49.人生ハードモード過ぎではありませんか
花守の魔眼とは、相手の力を解析し、その解決方法が見えるというものである。
とは言っても、そんなに良いものではない。あまり使いすぎると見えすぎてしまうし、各々の家が秘匿する魔法ですら暴いてしまう可能性のあるものだ。
終夜さんの能力に関して知ったのもこの魔眼のせいだったりもする。
なので、危機以外では使わない事を前提としたものであり、その能力の強さ故にあまり出現することがなく貴重な目であるらしい。
それを使用して、一花ちゃんの力を防ぐ。辛うじて防ぐ。
「死ぬ。そろそろ本気で死ぬ。神様って本当にいるの!?」
「安全のためにお祈りに行った先の神様に隠されそうになってるようじゃ、死ぬだろうねぇ」
何それ聞いてないと振り返ると、「集中して」と注意された。終夜さんが太刀を床に突き刺すと、そこを中心に氷の膜が張られる。その手に触れて魔力を流して魔法陣を描く。すると、茨が氷の膜を覆っていく。
おそらく京月さんのものであろう悲鳴が聞こえるけれど、私は自分と終夜さんを守るので精一杯なので自力で生き残って欲しい。
「君がちょくちょくお参りしている神社の神だけどね、あんまり君の必死さが可愛いからって神隠ししようとしてたんだよね。流石に背後にいる僕と祖母が怖かったのか実行まではしてないけど危なかったんだよ」
「もうやだこの世界!!生まれ変わったら平凡に平坦に幸せを謳歌したい」
「あと最低でも60年くらいは一緒に生きてもらいたいからそのあとにしようね。生まれ変わったその時も、隣にいるのは僕がいいんだけれど」
「いちゃついとる暇があるならとっとと神域を作れ花守と八神!!」
おそらく皇様であろう声が響く。
「私、特に直接のご縁がないから神域作れないんですよね」
そうボヤくと、「嘘じゃろ!?」と返ってきたが、嘘ではない。神様とのご縁なんて普通にない。
隣にいる私の婚約者様はあるけれど。
「終夜さんはたぶん開けますよね?」
「うん。君の愛で力を押し上げられているからね」
「あ、ああああ愛とかいきなり言うな!」
「……じゃから、そういうのお腹いっぱいなんじゃが」
いきなりの言葉にあたふたしてしまったらそう言われてしまった。
ところで、それ作るのって何か意味があるのかな?首を傾げながら「やります?」と聞くと、「二菜が望むならなんだってやるよ」とのことである。顔が今日も綺麗。
「なんだってやるけど、えげつない光景になる可能性があるから正直君に見せるのは躊躇するな」
「えげつない?ですか?」
「皇邸って準聖域だから、神域に少し近くはあるんだ。そんなところで流血沙汰だろう?しかも普段からの行いがドン引きするくらい良くない。神罰でも落ちそうな気がするんだ」
神罰って何それ、と思ったけれど真剣に「私の精神上の健康」を慮っている終夜さんの様子を見るに気軽にやっちゃってって言えないやつみたいである。
「すごく簡単に言えば、神域にする、奴らはエグい感じで死ぬ。以上。じゃな」
「いやあああああ私の終夜さんに何やらせようとしてんですかあああああああああ!!?」
「でもやらんと主ら死ぬぞ?」
「それもやだあああああああああああ!!」
もうやだこの人生!!
そう思いながら涙目になっていると、微笑みを湛えた終夜さんがいた。
「耳を塞いで、目を瞑っていればいいよ。僕は、君だけが大事だからね?」
命は大事だけど、好きな人に人殺しをさせたいわけではないのだ。それくらいなら身内の恥を自分で灌いだ方がまだマシだろう。
そう思って魔道ペンを取り出すと、「しまいなさい」と手を止められた。
「僕だって、君に身内殺しをさせるつもりはないよ」
「でも」
「君が死ぬくらいならあいつらが死んだ方がいい」
なんだか仄暗い感情のこもった言葉と共に、結界の外の世界は白く染まった。
抱きしめられ、耳を塞がれて、目の前に見えるのは終夜さんの顔だけ。
段々と喧騒が戻ってきた頃に、終夜さんは離れていく。
「なんだ。神罰でも一回では死なないのか。一体何をどうしたらそうなるんだろうね?」
その言葉に顔を上げると、血塗れの姉と、その姉に強制的に回復させられている幼馴染がいた。
「なんで?私の邪魔をするの?」
「君が二菜の邪魔をするからだよ」
「なんでこんなに痛いの」
「君たちが二菜に強いてきた痛みとどちらが痛いものかな」
「なんで、好きな人と一緒なのに私は不幸で二菜ちゃんは」
「一花ちゃん自分のことばっかりだね」
なんで、なんでという姉は哀れかもしれないけれど、それでも言っている内容はあくまで利己的だ。
「好きだっていう勇樹くんの心配すら出てこないのはさすがに驚いたんだけど」
「だって!」
「そうだね。仕方ないね。勇樹くんも自分のことばっかりだったもんね」
一花ちゃんの自慢はいつもしていたけど、一花ちゃんを守ろうと、支えようとしていたのは幼少期だけだったかもしれない。
「い、ちか……」
「勇樹くん?」
声が聞こえて、そちらを向くと勇樹くんは悲しげに一花ちゃんを見つめていた。
「ごめんな」
そう言って、彼は力を失ったように目を閉じた。




