた一人の少年、千代田少。

彼は日本・大阪から、自分の夢を追い求めてカナダへやって来た。


慣れない異国の街、降りしきる雪、心に積もる不安。

そんな時、彼の前に現れたのは――

桜色の頬をした少女、神崎千夏だった。


「初めまして、神崎千夏です。どうぞよろしく!」


それは偶然の出会いだったのか。

それとも、運命の始まりだったのか。


雪の国で交差する二人の心。

凍える冬の日々は、やがて春のように温かく変わっていく――。


青春留学ラブストーリー、ここに開幕!

その雪の降る冬の日。

カナダ、トロントに降り立った瞬間――。


目の前に現れた少女を見た時、まるで桜の季節に迷い込んだかのように錯覚した。

白銀の世界の中、彼女だけが鮮やかに咲く一輪の薔薇のようで、心を掴まれたまま離してくれなかった。


一月のトロント。

空から舞い落ちる雪は羽毛のようにふわりと降り、大地を純白に染めていく。

その美しさに息を呑みながらも、胸の奥には不思議な重苦しさがあった。


――僕は、大阪桐蔭高校から来たただの高校生。

大阪での暮らしは決して悪くなかった。

けれど、自分の理想を追い求めて、この北の国までやって来たのだ。


「ここは四季がはっきりしているし、気候だってきっと悪くない」

……そう信じていたはずだった。

だがその考えは、まるで砕けたガラスのように、空港に降り立った瞬間に散り散りになってしまった。


手続きを終え、荷物を受け取り、人混みの中へ。

不安と期待が入り混じる中で、ふと目に飛び込んできたのは――


灯台のように僕を導く、一人の少女だった。


「す、すみません……オーロラ高校から迎えに来てくださった方、ですか?」


恐る恐る声をかけると、少女は驚いたようにこちらを見て――顔をほんのり夕焼けのように染めた。


「は、初めましてっ……! 神崎千夏です。よろしくお願いします!」


「千代田少です。よ、よろしくお願いします」


……こうして、僕と彼女の物語が始まった。


車に揺られながら、僕たちは一言も話さなかった。

気まずい沈黙だけが流れていたけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


やがて車は住宅街の小さな家の前で止まった。

千夏は降りて、チャイムを押す。


「ただいま。おばあちゃん、彼が今日からしばらくうちに住む子だよ」


ドアを開けたのは、七十歳を過ぎた優しそうなおばあさんだった。

僕は顔を真っ赤にして、慌てて頭を下げる。


「は、初めまして……千代田少といいます。これからよろしくお願いします!」


その人は神崎千日と名乗り、にこやかに迎えてくれた。


「ここが君の部屋だよ。私の部屋は隣だから、何かあったら声かけてね。ご飯はもうすぐだから!」


そう言って千夏は駆け足で去っていった。


部屋は小さかったけれど、不思議と温もりがあった。

家具はベッドと机、そして小さなタンスだけ。

それでも、ここから新しい生活が始まるのだと思うと胸が高鳴った。


荷物を整理していると、下からおばあさんに呼ばれる声がした。

廊下に出ると、ちょうど千夏も部屋から出てきて――


「きゃっ! な、なにしてるのっ」

「ご、ごめん! 全然見えてなくて……!」


あわや衝突。千夏は頬を膨らませ、足早に階段を下りていった。


夕食の席では、おばあさんの手料理に思わず箸が止まらなかった。

美味しい上に、温かい。

まるで大阪に残してきた家の食卓のようで、胸がじんわりと熱くなる。


「ふふ……日本から来たなんて大変だったでしょう」

おばあさんの問いに答える僕の横で、千夏は静かに耳を傾けていた。

時々、くすっと笑みを浮かべるその姿が、どうしても気になって仕方がなかった。


食後、僕は皿洗いを買って出た。

千夏はテーブルを片付けていたが、おばあさんが散歩に出かけると、家には僕と彼女だけが残った。


「千夏、もう休んでいいよ。残りは僕がやるから」

「大丈夫だよ、私がやる」

「でも……疲れてるんじゃない?」

「へーき、へーき」


そんな何気ないやり取りの中で、少しずつ距離が縮まっていった。


千夏はカナダで生まれ、小さい頃に両親を亡くして以来、おばあさんと二人で暮らしていること。

僕は日本から来た、ただの本好きの高校生に過ぎないこと。


ぽつぽつと語り合ううちに、互いのことを少しずつ知っていった。


「ねえ、本を読むのが好きなんでしょ? じゃあ、書くのも得意なんじゃない?」

「い、いや……そんな大したことないよ」

「ほんとかな? 車の中でノートに何か書いてたでしょ?」


赤くなって否定する僕を見て、千夏は小さく笑った。

――その笑顔に、なぜか胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。


こうして、僕と千夏の関係は、静かに、でも確実に築かれていったのだった。

ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。

作者の千代田 少です。


初めての長編小説執筆ということで、不安もありましたが、最後までお付き合いいただけて嬉しいです。


この物語は、「もし自分が異国の地で出会いを果たしたら」という想いから生まれました。

そして、その出会いが少しでも読んでくださる方の心を温めることができたなら、これほど幸せなことはありません。


千夏との物語は、まだ始まったばかりです。

次の章でどんな景色が広がるのか、自分自身も楽しみにしながら書いていきます。


改めて、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

それでは、また次の本でお会いしましょう。

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