46.姉の近況を聞きました
風凪先生がお嫁さん連れてお庭にいた。
それを見ながら終夜さんが「僕たちも早く結婚したいね」と言うので照れてしまう。私も早く終夜さんのお嫁さんになりたいです!!好き!!
えっでも早すぎるかな、どうかな!?
いつもながら終夜さんの存在が狡い。好き。
それはそれとして、壱流くんから連絡がきた。一花ちゃん関連のことで知ってることあったら教えてって言ったら可愛い女の子が面会にやってきて「小鳥遊三芳でございます」と名乗った。壱流くんの妹なんだって。ピンクに近い紫の髪の和風美少女である。普段着にしているのか、着物を見事に着こなしている。三月くんと同い年のはずなのにどこか艶やかさを感じさせる。
「兄が、『巻き込まれるのは嫌だけど遠くから見ている分には娯楽として最高の姉妹だから協力してやってくれ』、などと言うので来ました。妹、あんな人間としてどうかなって思う人でも、それなりに大好きなのでつい甘やかしてしまいます」
壱流くんもあれだけど、三芳ちゃんもなんかやばい気配がちらほらする。
あと、それなりに、なのか大好きなのかはっきりしてほしい。
「正直なところ、妹的には壱流兄様が楽しそうならそれで満足ですので、他はどうでも良いのです。関心が全くないのです。サクッとお伝えして兄様のところへ帰りますね」
「あ。はい。よろしくお願いします」
ツッコミ入れると碌なことがない気がしたのでやめておいた。
愛の重さを感じた時はスルーキメるのが正解だって言ってた。終夜さんが。終夜さんが言っちゃダメなやつである。
説明を聞いたところ、やっぱり勇樹くんがやらかしていた。
私に会いに来たこととか、私が自分のために剣を持ってるはず作ってるはず、とか一花ちゃんに言っちゃったらしい。私が勇樹くんが好きっぽいことも言ったらしい。意味がわからない。私が好きなのは婚約者様だけである。あと、原作はともかくとして、今の自分が私から見て、全てをかけてもいいと思えるだけの人物なのかをもう少し考えてほしい。
ちなみに既に本家を出ている兄妹だが、割と簡単に情報を得られるので小鳥遊家の警備はザルとか言って笑ってるのやめてあげてほしい。
「そもそも、家の警備を任されていたのはお父様。他に任せたところで、どこをどうしたら入り込めるかなんて私たちは熟知しているのです。分家を侮るからですわ」
嘲るような声音がとても怖かった。
そして、勇樹くん蔑ろにしている私絶許らしい一花ちゃん。あまりにも妹に関心なさすぎる。わかってたけど。
ルンルンで帰っていった三芳ちゃんを見送って、終夜さんの胸に飛び込んだ。なんかもうずっとここに居たい。
「とりあえず殺しとく?」
「犯罪者になっちゃうと結婚できないからそこまではやめとこ……」
「僕との結婚を第一にしてくれるところ、本当に可愛いなぁ」
腕の中で震える婚約者をとても可愛らしく思うし、そうさせた連中は漏れなく消しておきたいところだ。だが、所詮は神にあらず人である身。彼女との将来を考えると小鳥遊のような愚かな真似はしてはならないと考え直す。
(正当防衛になると殺してしまっても罪には問われないんだけど……そこまでの攻撃を受けた場合に、二菜を巻き込む可能性が高いのは困ってしまうな)
二菜に何かあってもほぼ無意識の全自動で反撃が出る程度には神性が上がってしまっているので、安全面にそこまでの問題はない。それに、天才であってもあくまでも人の呪い程度であれば、もう遅れを取ることはないだろう。
終夜は婚約者の頭を優しく撫でて、安心させたところで微笑んでみせる。
昨日の到着、そして今日で全員が揃い、明日が顔合わせ。
緊張と怯えで眠りの浅い彼女を癒すのは彼の務めである。三月や楓が知ると烈火の如く怒るだろうが、そういう時は隣で抱きしめて優しく声掛けをすると二菜は安心したように眠る。
まだ彼女の身体を暴くつもりはないし、愛しい人の信頼を裏切るつもりはない。しかし、それはそれとして早く結婚して色々許されるようになりたいな、と思う程度には彼は普通の男の子だったりする。
二十歳までは最低でも待つように言われているけれど。
「すみません。私もしっかりしなきゃいけないのに」
「僕の前でだけは等身大の君でいいんだよ」
彼女は意外と子どもっぽいのだ。急いでことを仕損じるよりも、もっともっと自分に対して気持ちを傾けて欲しかった。
早く、大人になりたい。
早く、力が欲しい。
早く、君の心を得たい。
誰よりも。
(誰よりも、君だけが欲しい)
跪いて、首を垂れて、手に入るものならばいくらでも。大切なたった一人のためであれば、何だって勝ち取ってみせる。
「……ありがとうございます」
ふわり、笑う彼女。
その額にそっと口付けて、彼女の手を引いた。




