二話
まどろみの中、母の声が聞こえてくる。
「奏音、お母さんよ。ご飯食べてくれたのね」
「お母さん、おはよう」
「羽音、おはよう。先に下に降りていて。朝ごはんできてるわ」
「うん。奏音もおはよう!」
明るい羽音の声が響く。
母の声は意識して低め、落ち着いた声音にしているのがわかる。
「奏音、朝ごはんも置いておくわ。食べたら、また、お皿外に出しておいて」
「…母さん、ネク…いや、なんでもない。自分で探すよ」
父の声に導かれるように母が離れていく。
「ネクタイね。ここにおいておいたわ」
「あぁ。ありがとう。奏音は?どうだ?」
「昨日置いておいたパンは食べたようだけれど…」
「話せたのか?…そうか」
両親の寝室で、二人が話している声が聞こえる。
疲れたような父と母の声。小さく聞き取りにくいけれど、言っていることはわかる。
「奏音は…どうしたのかしら」
「どうしたって?」
「昨日までは、なんの変わりもなかったじゃない。いつもどおりの日だったのに…」
「そうだな」
奏音はそんな両親の会話をきいて苦笑した。
「だって、いつもどおり振る舞っていたんだから、いつもどおりに見えるでしょ」
両親の小声の話し合いは羽音の声によって中断し、二人は階段を降りていく。
その足音を最後まで聞き、奏音は朝ごはんを取りに行った。
いつもどおりの朝食。普段は目玉焼きなのに、今日はスクランブルエッグなのは、涙目になったからだろうなと思いながら、きちんと食べる。
また、お皿を外においておくと、しばらく立った頃、母の足音が近づいてきた。
「奏音、ご飯食べてくれてありがとう」
「お母さん少し出かけてくるわね。羽音は学校だし、お父さんも仕事でいないから」
家族が何をしているのか、伝えられなくても、壁の向こうの会話から大体はわかる。父はネクタイをしていたのだから、楽器屋さんとの打ち合わせ。母は多分、羽音のドレスを受け取りに行く。羽音はいつもどおり学校。
「奏音、お昼に食べたいものはあるかしら?」
「ないのなら、お母さんが適当に買ってくるわね」
昼には帰ってくる予定らしい。それならば多分いつもの貸衣装の店だろう。羽音に丁度いいサイズのドレスをたくさん用意してくれているのだと、羽音が言っていた。
それはきっと、この家が一番のお得意様だからだろうと奏音は思っているし、奏音と羽音のサイズはそう変わらないのだから、一人のために店主が仕入れているわけではない。
のんびりしか投稿できないと言うか、多分、一月に一回更新されたらいいほうだと思うので、途中で終わる可能性もあります。ご了承ください。