異世界に転生させられたので頑張って幸せになります
両親が必死に私に呼びかける。
「大丈夫よ、今救急車が来るからね!」
「奏、しっかりしなさい!諦めなければ大丈夫だ!」
「…お父さん、お母さん…今までありがとう」
「奏!奏!?」
「奏ー!」
で、死んだと思ったら白い部屋にいた。
「ここは…?」
「やあやあ、立花奏ちゃん!幼い女の子を助けるために飛び出したその勇気をまずは讃えよう!」
白い服に銀の長い髪、青い瞳の男の人が私に拍手してくる。
「…貴方は?」
「僕はアルファ。君たちの言うところの異世界の神様さ!」
神様。なるほど死後の世界か。
「随分落ち着いてるねー。覚悟の上かな?」
「まあ…」
「あ、あの女の子は無事だよ。君の両親も君の弟くんが側で慰めてるから大丈夫。ということで、僕の世界に転生してみない!?」
色々軽い神様だなぁ。
「まあ、家族の記憶を残してもらえるなら」
「記憶保持能力はばっちりさ!ただ、そうだなぁ…実は、無理矢理この世界に介入してしまったから、君にあげられる魔法適正は一つだけになっちゃうんだけど、いい?」
「魔法適正?」
「僕の世界には魔法がある。ただし使えるのは王族と貴族のみ。貴族として、爵位や家の歴史の次に重要なのが魔力。貴族は基本的に自分の為にしか魔法は使わないね。だから平民は魔法の恩恵を受けられない。君にはそんな世界のとある貴族の長女として転生してもらう。ただ、僕は君に回復魔法しか持たせてあげられない。それでもいいかい?」
「あー…はい…」
ぶっちゃけよく分からないけど、家族の記憶を残してもらえるならいい。
「じゃ、頑張ってね!」
というわけで私は異世界に転生した。
ー…
私は手のかからず愛嬌のある赤ん坊として振る舞った。私の新しい家族は、前世の家族に負けず劣らず素晴らしい人達だ。公爵家で古い家柄、領内は豊かで治安も良い。スラム街もない。収入も安定している。平民を大切にする両親に対して忠誠を誓う領民。完璧すぎて怖いくらいだ。そして両親の仲も良い。優しく聡明な母と穏やかで強い父。うん、前世の家族も変わらず大好きだが、今の家族も大事にしよう。
さて、この世界だが、神様の力なのか元々なのか、日本語で話しているように聞こえるし、文字も日本語っぽい。なので赤ん坊のうちに情報収集したが、この世界は魔法で発展したため科学、数学などなどは全然発展していない。つまり知識で無双できる。
ということで早速五歳になってから論文というにはあまりにもお粗末なそれを書けるだけたくさん書き上げて、貴族院という大学のような組織に送りつけた。結果天才少女として認められた。この私のいるエルドラドという国では、急激に科学や数学がかなり発展した。幸い異端審問とかも無かった。
ということで驚く両親は、貴族院から渡された私への褒賞を私にそのまま渡してくれた。円卓金貨およそ三十枚。普通の奴隷一人を買うのに円卓金貨1枚で足りる。素晴らしい。両親はお前の自由に使いなさいと言ってくれた。なので私は…そのままの足で障害のある奴隷を六十人買った。障害のある奴隷は普通の半分の値段で買える。両親はびっくりしたが、怒らなかった。すぐに私のしたいことを理解してくれたのだ。
連れて帰った奴隷達に私は回復魔法をかける。すると足のなかった者には足が生え、手がなかった者には手が生え、耳が聞こえない者は聞こえるようになり、喋れない者は喋れるようになり、目が見えない者は視力を得た。この五年で少しずつ親戚達や使用人達や領民達の怪我や病気を治しながら成長させた回復魔法は、最早障害すら治せるレベルまで引き上げられていた。奴隷達は泣いて喜び私に忠誠を誓ってくれた。私は仲の良い領民達に頼み奴隷だった彼らに仕事を与えてもらった。領民達は元奴隷として彼らを蔑むことはせずに、温かく迎え入れ仕事を提供してくれた。ただ、一人だけどうしても私にこのまま仕えたいという少年がいた。目が見えるようになった私と同い年の男の子だ。私は両親に頼み彼を私の専属執事として雇った。彼は執事長に扱かれながら成長し、やがて完璧な執事となった。
私はその後も、お小遣いを貯めては障害のある奴隷を買い、癒した。もちろん親戚達や使用人達や領民達もなにかあればすぐに癒した。そんな中で我が領は更に発展し、私は女公爵として爵位を継ぐこととなった。彼は相変わらず私の執事をやっている。が、そろそろ次のステップに踏み出してもいいと思う。
「というわけで、ナナシ。私と付き合わない?」
ナナシというのは執事の彼の名前だ。私に名前をつけて欲しいというのでつけた。悪気はなかったが、もう少しまともな名前でもよかったかもしれない。
「いけません、お嬢様にはもっと相応しい方が…」
ナナシは慌てる。が、頬を染めてあわあわとするのを見るに嫌ではないはず。というか多分私達は両思いだ。
「私はナナシがいいんだけど」
「お、お嬢様…私は…お嬢様をお慕い申し上げております。でも、私では釣り合いが取れないのです」
「なら釣り合いが取れるように自分を磨きなさい」
「お嬢様…」
「ねえ、いいでしょう?私のこと好きなら、私と結婚して私を支えて?」
「…はい、お嬢様」
私は前世も現世も、本当に恵まれている。今日も私は幸せだ。