世界の全てだったあなた 1
闇堕ち三月くん。
小鳥遊三月の人生の最初は、そう悪いものではなかった。
優しい両親と二人の姉。
特に下の姉は三月をよく見ていてくれた。
そんな彼の人生が狂ったのは、その下の姉……二菜の死がきっかけであった。
ある日、母と家に居ると警察が家に来た。
「……本日、学園地区の路地裏にて発見された遺体の側にあった荷物から、小鳥遊二菜さんのものと見られる身分証が発見されました。つきましては、確認をお願いできませんか」
いきなりそう言われた小鳥遊咲…彼らの母は顔を真っ青にして頷いた。三月もそんな母について行こうとすると、未成年者はダメだと留め置かれた。
母はその日、気絶したと帰って来ず、父から最愛の姉が死んだ事を知らされた。
そして、彼の運命を決定付けたのは遺体が返ってきた時だった。
決して棺を開けるなと言われていた彼だったが、最後に一目、と棺を開けた。
────そこにあったのは、首のない遺体だった。
他殺だ。
そう知った三月の絶望感を誰が知り得ただろう。
そして、首のない姉の遺体を火葬した翌々日、急に警察の捜査が打ち切られた。
(警察に圧力をかけられて、二菜ちゃんを殺す相手……まさか)
まさか、と思いながらも三月は自分で捜査を始めた。
幸い家に金はあった。裏稼業の情報屋にも手を出して集めたそれによって彼の知りたかった真実を知る。
小鳥遊家が二菜と三月の存在にいい顔をしないことは知っていた。
だからといってなぜ殺されなければならなかったのか。
ただ、花守の血を濃く受け継いだというだけで。
その恨み、怨念は復讐を司る神を呼び起こす。その力を使い彼は己の全てをかけて、小鳥遊家全てを滅ぼすことを決意した。
「二菜ちゃんを返せないなら、こんな家…滅んだって仕方ないよな?」
追いかけて追い詰めて恐怖の中で姉を殺した人間。
それを指示した人間。
それを止めなかった人間。
そして、罪を償わせることを諦めた両親と、慰められたくらいで立ち直ったもう一人の姉。
全員が三月にとっては敵であった。
「小鳥遊だけは絶やす。どんな手を使ってでも」
紫色の焔が彼の周りで爆ぜる。
稀に。
稀に、感情によって能力値が異常に大きく左右される人間や特殊能力が出現する人間がいる。
与えられる愛に応じて力が上がる者。
逆に愛を捧ぐことで力を上げる者。
悲しみの涙が宝石に変わる者。
喜びの歌が傷を癒す者。
小鳥遊三月の場合は、「憎悪」がその鍵だった。
それは全てを飲み込み、分解する力。
後に軍部が「黒の深淵」と呼称する事になる能力である。
目覚めた力を使って彼は末端から甚振るように小鳥遊の血を継ぐものを壊していった。
彼にとって、模倣犯が出て犯行が白日の下に晒されるのが遅れたことは果たして幸か不幸か、どちらだっただろうか。
もう一話だけ続く予定です。




