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ルイが来てから2日が経過した。
ルイはと言うと、部屋に篭りっぱなしだった。
彼は兄と喧嘩の一件で自分だけが遠方にあるウチに預けられたことが不満でそれを抗議するかのように部屋に引き篭もった。
私的には関わらなくて安心してるんだけど、どうやらウチに来てから何も食べていないらしい。
彼の部屋はゲストルームな事もあり、ワンルームくらいの設備は整っていて飲み水やトイレには困らない。しかし、丸2日何も食べたいな状態なのは心配だ。
お父様やアレックが説得したが一切応じないらしい。
彼の触る物皆傷つけるような凶暴な眼差しはどうしてだか見覚えがある。しかし思い出せない。
甘やかされて育ったわがまま息子にしては周囲を信用していないような、まるで小型犬が大型犬に怯え自分を守るために攻撃的になっている感じと似ている気がした。
「姉さん、やめようよ。あんなクソガキ放っておこうよ。」
アルムが私の腕を後ろに引っ張る。
「そんなこと言わないの。まだ私達まともに会話すらしていないのよ。」
「でも、名乗りもせずに罵倒して来たやつだよ。帰るまで関わらないほうがいいよ。」
「ちょっと、お菓子渡すだけだから。」
アルムを引き摺りながら彼のいるゲストルーム前の扉にたどり着く。
軽くノックをするが返事はない。
「ルイ様、お話しするのは初めてですね。私、この家の長女、ラナミアと申します。もし宜しければお菓子をお持ちしましたのでお茶でも一緒にいかがですか。」
そう、問いかけたが返事は返ってこない。
もしかして、意識がないのかと思い扉に耳をつけ部屋の中の音を聞いてみれば微かにだが足音が聞こえた。
生きてるみたいでホッとする。
正面はダメか。ならば…
私はくるりと、方向転換しその隣の部屋へと入る。
“え、ちょっと姉さん!”と、アルムが驚いて後を追ってくる。
確か…1度しか入ったことがないから自信はないけれど。
そう思いながらバルコニーに出る窓を開ければやっぱり。
ゲストルームにはそれぞれ独立したバルコニーが備わっている。
こちらのバルコニーから、彼の部屋のバルコニーまで1m弱くらいの感覚はあるがなんとかなる距離だろう。
私がバルコニーの手すりによじ登ると、アルムが大慌てで止めにきたが、私が手すりを飛び立つ方が少し早かった。
彼のいる部屋のバルコニーの手すりに着地するつもりが足を滑らしてバルコニーの床に顔から落ちた。
先程まで私が居たバルコニーの方から“姉さん大丈夫!?”と、半泣きのアルムの声が聞こえる。“大丈夫だから。”と、手を振るがアルムの不安そうな顔は晴れなかった。
それにしても、顔痛い。鼻折れていないかしら。ドレスも先程着地に失敗したお陰でだいぶ汚れてしまった。
ラヴィにバレたら大目玉くらいそうだわ。3日前に虫取りしてるのがバレて大目玉を食らったばかりだ。
ラヴィは年々厳しくなってるんよな。特にフィリアとの婚約が決まってからは“将来王女となるのに、このままでは王族の恥です”と、だいぶ辛辣なことを言ってくる。
ラヴィの最近の無礼さを思い出していると、バルコニーの扉が開く音がする。
その方向をに目をやれば、金髪の大きな目をした少年が驚いた顔をしてこちらを見ていた。
久々に見た彼は少しやつれていて顔色が悪い。
きっと、私の着地失敗した時の物音が気になって見に来たようだ。
目が合った瞬間、ヤバいと思ったのか急いでバルコニーの扉を閉めようとする。
「ごきげんよう、ルイ様。先程、表からお声がけしたのですがお返事がなかったのでバルコニーの方から来てみましたの。」
そう、締まりかける扉に間一髪足を捩じ込みドン引きするルイに構わず笑顔で挨拶をする。
「この辺りで人気のスイーツ店のメレンゲクッキーをお持ちしましたの。とても美味しくて見た目も可愛いので評判ですのよ。なのでご一緒にお茶でも致しましょう、おら゛ぁ!」
押し問答も面倒なので、無理やりドアをこじ開ける。
最後、令嬢にあるまじき声が出たけど気のせいですわよ。オホホ。
私が無理やりドアを開けた反動で飛ばされたのか、床に尻餅をついて面食らったか顔でこちらを見上げるルイは女の子に見間違えしまうくらい可愛らしい。黙ってたら天使なのに。
「さぁ、お茶会にしましょう。ルイ様。」
そう、令嬢スマイルをで微笑んだ。