表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/36

2019年 榊健一郎 act-1 <夜のホテル>

要領を得ない部下の言葉にイラついていたためか、彼女の唇の動きが何を伝えようとしているのか分からなかった。人差し指が自分の左手を指していることで、落ちそうになっている灰に気付いた。

榊 健一郎は短くなった煙草を慌てて揉み消し、右手に持っている携帯を強く耳にあてると、明日の案件について手短に要点をまとめ始めた。視界の片隅に瑠璃子がベッドから身を起こし、長い髪をかきあげる仕草が映る。露わになった乳房を隠す羞恥心は、もうない。


「内野君、大丈夫ですか?」

切った携帯をルームキーの横に置き、腰に巻いたバスタオルをずり上げながら椅子を立った健一郎に、瑠璃子は会社にいる時のような口調で言った。

だが会社では“内野さん”である。一つ年上の先輩を君付けで呼んだのは、上司といる優越感なのか、それとも知らぬところで親密な付き合いでもあるのか。

「大丈夫じゃないと困る」と答えベッドに滑り込んだ健一郎に、瑠璃子はふわりと覆いかぶさり「ですよねぇ」と言って軽く笑った。


 窓を叩く雨粒の音が激しくなっている。明日の遠足を楽しみにしていた娘の顔がふと脳裏を掠めた時、それを遮るかのように赤い唇が押し付けられた。

抗えない媚薬のように思えた若い女特有の匂い‥が、その効力はすでに失せている。背徳を貪る季節は終わっていた。

そしていつものあの光景が、健一郎の胸を強く締め付け始めた。


ぽつんと佇む少女と、その髪で小さく揺れる青いリボン‥

滲む新宿のネオンに幼い記憶が重なる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ