50.終幕です
氷の膜が溶けていく。それと合わせて魔法を解けば、勇樹くんを抱きしめて泣く一花ちゃんがいた。
皇邸の方々に二人は別々に連れていかれる。泣いて嫌がっていたけれど、この場で暴れたからには犯罪者と変わりがない。
京月さんは辛うじて死んでいなかったので、病院に送られた。
「ふむ。これでめでたしめでたし……で済めば警察はいらんな。どーーーーっするんじゃ、吾の家!!!!!」
「請求先は小鳥遊でいいのでは?」
「じゃあ、風凪に命ずる。取り立ててこい」
「はは、無茶を仰られる」
「ほれ見ろ!できんのじゃろ!?原因の一端の老いぼれは意識が戻らんし、勝手に差し押さえでもなんでもするしかないのぅ」
忌々しげにそう言って、彼女は側控えの者に紙を手渡した。その者は恭しげにそれを受け取り、霞のように消える。
「花守。そなた、あれらの親類かつ幼馴染じゃろ。一応どうなるか耳に入れておいてやろう」
「いえ。結構です。二菜の知らないところで斬首とかにしといてください」
「花守、そちの伴侶ちょっと凶暴すぎぬか?いい男をこちらで紹介しても良いぞ」
「いえ。私はこの人いないと死んじゃうのでそういうのはいいです。それで、姉たちはどうなるのでしょうか」
安全面でもそうだし、精神面でも結構な割合で依存しているし、愛し愛されているので多少の過保護は嬉しいかなって思っている。若干やりすぎではあるけど。
呆れたような顔をした皇様曰く、姉は小鳥遊本家の洗脳による被害者でもあるという点から、魔力を取り上げて両親の元に戻ることになったらしい。要するに執行猶予期間というものだという。何かやらかしたら即幽閉とのことだ。
これは、今後小鳥遊自体がお父さんと伯父の監視下に入ることも関係していて、壱流くんが当主にさせられそうなのだが嫌がって逃げているらしい。
あと、当主の人はそれから1週間後に目を覚ましてそこから話し合いもあったそうだ。
勇樹くんはといえば、記憶は朧げだったけれど、すっかりまともになっていた。
丁寧に詫び状まで頂いてしまったし、そこに今後も一花ちゃんと生きたいと書かれていた。好きにすればいいんじゃないかな。
お手紙を読んでいる間の終夜さんの視線が痛かった。
私にとっては非常に困ったちゃんな姉と幼馴染だが、一応他国の要人を助けたり、重要文化財を守ったりといった功績もなくはないので比較的甘めな処分となっている。
その分、勇樹くんの将来的な進路は軍一択となってしまったりもしているけれど。監視及び兵器として、ということらしい。扱いはどうなるかわからないけれど、彼自身は「一花と一緒に居られるのであればそれでいいよ」と言っているらしい。重い。そういうのは一花ちゃんだけじゃなかったの?
京月さんも功績がなくもないのだが、今回の凶行に怒ったお兄さんの方が京月さんを切り捨てようとしていたところ、お兄さんの側近が待ったをかけたようだ。最終的にお兄さんの側近が卒業後の嫁入り先として声をかけていた身内の青年が引き取ることで落ち着いたらしい。勇樹くんの名を呼んで泣いていた彼女をその青年は楽しそうに屋敷に引き摺って連れて行ったという。
彼女は殺人未遂とかでしょっ引かれる予定だったのだが、皇様が「なんかこのままあやつに任せておいた方がバツになりそうじゃな」と茶々入れして放置することになったようだ。
屋敷からは啜り泣く声と、笑う青年の声がよく聞こえるらしい。
……大丈夫なのかなそれ。
そういえば終夜さんの刀は、神域がなくなり、結界として作ってあった氷の膜が溶けてなくなったさいに折れた。
曰く、「役目を終えたのじゃろ」だそう。終夜さんは「二菜を守れたのならそれでよかったと思うよ」と言っていた。打ち直してもらうか聞く前に折れた刀を返しに行っちゃったのでもうどうにもならない。折れたの返してよかったの?分からない。
その後、私たちは学年も上がり、それなりに平穏に過ごしたのでした。




