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オンリー家のブルーピリオド

「今夜七時頃、ウォルシュ邸のブラックレガシーが盗まれました。この事件は最近、世の中を騒がせている怪盗デヴィの仕業と考えられています。怪盗デヴィの追跡の際、警察官数名が怪我をしました。怪我をした警察官に命の別状はなく、死者は今回も出ませんでした。


 世間からは、怪盗デヴィを英雄視する人もおり……。」


 私はそれだけ聞いて、テレビの電源を消した。


「レモン、ワインを一つもらえるかしら。」

「アイアイサー。」

 レモンはバーテーブルから大福のような顔を出して、長い袖に覆われた手で敬礼した。レモンは敬礼の後、バーテーブルの下に消えると、椅子の上に飛び乗って、たくさんの酒瓶が並んでいる中からウイスキーの酒瓶を両手で取った。この140㎝にも満たない小さな人間が三十路近い大人なんて信じがたい。


「レモン、わしのビールも取ってくれ。」

 真っ裸のジャンヌが風呂から出てくるなり、そう言った。体を拭かず、部屋の床を体から滴る雫で濡らしている。ジャンヌはすぐに煙草の箱を取ると、取り出した煙草にライターで火をつけた。私はいつものように煙草をふかしたジャンヌにバスタオルをジャンヌに被せる。わしわしとジャンヌの髪を拭き取る。


 最初の頃は、お風呂の後は、体中を拭き取って、服を着るようにとジャンヌに注意していたのだが、もう諦めた。大きな犬を一匹飼っていると考えれば、可愛いものだ。


 だが、ジャンヌの髪の毛から体を拭くと感じるこの劣等感は何なのだろうか。ジャンヌはニヤニヤしながら、私の方を見てくる。


「わしみたいなナイスバディになる方法を教えてやろうか。デヴィ。」

「別に何も言っていないわよ。」

「ずっと思ってたんだ。わしの体を拭く時のお前の観察するようなやらしい手つきは、このナイスバディを妬んでるんだろ。」

「別に…」

「負け惜しみはいいって、デヴィ。いいか、お前みたいに自分を締め付けているから、出るとこ出ねえんだ。」

 そう言うと、ジャンヌは私に向かって、煙草の煙を吹きかけてきた。私はその煙を手で扇いだ。


「やめてくださる。でも、確かに、あなたの体は締め付けが足りませんわね。」

 そう言って、ジャンヌの腹の肉を摘まむ。ジャンヌは怒ったような顔をした。私は手を開いて無防備なことを示す。


「わたくしにあなたのように摘まむところがありまして?」

 ジャンヌはイライラしたような顔を浮かべ、拳を握った。


「てめえ、そんなひょろい体に厚化粧で、キモいんじゃ。そんなんじゃモテねえぞ。」

「確かにわたくしでも肌は白く塗り過ぎていると思いますが、このくらい白い方が、上流階級の方にはモテるんですのよ。まあ、どの階級の方からモテない人もいらっしゃるらしいですけどね。」

 私はジャンヌを見下すように目を合わした。


「レモン、ジャンヌさんにチェリーのお酒を用意して差し上げて。」

「おうおう、久しぶりに闘るか。乳繰り合った方がそんな偉いんか。まあ、お前には繰る乳がねえか。ガハハハッ。」

「とことん殺ってやりますわ。」

 私はスカートの中のピストルに手をかけた。ジャンヌも私の目を見ながら、襲い掛かる機会をうかがっている。


「喧嘩はそこまで~。


 レモンの作ったお酒とおつまみで、落ち着いて。」

 レモンは酒やおつまみが乗ったお盆を袖で覆われた手で持ち運んできた。私は手をピストルから離した。すると、ジャンヌも目を逸らし、くわえていた煙草を手に持って、煙を吐いた。レモンはおつまみとして、スモークサーモンや生ハム、チーズなどを用意していた。


 ジャンヌはお盆から缶ビールを取った。私はそれを見て、ワインの入ったグラスを持った。互いに酒に口を付けた。


「どう? 落ち着いた。


 では、次の仕事の説明をします。」

 そう言って、レモンはお盆の下に持っていた紙の束を私に手渡した。その紙の束の表紙にはブルーピリオドと大きく書かれてきた。


「次は絵画を盗むのかしら。」

「いや、宝石だよ。オンリー家が代々引き継いでいるサファイアの首飾りで、オンリー家の繁栄を支えているとされるものらしいね。当主に引き継がれる家宝で、今は現当主のポール・オンリーが所有しているんだって。


 一番大事なのが、そのブルーピリオドが今あるのが、アントリオン島なんだって。」

「あのアントリオン島ですの。」

「あんこ?美味いんか?」

「アントリオン島ですの。20対5000の圧倒的な戦力差から20人が一人の死者も出さずに、勝利したアントリオンの戦いのアントリオン島ですの。まあ、あの島の異常な形ではその結果は必然ですわね。」

「どんな形してんだ?」

「ちょうどこのグラスのような形よ。」

 そう言って、私はワインの入ったグラスを持った。

「アントリオン島は、このワイングラスみたいに、波によって、下が異常に削られた岸壁と雨によってできた上にしか入り口のない空洞。空を飛ぶ技術がなかったあの時代にとって、この島を攻め落とすことは不可能だったんですの。」

「じゃあ、空から行けば、いいじゃねえか。」

「それは駄目だよ。オンリー家が許可されたヘリ以外は自動追撃装置によって、撃たれるの。戦闘機なら切り抜けることができるかもしれないけど、滑走路がないから無理なんだよね。」

「なので、海路で目指せと言うことですわね。」

「そういうこと。


 ちなみに、予告状は明日の七時に盗むって出しておいたから、よろしく。」

「明日ですって!」

「イエス。明日、頑張れ。」

 レモンは笑顔でウインクをした。

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