13
震える足でなんとかパーティー会場に戻ると、私の顔を見たフィリアが“顔色が良く無いですが、体調が優れませんか?”と、心配そうに顔を覗き込んできた。
その後の事はあまり覚えていないが、気がつけば自分の部屋にいてベッドに飛び込んでいた。
どうしよう、あのイベント起きた後のハッピーエンドにする事はゲーム上出来なかったけど、どうにか攻略できないものか…
目を瞑って頭の中でゲームシーンを思い出す。
リラはフィリアに害がある者、利用しようとする者を排除しようとする。なら、私がフィリアに無害ってことをアピールすればいいのかしら…
でも、それは話してる時にも言ったし何ならフィリアが望むなら婚約破棄だってするのに。
考えてみるが、一向に良案は思い浮かばない。
ドアをノックする音が聞こえ、“お嬢様、体調が優れませんか?”と、ラヴィがドア越しに声をかけてくる。どうやら無意識に唸ってしまっていた様だ。
「大丈夫!心配させてごめんなさい。」
ラヴィを下げさせようと思ったが、ふとラヴィならこんな時どうするだろうと思う。
「ラヴィ、ちょっといいかしら!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「つまり、お嬢様はフィリア様に害を為すと勘違いされてリラ様に警戒されていると…」
ラヴィが悩ましげな表情をしながら、顎に手をやる。
「私としては、今まで通りの円満な生活を送れればそれでいいんだけど…」
ラヴィが淹れてくれたホットハニーミルクを一口飲む。
優しい甘さが口いっぱいに広がり、少し落ち着く。
「リラ様の関係をどうにかしないとそれは難しい様に思います。
お嬢様自身、リラ様と結果どの様になりたいとお考えですか?」
リラとか…そりゃぁ、仲良くなれたら嬉しいな。この先、フィリアとスリジエをくっつけるのにリラが必要になるから仲良ければやりやすいし。何より、仲良くなれば死亡エンドくらいは回避できそう。
「仲良くなりたいかな。」
「それならば、リラ様と仲を深める以外道はないかと。私もそれが1番手っ取り早いと思います。」
ラヴィは少し微笑み、灰色の細くストレートの髪を耳にかけた。
「でも、リラ様と仲良くなるのは難易度が高すぎるわ。あんな完璧な方とそもそも気が合わなそうですし…」
ギリギリ令嬢をやっていけるくらい崖っぷちの私と、リラの様な完璧な王子様。共通点が見つからないし、こんなダメ令嬢はフィリアとつり合わないって警戒心を強めてしまいそう。
俯いて頭を抱え考えていれば、“お嬢様”と、ラヴィに呼ばれ顔を上げる。
ラヴィは私の目線の高さまで屈み、骨ばった大きな手で私の手を包んだ。
ラヴィの藤色の瞳と目が合えば、柔らかく微笑まれる。
「大丈夫です、お嬢様に仲良くしたいという気持ちがあれば。
お嬢様らしくいればきっとリラ様もお嬢様の魅力に気づいてくれます。」
「私らしく…本当に大丈夫かしら。」
「はい、現にお嬢様はフィリア様とルイ様とも仲良くなれたではなないですか。それに…」
ラヴィは、藤色の瞳を一瞬逸らした後に“いいえ、何でもありません。”と、何かを懐かしむかの様に微笑む。
「そうね、考えても仕方ないわよね!ありがとう。私なりにリラ様と仲良くなってみるわ!」
ラヴィに相談したら、やるべき事が見えたわ。ラヴィは、いつだって解決のヒントをくれる。
「何かお力になれる事がありましたら、何なりとお申し付け下さいませ。」
ラヴィは、優しく目を細め微笑む。いつも私に厳しく怖いけど、こういう時は本当に1番頼りになる。
「話を聞いてくれてありがとう。方向性も見えたし元気も出たわ!
ラヴィが居ないと私本当にダメダメね。ラヴィが執事で本当によかったわ。ありがとう、これからもよろしくね。」
そう、言えばラヴィは一瞬目を見開いた後、ラヴィが屋敷に来たばかりの時の様に少しヤンチャっぽく笑う。
「そう言うところですよ…」
小さく何かつぶやいたがよく聞き取れず聞き返したが“何でもありません”と、返された。
一瞬、昔によくしていた素の表情のラヴィに懐かしさと嬉しさを感じた。