水族館に連れてって!
お題を出していただき、時間内に創り上げる、お題小説勝負というものをやっておりまして~
お題は「水族館」でした。
「水族館に行きたい」
彼女はそう言った。
僕は彼女の願いを叶えてあげたかったけれど・・・
それはとっても難しい事だった。僕の手にはあまることだった。
でも・・・絶対に叶えてみせる。
彼女が僕に頼み事をするなんて初めてのことだったから。
デートはいつも、「あなたの好きなところ」そう言う彼女だったから。わがままひとつ言わない彼女だったから。
はじめて彼女が意思らしい意思をみせてくれた。
そのことが嬉しかった。
不安だったのだ。彼女があまりにも僕の意見に流されるままだったことが。
この交際じたいが、僕に流されているだけで、本当は嫌なんじゃないかって。
「行こう! 水族館へ」
「うん! 嬉しい」
だが彼女の両親は大反対だった。
「わかってください、彼女の願いなんです」
「きみには感謝している。だが今がどういう時期か考えてみたまえ。水族館になど行かせられるわけがないだろう?」
「ですけど――」
「だめだ! この話はもうおしまいだ」
そう言って、彼女の父は背をむけた。
僕はつぶやく。
「あきらめないぞ。僕はあきらめない」
コンコン。彼女の部屋の窓を叩く。ベッドで眠っている彼女を見る。気づいたようだ。鍵は開いていた。
「迎えにきたよ。水族館へ行こう」
「でも・・・」
「約束したじゃないか。僕はきみを水族館へ連れて行かなきゃならない」
「・・・わかった。連れてって、水族館へ」
彼女を車に乗せ、水族館へと向かう。この時間はもちろん水族館なんてやってない。でも彼女のため水族館になんども交渉をおこなってなんとか了解をとりつけた。
水族館の水槽を泳ぐ魚たちを見て、彼女は言葉を失っていた。
「ようやく連れてこれた。約束を守れて本当によかった」
「きれいだね。ありがとう・・・これで心おきなく――」
彼女が言いかけるのをさえぎって、
「次はどこへ行きたい?」
元気よく彼女に尋ねる。
「・・・でもたぶん私はもう」
「行けるさ! どこへでも。僕が連れてく!」
僕の様子に彼女は少し微笑んで、
「水族館に来たら、今度は美術館かな?」
とあわせてくれた。
「いいね。行こうね。約束だからね」
次の日彼女の意識がなくなった。
彼女の父が「お前がむりやり連れ出すからだ」と僕に掴みかかる。それを彼女の母が止める。
「きっとリナはこれでよかったって言いますよ」
「だが・・・」
僕は言う。
「リナさんのこと、僕はまだあきらめていませんよ。次は美術館へ行くんです」
「・・・かってに言ってろ」
だが、本当にぼくの選択は正しかったのだろうか? 弱ってる彼女をむりやり連れ出す行為は・・・。
病院の廊下で待機する僕に、病室から飛び出してきた彼女の母が言う。
「カツミくん早く来て! リナの意識が戻ったの」
僕は彼女のもとへ駆け寄る。苦しそうに息をする彼女は僕と目があうと、
「ごめん・・・美術館・・・さすがに無理そう」
「なに言ってる? 行きたいんだろ」
「ううん。もういいの。私の願い叶った」
「なに・・・を?」
「夢の中でね、もう一度キミと会いたい、そう願ったの。その願い叶ったから・・・もういいんだ」
僕は何も言えなかった。
「じゃあ・・・行くね・・・今までありがと」
そう言って彼女は目を閉じた。
勝負は勝利しました。タイムリミットが迫ってくるのやばかったです(汗)