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2017年 辰巳真司 act-12 <夏祭りの夜①>

辰巳が次に平井由美と会ったのは、夏休みも半分が過ぎ、お盆近くなった時だった。彼女が望んだ釣りは実現せず、辰巳から彼女を誘うきっかけも無いままに時間は過ぎていた。


その日、村では夏祭りが行われることになっていた。辰巳も通った小学校の校庭に大人達は丸太で櫓を組み、その周りを囲んだ提灯に夕方明かりが灯された。出店が仕込みを終える頃には、もう待ちきれない村の子供達が大勢集まって来ていた。いつになくざわついた空気を感じながら辰巳は受験勉強をしていたが、日が暮れた頃に迎えに来た仲間達の声で家を飛び出した。


真っ暗な砂利道を歩いていると、友人のひとりが前方を指差した。

「あれ、委員長じゃないか?」

見ると、辰巳達の前を歩く影がぼんやりと二つ見える。ひとつは背が高く、もうひとつは低い。

「やっぱりそうだよ。おーい、委員長」

友人達が駆け出したので辰巳もつられる。背の低い方の影がその声に振り向いた。白地にブルーの花柄が散りばめられた浴衣‥高橋雅子だった。中一の時から三年間クラス委員長を務める雅子は、いつの頃からかそれが愛称になっていた。

「みんな勉強せんでいいの?宿題くらいは終わったん?」

同い年のくせに、雅子はいつも年上口調だった。そんな彼女に「うるせーなぁ、委員長は」と男子達は言い返す。実は、彼女とのそんなやりとりが嬉しくて仕方がない。

「真司、親父さんは?」

背の高い方の影は、兄の秀夫だった。

「組合のおじちゃん達が迎えに来て、昼過ぎに出てったよ」

「真ちゃん、戸締りちゃんとしてきた?」

雅子の言葉に、友人のひとりが即座に「戸締りちゃんとしてきたぁ〜」と、声色で反応する。雅子は手に持っていた団扇で、彼のイガグリ頭をピシャリと叩く。ドッとした笑いが起き、その中にいつもと変わらない雅子の笑顔があった。

馬小屋の片隅で、弱々しい眼差しを辰巳に向けていたあの日の彼女と同一人物とは、とても思えない。


会場では櫓を中心に踊りの輪ができ、スピーカーから歪んだ音で炭坑節が流れていた。いつもひっそりと暗い村が、精一杯の光と音に包まれている。高揚を抑えきれない辰巳達は、片っ端から夜店を物色して回った。

その集団に辰巳の父親が声をかけてきたのは、皆で出し合ったお金で買ったたこ焼きを、爪楊枝で回し食いをしている時だ。

「美味そうなもん食べてるなぁ」

襟に組合の名前が刺繍された緑色の法被を着た辰巳の父親は、すでに顔が真っ赤であった。

「おじさんみたいな酔っ払いにはやらんよ」

「いらんもんね。たこ焼きなんて、酒のつまみになるか」

雅子の言葉に呂律の回らない悪態をついた父親は、一同を見回しこう続けた。

「あれ、平井さんはおらんの?」

辰巳の笑顔が急速に冷える。一瞬の間の後に誰かの声がした。

「おじさん、それ転校生のこと?」

「そうだ。転校生の平井さん。あの子、今日のお祭り知らんのじゃない?呼んであげたら喜ぶぞ」

辰巳はちらりと雅子の顔を盗み見る。視線が合った瞬間、彼女は当たり前のように言った。

「真ちゃん、あの子の家知ってたら呼んで来てあげれば?」

雅子の言葉に「そうだ、行って来いよ」と男子達が追い打ちをかける。思いがけない展開に躊躇していると「ほら、決定だ。呼んで来い」と、辰巳の父親が酒臭い息と共に乱暴に背中を押した

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