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柔らかい衝突事故

 体育授業の終わりに、私達は先生から片付けを命じられた。一緒に片付けをしてくれるのは、よりにもよって草野杏奈。彼女は事あるごとに私に迫ってきては、私の体を揉みしだこうとしてくる。対抗しようにも、帰宅部の私と、部活動で普段から鍛えられている彼女との力の差は歴然だ。もう既に足や二の腕を揉みしだかれた敗北の過去がある。


 私は細心の注意をはらいながら片付けをしていき、残すはボールが入ったカゴを体育倉庫に片付けるだけ。車輪付きのカゴを押して倉庫に向かおうとした矢先、いつの間にか背後に立っていた杏奈が私の肩に触れた。


「凛。私も手伝いましょうか?」


 耳元で囁いてきた純真清楚な杏奈の声に、私は騙されそうになった。彼女は一見清楚な女子に見えるが、その内面は変態だ。初対面の頃に、自己紹介をした私に対して「あなた、良い体ですね!」と平然と言い放ってきた。


「見て分からない杏奈? あとはこれを倉庫に持っていくだけだから、あなたは先に教室に帰っていいわよ?」


「あなたを置いて私だけ責任から逃れる訳にはいきません。先生は、凛、そして私を片付けに指名したのですよ? 請け負った仕事には責任が伴うものです」


「つまり、何が言いたいの?」


「つまり、同じ責任を背負った私達は運命共同体。生きる時も死ぬ時も、私達は共にあるべきなのです」


「そう・・・・・・じゃあ、これ運んできて。私は倉庫の扉を開けて、これをしまっておくスペースを空けておくから」


「ええ、参りましょう!」


 なんかよく分からないけれど、やけに気合が入ってるな。ただボールカゴを片付けるだけで責任がどうとかの重い話をするか? 


 不安と嫌な予感を覚えながらも、私は先に倉庫の扉を開けて中に入り、ボールカゴをしまうスペースを空けていった。倉庫の中は綺麗に整理されていて、少し物をズラすだけでスペースを十分に確保出来た。


「フフ。鴨がネギ背負ってやってきたとは、まさにこの状況ですね」


「え?」


 振り向くと、不敵な笑みを浮かべた杏奈が、ボールカゴを外に置いたまま倉庫の扉を閉めていた。


「・・・・・・ねぇ、杏奈。カゴ、外に置いたままなんだけど・・・・・・え、ちょちょ待って!?」


「問答無用!!!」


 杏奈は体勢を低くしながら私の懐に入り込んでくると、そのまま私の体を持ち上げると、後ろにあったマットの上に私を投げた。立ち上がろうとする私よりも杏奈は素早く、私に馬乗りになって恍惚な表情で私を見下ろす。


「ハァハァ・・・・・・! この時を待ち望んでいました! 凛を滅茶苦茶に出来るキッカケと場所を!」


「やっぱりそれが狙いか! いくらなんでも、やって良い事と悪い事の区別はつけられるでしょ!?」


「良いも悪いも、元を辿れば一つの事!」


「意味分かんないよ!?」


 まずい、これは本当にピンチだ。ただでさえ力では敵わないのに、馬乗りにされてる所為で体を動かす事も出来ない。おまけに杏奈は興奮し過ぎて暴走している。


「一目見た時から、私は凛の肌に興味が湧いていました。アウトドアではないインドアな白い肌。細身だというのに柔らかそうな体つき。私の内を知りながら避けようとしない警戒心の無さ・・・・・・それが今、私のすぐ目の前に・・・・・・!」


 杏奈は私の制服のリボンを外すと、制服をズラして肩周りを露出させた。肩か鎖骨か、私のどこかを杏奈は蕩けた目で見つめてくる。


 このままでは私は杏奈に喰われる。不幸中の幸いか、杏奈は私の服を脱がそうと腹部から足の方へと移動していた。これによって上半身だけは動かせるようになった。一か八か、上体を起こす勢いを利用して杏奈を突き飛ばそうと、私は勢いよく体を起こした。


 その結果、私は杏奈を突き飛ばす事は出来なかった。元々力の差は歴然な上、起き上がるだけでやっとな私では突き飛ばす事は不可能な事だったのだ。


 危機を脱する事は叶わなかったが、その代わりに衝突事故が起きた。私の唇と、杏奈の唇が触れる柔らかい衝突事故。


 すると、暴走していたはずの杏奈が急に立ち上がり、私から徐々に離れていく。その杏奈の顔は、先程までの恍惚とした表情ではなく、リンゴのように頬が真っ赤に染まっていた。


「え・・・・・・え、嘘! ご、ごめんなさーい!」


 取り乱したかのように杏奈は急いで倉庫から出ていき、私は独り取り残されてしまう。あんなに大胆なこたを事をしたのに、唇が触れただけで真っ赤になるなんて。これは、今後の武器として活用していこう。いつまでもやられてばっかなのは悪い。


 私だって、杏奈の事が好きだもの。

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