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2017年 辰巳真司 act-14 <夏の終わり>

夏休みの後半は、辰巳にとって特別な日々となった。祭りに行ったメンバー達は定期的に集まり、釣りに行ったり花火をしたりして遊んだのだが、そこに平井由美もいたからだ。

突然都会からやって来た少女は、祭りの夜をきっかけに、田舎の一部から受け入られ始めていた。


あれは新学期を数日後に控えた、夏の終わりだった。皆で一郎叔父さんの農園へ遊びに行った時だ。

夕方になり、帰り支度を始めた辰巳達を一郎叔父さんが呼び止めた。

「スイカ割りやらんか、これを提供するぞ」

見るとニタニタと笑いながら、まるまると太ったスイカを抱えている。一同は歓声をあげ、すぐにジャンケンをする態勢をとる。

「お前らがやっても面白くねぇ。ここはひとつ、そうだなぁ‥」

一郎叔父さんは言葉を区切って一同を見回す。もったいぶった小芝居、その標的が辰巳にはすぐ分かった。

「よし、平井さんに割る役をやってもらうべ」

その言葉に皆が賛成し、尻込みをする彼女に雅子が目隠しのタオルをした。

「みんなの声をよく聞いて、最後は力一杯振り降ろせ」

一郎叔父さんがそう言って彼女に木の棒を渡すと、男子達はいっせいに「スイカ割り、スイカ割り」と声をかけ始めた。観念したかのように、彼女は恐る恐る歩き始める。

「なんか‥怖い」

「大丈夫、大丈夫」

木の棒を竹刀のように構えた平井由美は、少し腰が引けてはいるものの、長い髪に目隠しをした様が、まるで漫画に出てくる女剣士のようだ。

「このままでいい?」

「まっすぐ、まっすぐ」

掛け声に途中から手拍子が混ざった。

「頑張れ頑張れ、平井!」

それを耳にした彼女の足が、突然止まる。一緒になって声を出していた辰巳は、ふと妙な違和感を感じた。目隠しをしているため表情は伺えない。でも、女剣士が何だか急に頼りなくなったような感じがした。肩が少し震えているようにも見える。皆はさらに大きな声で、彼女の名を連呼する。

「頑張れ頑張れ、平井!頑張れ頑張れ、平井!」

再び歩き始めた彼女がスイカの前に立った時、一郎叔父さんが叫んだ。

「そこだ。思いっきり叩け」

びっくりするほど渾身の力で、平井由美は木の棒を振り下ろした。スイカに亀裂が入り、真っ赤な実が顔を覗かせた。

「すごいじゃん、平井さん」

目隠しをしたまま肩で息をする彼女に、雅子が駆け寄る。

「よし、お前ら手伝え。みんなで食うぞ」

辰巳達は一郎叔父さんの家から、テーブルや椅子を運び出し庭に並べ始めた。


「おーい女子ども、早くこっち来い」

一郎叔父さんに促され、平井由美と雅子がテーブルにつくと、得意の講釈が始まった。

「スイカ割りで割ったスイカは、まずこうして手で引き裂き、その後包丁で適当に切り分けるんだ。大雑把なほど美味い」

男子たちが「いいから早く食わせてよ」と急かす。

「まあ待て。まずは功労者から」

一郎叔父さんが、不恰好なスイカの断片を平井由美に手渡す。それを一口かじった彼女が、目を丸くした。

「えっ?すごく美味しい!」

その言葉が合図となり、皆が一斉にスイカを手に取り、かぶりついた。真っ赤に焼けた空に、ひぐらしの鳴き声が溶けていく。


それがあの夏休み、平井由美と過ごした最後の一日だった。


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