53.愛しています
それから4年。
大学を卒業するときが来た。
卒業後は花守がやっている企業や研究の一部を引き継ぐので、就職先は家みたいなものだ。
式を終えて家に帰ると、「お帰り」と愛しい声がした。
「ただいま帰りました。終夜さんもお帰りなさい!」
思わず抱きつくと、彼は蕩けるような微笑みで「ただいま」という。
久しぶりなのでじっくり、じっくりその顔を堪能しようとしていると、後ろから軽く叩かれた。
「二菜ちゃん、お義兄さんの顔が好きすぎるのはよくわかったから早く準備して」
「え?あとは卒業おめでとうの食事会でしょ?」
「ううん。身内だけの結婚式だよ」
爆弾発言を落とされて衝撃に表情が凍った。
花嫁が一切知らない結婚式とかあり得るんだろうか?いや、普通はドレスを選んだり、着物を選んだりといったことをやらせてもらえるはずだ。少なくとも私は終夜さんに着せる衣装について妥協しないつもりで資料だけは集めていた。
私の衣装?そんなものは終夜さんの隣で一番映えるものを選ぶのである。
「みんなにお披露目する方の結婚式では衣装関連全部君に任せるよ」
「何着でも着せて良い?」
「普通の女の子って、何着着ても良いかとかどんなドレスを着たいかを主張するものじゃない…?」
ごねてやろうとすれば「君と同じ回数はお色直しをするよ」と諦めたような顔で言われた。
「私より多くても良いのでは?」
「よくないよ」
断言されてしまってしょんぼりした。
良いじゃんかー、終夜さんのが顔がきれいだしー!!
あんまりごねると怒られるのでそれで妥協しておいた。私が十着着たら十着着せられるんだしね。
連れて行かれた先はホテルで、花守の人たちの手で徹底的に美しく着飾らされた私はウェディングドレスを着ていた。
いや、やっぱりどう考えてもおかしい。
ドレスくらい選ばせ……このドレスめちゃくちゃ好みです。悔しい。
「何か悔しがってるところ悪いけど、式始まるから行くよ、二菜ちゃん」
「なんでみんな私に教えてくれなかったの…!」
「二菜ちゃんと最速で結婚したがったお義兄さんのわがままだよ」
三月くんはそう言って私を送り出した。
扉の前に連れて行かれると、お父さんがいて感極まったような表情を見せた。
「綺麗だよ、二菜」
「ありがとう、お父さん」
「……本当はここに立つのはお義父さんであるべきだと思うんだが、身内だけだからと替わってもらえたんだ。おまえの手を引いてバージンロードを歩けることを嬉しく思う」
そう言って泣きそうな顔で笑ったお父さんに連れられて、私はバージンロードを歩く。
その先にいるのは、愛する人。
「娘を頼む」
「はい、この一生をかけて彼女と幸せになります」
手を取る相手がお父さんから終夜さんへと替わる。
神父の目の前に立って促されるがままに誓いの言葉を告げると、季節外れの雪が花のように舞った。
永遠を誓った私たちがこのまま幸せで終わればいいなと思う。
物語ではここで「めでたしめでたし」だけれど、私たちの夫婦としての生活はこれからなのだ。けれど、どうしてか私は終夜さんとずっと一緒にいられれば幸せだろうという確信がある。
誓いの口付けをする前の彼に、「約束、忘れないでくださいね」と言うと、困った顔で「お手柔らかにね」と言った。
その彼の首に腕を回してこちらからキスをすると、驚いた顔をするので耳元で「愛しています」と囁いた。




