40.冬休みです
クリスマスパーティーのお片付けを終わらせた後は終夜さんと一緒に花守のお家に戻る。
終夜さん、なんというかしばらくお家には帰せないらしい。私の補佐に関わることの教育とかがあるらしいので。
流石に年末年始にご家族に会わせられないの申し訳ないので、ごめんなさいしといた。きょとんとした後、「別に構わないよ。親を求めて泣くような年齢でもないしね」と苦笑していた。
年末はお父さんとお母さんと三月くんが来てくれたので、祖父母と終夜さんとで年越しをした。三月くんがいつのまにか終夜さんを「お義兄さん」と呼んでいたんだけど何かあったのかな。
勇樹くんには「ねぇ」「そこの」「おい」とか言ってたのでもしかしたら勇樹くんってば私になんらかの危害を尚且つ加えようとしていたのかもしれない。じゃないとこの割と過保護の頼りになる弟があそこまで嫌うものかな。単純に生理的に嫌いなだけかもしれないけど。今までの恨みつらみが大き過ぎる。
勇樹くんを知らない間に追い払っていることで三月くんの信頼を得ている気がしてきた。
みんなが談笑している中、そっと部屋を離れると、追いかけてきてくれた終夜さんが彼のカーディガンを肩にかけてくれた。
そういえば、私はきっかけがあって恋に落ちて、割と重い女になってるんだけど、終夜さんなんで私のこと好きなんだろう。ふとそんな事に思い至る。
……聞いても良いものなんだろうか?
「どうしたんだい?」
そう問われて、曖昧に笑った。だって、今更あなたに好かれる理由が分かりませんとか失礼すぎない?
言えない。絶対言えない。だって明らかに好かれている。
むしろたまに何かやってる終夜さんのハイライトの消えた瞳とゴミのようなものを見る目はなかなか怖いのですがそれほとんど私関連のなにかの処理だって知ってるし……。
『なにか』は知らない方がいいらしい。報告に来てくれた人が言ってた。
「気になる事や聞きたいことがあったらすぐに言ってほしいな。すれ違いは悲しいよ」
「えっ、大丈夫です大丈夫です!なんでかわからないけどきっちり好かれてるのはなんとなくわかります」
「なんでって……考えたことがなかったな。
君の柔らかな髪が好き。君の優しい瞳が好き。君の可愛い唇が好き。
君が僕を見つけた時の笑顔が好き。僕を呼ぶ声が好き。
僕のはそういうものの積み重ねで、君を好きになったし、愛しいと思うよ。
……まぁ、気づいたきっかけは君が死んでしまうかもしれない、と恐ろしく思った時なんだけどね」
髪に、瞼に、唇に、頬に。触れながら愛しげに言われたそれに頬が染まるのがわかった。きっと今の私はとても情けない顔をしているだろう。
「君は?君が好きなのは、今でも僕の顔だけかい?」
「それは……」
終夜さんが頬に当てた手の上に自分の手を重ねた。
「あなたの愛しいと伝えてくる瞳が好き。優しい手が好き。私のために、祈るように名前を呼んで、引き戻してくれたあなたが好きです」
焦がれるような恋情は、私もいつからだったのだろうか。
ふと、彼を見ると見たこともないくらい真っ赤になって少し狼狽えているように見える。
「君に、好きな人に好意を伝えられるだけでこんなに動揺するなんて、僕もまだまだだね」
「私だけドキドキさせられるのも癪です。たまにはあなたも動揺してください」
「僕だって、二菜と会うだけで嬉しくて舞い上がってしまうんだ。君が知らないだけだよ」
ふふ、と笑った彼と目線が合い、二人の距離が縮まる…かと思った。
「二菜ちゃん、そろそろ寝ないと明日に障るよ!」
ひょっこり顔を出した三月くんにそう言われる。「タイミングを計られていた気がする…」と残念そうに呟いた声が少し耳に残った。
「うん、わかった」
返事を返してから、終夜さんに向き直り、名前を呼んだ。振り返った彼に少し背伸びをする。
こういうのは、度胸です!
ちゅ、と頬に唇を当てて、「おやすみなさい!」と言って逃げた。
「僕の婚約者、可愛すぎない?」
真っ赤になって顔を覆う婚約者を見ないままに。




