48.油断は禁物でした
というか、思ったより平気?私死亡フラグっていうのは折れた?
やっぱり最後に愛は勝つのかもしれない。
そんなことを思いながら終夜さんと一緒にせっせと皇邸の防御装置の入れ替えをしている。二人っきりなので終夜さんもニコニコ笑顔である。めちゃくちゃ顔が綺麗なので私までニコニコしてしまう。
顔だけが好きじゃなくても、この美しい顔をずっと見ていられるとか幸福の極みなので。中身が好きになった瞬間に私の評価基準が変わるわけではなかったのでした。
ちなみにやってる理由は帝に「滞在期間暇じゃったらやっといてくれぬか。花守の爺さんはこちらの話を聞かんからの」と言われてしまったためだ。
その後の「吾の寝所に一緒に籠るでも良いぞ!」は背後からの冷気凄まじかったのでそろそろ冗談でもやめていただいた方が下手な胃薬より私の胃痛に効くんですが。
一体本当は何歳なんだろう?言動がなんか……、うん。これ以上はやめておこう。
「あとどこでした?」
「玄関近辺だよ。小鳥遊一花と千住勇樹がいたから後に回しただろう?」
そういえば、あの二人に面会が来ているらしかった。
まぁ、そろそろいなくなってるでしょう。
そう気楽に考えた私が悪かったのかもしれない。
行ったら玄関が破壊されていた。指差しながら首を傾げると「現実だよ」と前向かされた。嘘じゃん。
だって最高権力者のお膝元でさぁ……嘘にならない……?
痴話喧嘩は家でやって欲しい。
高価そうな壺は粉々、そもそも玄関そのものが一部粉々である。瓦礫と言って差し支えない。
すっかり頭に血が昇った一花ちゃんと、血のついた薙刀をうっとりと見つめる京月さん。そして、出血大サービス中の幼馴染。
「とりあえず治療をしないとまずいってことに彼女たち気付いていらっしゃる……?」
「死んでも良くないかい?」
常識的には私の方がまともなことを言っているはずなのに、終夜さんがとても不思議そうに聞くから、一瞬、私がおかしいのかと思った。因縁は因縁として、人の生死関わってるから……私は放って置かれたけど同じことをして同じ穴に入るのも嫌なのである。
かといって頭逝っちゃってる二人の間に入るのって非常に嫌だ。私死ぬじゃん。
勇樹くんの命より自分の命を取る程度には勇樹くんが嫌いであるし、そもそも他人に命をかける局面で動ける人間というものは少ないと勝手に思っている。
「勇樹くんになんて事をしたの!!」
「勇樹さんが私のものになってくれないから悪いのよ。一花さんと違って、私には本当にこの恋しか残っていないのだもの。手に入るのなら、死体だって構わないわ」
後ろを振り返って震えながら指をさして首を傾げた。「そういう恋の形もあるんじゃない?」と言われた。
やだもう怖い助けて。
「あら、誰かと思えば花守に寝返ったあなたの妹じゃない?勇樹さんを誑かした女がこんなところに来るなんて素敵!あなたたち二人で殺し合いでもなさいな」
弾むように、歌うようにそういうと一花ちゃんの目がゆっくりとこちらに向いた。
その瞬間、その足を縫いとめるように氷柱が足を突き刺した。
「終夜さん……?」
「ごめんね、殺気に反応しているから京月さんのユニークスキルに影響を受けていると分かっていても発動してしまうんだ」
全くごめんなんて思っていない顔である。
「……なぜ、二菜さんには効かないのかしら」
「精神に侵食するタイプの魔法を弾く術式は次期当主として当然持ってるべきかなって思って開発した」
「僕はそんな二菜の研究成果に助けられているよ」
以前の月岡くんが桜井さんの魅了の影響を受けて暴走していたらしい事を聞いてからゆっくり研究していた。研究してたら眠れなくても「夢中になってたから」って思ってもらえることもあったというのもある。終夜さんには「無理をしないで」と言われたし、今は精神安定剤の終夜さんがいるので問題はないけれど。
「チャームボイスか、君の両親も、君がその力を便利使いしていたと知ったら流石に溺愛は解けそうだよね。君のお兄さんは正当な能力を持っているから君の力にかからなかったらしいけど」
「あなたにもかからなかったじゃない」
「僕は普通に出会った時から君が嫌いだからね。昔の君の能力は、君への悪感情が大きければ精神が不安定になるくらいで済んでいたし」
嫌いだったのか、と思うと少し安心してしまった自分が嫌だ。恋すると人間って嫌な子になっちゃうものかな?私は終夜さん関連、気が短くなっちゃうところがいけない。
「そう……まぁ、別に良いわ。勇樹さんさえ手に入れば私はそれでいいのだから」
優しく微笑んで、彼女は勇樹くんの方へ向かう。その時だった。
一花ちゃんは鬼のような形相だった。
ヒロインであった彼女は「そう、気が合うわね」と告げる。その瞬間、強大な魔力の渦が現れた。
「伝達、皇邸にいる全員に告ぐ!最上級タリスマンの起動をせよ!!緊急伝達、最上級タリスマンの起動を急げ!!」
急いで伝達用の魔道具を発動させる。こちら?死ぬほど高価なタリスマンを終夜さんに起動してもらっています。誰か一緒じゃないと死んでた!!危ない!!私死ぬじゃん!!簡単に修羅場に行くじゃん!!思ったより平気って何がですか!?
「二菜、あれ食らったら流石の千住くんも死ぬと思うんだけれど」
「向こう側行ったらこっちが死にますよ、寝覚め悪いとかいってる場合じゃないですよ!!」
「いや、死ぬのはいいんだけれど、小鳥遊一花はそこら辺考えてるのかなって」
「一花ちゃんは結構頭がお花畑だからその辺期待してないです。とっとと逃げますよ!!」
廊下を戻ろうとしたら、火の玉が飛んできた。泣きそうである。
よっぽどがない限りは防壁が破れなりしないと分かっていても怖すぎるのである。
「二菜ちゃんもついでに殺しておけば、これで勇樹くんは私だけのものだよね!
ね!勇樹くん」
勇樹くんに治癒魔法をかけながらニコニコと笑っている一花ちゃんは、サラッと私殺す発言をしている。語尾にハートついてた。勇樹くんはそんな一花ちゃんを怯えた目で見つめ、その口はある言葉を呟いたかに見えた。
「何?勇樹くん。聞き間違えかな。私のことなんて言ったの?」
「あら、聞こえなかったのかしら。家族をそんな簡単に殺すなんて発言、根が小心者の勇樹くんが聞いたらそう言うに決まってるじゃない。
──化け物って」
「何が悪いの?私をそうしたのは勇樹くんと小鳥遊じゃない」
勝ち誇った顔をした京月さんに、彼女は花が綻ぶような愛らしい顔でそう告げる。
そう言った一花ちゃんの瞳が、スッと深い青に変わっていく。
「だから、勇樹くんは私とずっと一緒にいなきゃいけないし、私たちを引き離すような人は消しちゃわないと……ね?」
あ、これ私も入ってる死ぬ。というか氷も一花ちゃんのとこでグニャってしてるんだけど魔眼怖すぎない?
「教育途中って聞いてるけどいける?」
「できなかったら一緒に死ぬだけですね」
「できれば君と一緒に長い時を生きたいけれど仕方がないね」
終夜さんは私の手を取り口付ける。
「病める時も健やかなる時も、死が2人を別つとしても、僕は君と共にある」




