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蜘蛛の糸

 自慢じゃないが、オレは喧嘩が強い。ムカつく奴は大人だろうが関係なくブッ飛ばしてきたし、売られた喧嘩は必ず買って、二度と生意気な態度を取れないように病院送りにしてやった。


 そんな風に好き放題暴れていたものだから、オレは檻の中に入れられた。犯罪者の大人共と同じ空間で過ごし、毎日のように自分の拳を血に染めていた。食事も睡眠もロクに取れず、徐々に体力が削れていき、オレの体に傷や痣が増えていった。日に日に増えていく傷や痣を見る度に、この檻が自分の墓場なのだと思うようになり、もう二度と外の世界に出る事は叶わないと諦めるようになった。


 だがある日、オレに奇妙な話が飛び込んできた。檻の中から出る代わりに、ある学校に在学するという条件。一体どういう意図で、誰が何を企んでいるかは知らないが、檻の中から外へ出られる絶好の機会に、オレは二つ返事で了承した。


 転校先の学校の名は【早乙女女学院】。全国的に有名なお嬢様学校だ。金持ちの親を持つ娘共が在学し、未来の権力者として学校側が教育する。オレには永遠に縁の無い場所だったが、人生とは奇妙な事に、今のオレはそこの学校の生徒だ。勉強も出来ないし、権力者になんかなりたくもなかったが、またあの檻の中で過ごすのはもっと嫌だった。


 そうして目立たず大人しく過ごしていたある日、オレはいつものように人気の無い学校裏で寝ていると、複数の足音が近付いてくるのを耳にした。オレは咄嗟に身を隠し、しばらく様子を伺っていると、五人の女子生徒が小柄な女生徒を囲んで何かを訴えかけていた。


「歌星さん。いい加減お決めになってください。いつまでワガママな態度を取っているおつもりですか?」  


「あなたは優秀な生徒です。そんなあなたを生徒会の皆さんがご指名になっておられるのですよ? こんな良い機会、滅多に無いのですよ?」


「何度も言いましたが、お断りします! 私は生徒会には属しません!」


「そうは言っても、このままでは敵を作るばかりですよ? あなたはご自身の現状をご存じですか? クラスはもちろんの事、上級生の方々からも敵視されています。私達はあなたを脅しているのではありません。これは警告をしているのです」


「どれだけ多くの敵を作ろうとも、私は―――っ!?」


 歌星という女生徒のおでこに、黒い何かが押し当てられた。見間違いじゃなければ、あれは拳銃だ。


「あなたも知っているでしょう? ここ早乙女女学院では、生徒達が権力者となるべく教育を実施する。非人道的な行為も黙認され、やった事実も外に出る事が無い。あなたがここで私に撃ち殺されても、あなたの死因は偽装されるか、もしくは海の底へ沈む事になります」


「くっ……!?」


「お分かりになりましたか? ここではいかに敵を作らず、己の権力を浸透させていくかが重要。既に確立された権力保持者である生徒会は絶好の隠れ蓑。あなたが生徒会に属さないと言うのであれば、ここで死ぬだけです」


「……でも、私は……私は……!」


「では、あなたは排除対象です。ご機嫌よう」


「っ!?」


 引き金に指が掛けられた。あの女生徒は本気で歌星を殺す気らしい。オレは歌星という女生徒とは話した事も面と向かった事も無い。抵抗せずにされるがままの弱い奴は嫌いだ。


 だが、そんな弱い奴を大勢で囲み、平気で殺そうとする倫理観の無いクソ野郎は、もっと嫌いだった。 


「待てよ!」


 オレは声を張り上げて身を現し、奴らの視線を自分に向けさせた。


「誰ですか、あなた? ここの生徒……には見えませんね。気品がありませんもの」


「……お姉様。あのお方、つい最近この学院に転校してきた者です」


「転校? この学院に転校ですって? 一体どうやって……」


「おい、あんた! さっきこう言ったよな? ここで死んだ奴は死因を偽装され、誰が殺されたかは揉み消されるって」


「ええ、その通りです……それがどうかしましたか?」


「そうか……じゃあ、いいか」


 オレは不意をついて駆け出した。見た所、拳銃を持っている生徒が取り巻きのボスだろう。となれば、ボスを無力化すれば、とりあえずこの場は丸く収まる。狙うは、拳銃を持ったあの生徒だ。


 オレの見立て通り、オレにビビる取り巻きは後ろへ下がり、ボスは微動だにせずに拳銃を歌星からオレに向き変えた。拳銃の射撃音が空に響き渡ると、弾丸がオレの腹部を貫通していった。痛いが、それだけだ。オレの勢いが落ちる事は無い。次弾が発射される前にボスの手から拳銃を弾き飛ばし、立ち上がる体力と気力が無くなるまで殴り続けた。


 そうして、元がどんな顔だったか分からなくなるまで殴り尽くした後、拾った拳銃を手にして、地面に倒れたままのボスの腹の上に乗る。


「ぅぅ……お前……! こんな事をして、ただで済むと―――」


 オレは彼女の脳天に狙いを定めて拳銃の引き金を引いた。ふと周りを見ると、既に取り巻きの女生徒達は逃げ出した後で、この場にはオレと歌星しかいなかった。オレは拳銃を投げ捨て、別の人気の無い場所を探そうとした矢先、歌星がオレの服の袖を掴んできた。 


「待って!」


「……なんだよ?」


「あなたの……あなたの名前は?」


「……骸……梶原 骸だ」


「骸……そう、骸っていうのね」


 歌星はオレの名前を呟きながら、ポケットから取り出した携帯に似た機器を操作し始めた。彼女が何をしているのか分からずにいると、彼女は画面をオレに向けてきた。画面にはオレの名前と歌星の名前が書かれており、下の部分に【承認】という文字が書かれていた。


「今この場をもって、私と骸はパートナー契約によって結ばれた」


「……はぁ?」


「骸。あなたの力で、私をこの早乙女女学院のトップへ導いて!」


 こうして、オレは半ば強制的に歌星輝夜との間に契約を結ばされた。外部の人間が知る術も無い早乙女女学院の血生臭い権力争いに巻き込まれてしまった。

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