第3話
あの後また引きずられるように牢屋に戻ってきた。情報を整理しよう。まずここから出れる事になった。その条件に毒の華の治癒方法を見つける、そしてマモノと私との関係を調べる。正直この2つだけでいいのかと思っている。でも、現実的に考えてどうやって調べればいいのだろう。国が調べてもわからなかった事だ、そう簡単に手掛かりは見つからないだろう。…考えても仕方ない、ハーリアは詳しいことはまた明日と言っていた。今日は疲れた、もう休もう。
時間は少し戻ってダリアが面会室を出ていった後。
「ハーリア本当に良かったのか」
先ほどまで口を開かなかったグランに声をかけられる。
「うん、さっきも言ったけど国王の決めたことだしね。それにダリアさんはあんな場所にいるべきじゃない」
少しだけ語尾が強くなってしまう。
「そうか。相変わらずお人好しだな」
「…きみには迷惑をかけるね」
グランには少し仕事をしてもらわないといけない。
「大丈夫だ。それこそ王が決めたことだ、異論はない」
グランは強いなぁ、と言いながら席を立つ。さあ、仕事に戻らないと。
……?誰も気付いていないのだろうか。
「なんだあれ…」
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いつもよりも早く目が覚めた。荷物もまとめ終わった。遂にここから出られる!昨日の夜、色々不安はあったが気持ちの整理もできた。
「囚人番号47448番ダリア。飯の時間だ!起きろ」
聞きなれた声が聞こえる。
「だーかーらー、そんな大きい声出さなくても聞こえるって!」
このやり取りも今日が最後だ。
「飯が食い終わったらハーリア様が迎えに来てくれるそうだ」
そう言って監守は行ってしまった。
少しして足音がきこえてくる。
「ダリアさん、遅くなってすみません。手続きも終わったので行きましょう」
ついに、だ。牢屋の扉が空き光が入ってくる。
「はい、準備はできてます!」
ハーリアは歩き始める。それに私はついていく。
「今回は目隠しとかないんですね」
私の周りの甲冑を着た男たちに言う。
「ここに誰がいると思っている。ハーリア様の前で不正を働いてみろ、一瞬で無力化されるぞ」
確かに大国ミリーアの団長をやっているのだ、相当強いのだろう。
「こらこら、あまり怖がらせないでください」
ハーリアは余裕の声色で言う。
「こんな小娘私たちで大丈夫なのに。わざわざ団長が来なくても…」
右の甲冑男が言う。
「黙って」
怖っ。
表情は変わってないが目が笑ってない、圧がある。
「はぃ…」
甲冑男達は委縮しながら返事した。私もこの人には逆らわないようにしようと心に誓った。
その後、特に会話もなく出口らしい所についた。
「さあ、もう外です。忘れ物はないですか?」
「あ、はい。でもこれから具体的にどうすればいいか全然わからないんですけど」
「貴女に合わせたい人がいるんです。その人との待ち合わせ場所で詳しいことを話ましょう」
合わせたい人?誰だろう、これからの旅に関係ある人だろうか?
「さあ、行きますよ」
質問する前にハーリアは重そうな扉を開ける。と、同時に光と風を感じる。遂に外に出れる。私は希望に満ちた一歩を踏み出した。
日の光を浴びるのはいつぶりだろうか。街の感じは本で見た通りだ。人々は賑やかに談笑したり、いつもと変わらない日常を過ごしているようだ。その人々の中に…こっちを一心に見ている男がいる。遠くにいるので顔はよく見えないが、風貌からして40代くらいだろうか。
「ダリアさん?どうかしましたか?行きますよ」
ハーリアは気付いていないようだ。だがこの距離だ、危害を加えられることはないだろうし気にしなくていいだろう。
「えっと、どこに行くんですか?」
そういえばまだ行き先を聞いていない。
「僕の行きつけの酒場があるんですよ、今は昼間で営業前なんですが特別に入れてもらえるんです」
そう言ったハーリアはこっちです、と言いながら歩き出した。
「着きました。ここです」
「え、ここ?」
そう言って連れてこられたのは一国の団長が来るとは思えない小さな酒場だった。
「アハハ、見てくれはこんなんですがここにいる人は皆いい人なんですよ」
そう言って中に入っていったハーリアに続く。
「マスターー、こんにちは!」
マスターと呼ばれ、奥から出できたのは…
「あぁ、ハーリアくん久しぶりね」
若い美人な女性だった。
「昼間なのに開けてもらってすみません、ナルクさん」
「いいのいいの、それよりグランくんが待ってるよ」
と言いながらこっちに視線を向ける。
「君がダリアちゃん?」
「あ、はい」
いきなり話しかけられ、硬い回答になってしまう。ナルクと呼ばれた人がこちらに近づいてくる。
「辛かっただろう。これからは自分の意志で生きていいんだよ」
暖かい言葉に理解に時間がかかる。気が付いた時には涙が流れていた。それを見てナルクさんは無言で抱擁してくれる。辛かったと認めてくれる、自分と同じ立場に立ってくれる、たったそれだけなのに私は…
「気持ちは落ち着いたかい」
ナルクさんは慈愛に満ちた声で言う。
「はい、…ありがとうございます」
「君の物語はここからだ、ほらハーリアたちが待ってるぞ。行ってあげな」
そうだここからだ、泣いてなんていられない。ナルクさんにペコリとお辞儀をしてハーリアの方に行く。
「ははは、恥ずかしい所を見られちゃいましたね」
私は気恥ずかしい気持ちを隠しながら駆け寄った。
「いえいえ、気にしませんよ」
ハーリアは本当に気にしていないようだ。
「さて、これからについて話していきましょうか」
冒険に出るまでもう少しお待ちください。