一話
ドアを乱雑に閉めて、鍵をかけた奏音は、部屋に山のように積み上がっている楽譜や教本をどけ、ベッドに横になる。真っ白な天井を見上げながら、強引に開けようとされてガチャガチャと音を鳴らしているドアを一瞥した。
「奏音、開けて!!」
「奏音、お願い。話がしたいの」
「奏音、開けなさい!」
妹や母、父の声が響く。近所迷惑。そう思いながらも、無視し続けているとしばらくして諦めたのか、音がピタリと止まった。
「ふぅ…静かになった」
諦めた家族が同じリズムで階段を降りていく。その音も次第に聞こえなくなった。
無音になったことで、今まで言われた言葉が色々と自分の中から響いてくるのを、奏音は耳をふさいで必死に聞こえないふりをした。
『奏音ってまさに音楽って名前なのに、音楽ができないんだね。なんか以外かもw』
『羽音ちゃんはすごいね!この前取材、受けてたでしょ!私見たよ!』
『双子なのに、ぜんぜん違うんだね』
『羽音ちゃんのほうがすごいね!』
『奏音はもう少し頑張ってみようか』
『羽音、よくやった』
…私は…私はどうせ、出来損ないだもの
羽音のほうがすごいだなんて、何度も言われてきたこと。気にしたらだめだ。
羽音は、すごい。事実すごいと思う。顔も可愛いし、ピアノも天才的にうまい。でもそれを鼻にかけることなく、皆に同じように平等に接している。性格も明るくて、クラスの中でも中心にいる。
対して奏音は、可愛い顔もしていないし、楽器は壊滅的にできない。人と話すのは苦手だし、クラスの端っこに居るのがふさわしい人間。
自分との差に嫌になったところで、奏音は目を閉じた。
目が覚めたのは、もう何時かもわからないような時間だった。
「お腹すいたな…」
ぐぅ〜とお腹がなって、自分の空腹に気がつく。物音もしないから、家に誰もいないのだろうと思って、そっと部屋から出てみた。扉の横にトレーが置いてあって、パンがいくつか置いてある。ラップがかかった皿ごと、部屋に持って戻り、勉強机でもぐもぐとそれを食べた。
「ごちそうさま」
食べ終わってしまうともうやることもない。
ぼーっとしていても、つまらないし、奏音は立ち上がって部屋を色々と漁ってみた。
自分の部屋なのに、何がどこにあるのかもあまり良くわかっていない部屋を、一通り見ると、ノートパソコンを見つけた。中学校卒業だか、高校入学のお祝いでもらったパソコン。もらったものの、ほとんど使うことのなかったそれを開いてみる。
「…動くのかな」
ピコンと音を立てて起動する。真っ暗な画面に映り込む自分の顔。
それがぱっと照らされた。
「まぶしっ…そういえば今何時…?」
分厚いカーテンを開けると外は真っ暗だった。近所の人達も寝静まった真夜中の2時。時間に当たりをつけると奏音はまたカーテンを閉じた。
使っていなさすぎてもうよくわからないノートパソコンと戦って二十分。とりあえず開いた検索画面から、適当にトレンドを見てみる。
ネット音楽…ボーカロイド…
音楽という聞き飽きた単語。こんななんでもある世界でもこの文字を見るなんて。そう思っていたのに、奏音は吸い寄せられるようにその文字をクリックした。動画投稿サイトが開き、カラフルな映像とともに、電子音で曲が奏でられる。音の柔らかさとか、感情が感じられない曲。滅茶苦茶。音楽性とか、もう存在していないように思える。
「それを思うだけの知識があるのも嫌だねw」
苦笑して、パソコンを閉じた奏音は、そのままベッドに倒れ込み。しばらくして、パソコンの電源が落ちた。
一週間に一回くらい更新できればと思います。のんびり書くので、ゆっくり待っていてくださると嬉しいです。