39.パーティーに出席しました
どこ見てるの、と終夜さんの袖を引くと何故だか尋常じゃなく嬉しそうな顔をされてしまって戸惑う。何故。
むしろちょっと不服そうな顔をしてしまった自覚はあるのに。
拘束が過ぎる女は嫌われるってわかってるんだけどね。
何度かダンスに誘われたりしたが、全部終夜さんが断っていた。まぁ、私も終夜さん以外の手を取ろうとは思えないのでいっかな。あとダンスそんなに得意じゃないし。こういうセレブな空間にあまりくる機会ってないしね。
ちなみに終夜さんに寄ってくる女子には威嚇し…たい気持ちはあるけどしてないです。
「ごめんね。僕は身も心も彼女のものだから」
いやもう本当にごめんなさい。この人最近誘いかけてくる女性にはみんなこの対応なんですよ。
キッと睨んでくるお嬢さんもいるのだけど、この人私の婚約者様なのでそっちが悪いです。
「いっそ、手袋外したらどうですか?」
「いいのかい?」
「そ…その、私の正式な将来のパートナーって、わかりますし」
強い権力を与える指輪だけど、それなりに制約もある。ただの指輪でなく、神具…アーティファクト…そのように言われる代物なのだ。
奪えないし、私以外外せないし、機能は色々あるらしいけれど、究極の浮気防止アイテムでもあるっておじいちゃんが言ってた。おばあちゃんは「まぁ、浮気なんてしませんけどねぇ」と言っていたし、終夜さんは「元々二菜以外には興味がないしねぇ」と言っていた。
「今日はそういう場だし構わないか」
そう言って指輪がはまった左手が晒される。途端にみんながサッと左右に避ける。モーセか……?
「お手をどうぞ、僕の姫君」
「姫って……じゃあ、よろしくお願いします。私の王子様」
そう言うと、瞳を見開いた終夜さんだけど、すぐに愛しそうに目を細める。
素直にちゃんと気持ちを伝えた時とかのこの愛しくてたまらない、みたいな眼差しが好き過ぎるんだよなぁ。
一曲だけワルツを踊って、テラスに出ると、生徒会メンバー+優奈+月岡弟主従がいた。
「お前らは砂糖と蜂蜜と素敵な何かででもできているのか?」
「砂糖を蜂蜜に漬け込んでチョコレートでもかけているんですか?」
「うへぇ…流石にジャリジャリしそう」
「あら、穂積は私にそれくらい愛を囁いてくれてもいいのよ」
上から月岡弟、月岡兄、穂積くん、優奈である。月岡兄弟やっぱり発想が似ている気がしている。実は仲良しでは?
それと穂積くんはすでにタジタジだ。負けるな。
「婚約者がそうして何か悪いのかい?」
不思議そうにそう言う終夜さんに、日上先輩が呆れたように「京月の娘にはやらんかっただろうが」と告げる。
「こういうのは気持ちが通じ合ってこそじゃないのかい?彼女とはそういうことが全くなかったし」
「だが、それはそれとして指輪は早すぎやしないか?」
おじいちゃんにも「最速では?」と言われたので目を逸らした。なんとなく、さっさと渡しておくべきだと思ったのだ。
あの日一花ちゃんたちに会ってしまったことを考えると正解だった。勘もたまにはいい働きをする。月岡くんの「婚約者と絆を深めておくと良い」という占い結果もあったし。
……追い払っても勇樹くんがちょいちょいきて「(家庭内某黒の悪魔的な虫)かな」と呟いているのを聞いてしまった。ゴ…扱いは可哀想……でもないな。もう来ないで欲しい。
私よりも花守の家の人が「千住勇樹死すべし」みたいな雰囲気を出している。私もアイツらを自分がいる環境から消したくはあるけども、実際にどうこうするのって難易度高いんだよねぇ。
私これから先の未来…いや、私が私である以上、最初から未来なんてわからないけど、原作の内容知らないんだよね。私、主人公が「俺たちの勝ちだ!」って対抗戦で優勝したとこまでしか読んでないから。
その辺りが出たところで死にました。今回は長生きがしたい。
それはともかく、周りの怒りの感じがすごくて当事者の私が「まぁまぁ落ち着いて……」しちゃうのは割と昔からである。怒るのはもう少し私にやらせてほしいし、限度超えると止めてほしい。犯罪者にはなりたくないし、周囲を犯罪者にはしたくないので。
その犯罪者片足突っ込んでるやつに家族だった人と幼馴染みだった人がいるのがキツいんだけど。
そんなことを考えていると瞳からハイライトが消えそうな気がするので、軽く頭を振って意識を切り替えた。
せっかくのパーティーだしね。片付けのことは今は考えたくないでござる。料理とかは雇った人が片付けてくれるけど残りは生徒会でのお仕事なので。
魔法があるからこその労働である。
「二菜、これ美味しいよ」
「人前でそれをするな、終夜」
フォークを差し出そうとした終夜さんの頭にゴンと拳が落ちた。少し重めの音がした。
たぶん、なんか色々やりすぎなんだと思う。私も悪いかもしれない。お願いの顔に弱過ぎる。顔が良過ぎるのである。
それを見て笑うみんな。
「二菜、愛されてるわよね」
「優奈も『婿に入るから結婚を前提に付き合ってほしい』とか膝をついて告白されたって聞いてるけど」
「誰よ、もらしたの!?」
真っ赤な顔で恥ずかしそうに怒っている優奈は可愛い。ついでにこの手の噂なんてすぐに回る。花守の家の人たち、隠密とかの家ではないのに目立たずに研究したすぎて苗字を隠してもらった上で散り散りにそこらにいるから余計に私の元に情報がくる。
……私と関わりが深い時点でそうなってるの誠に申し訳ない。
「藍川の家のこともあるし、大丈夫なのかしらって思ったけど、なんとかお義姉様の矯正と婚約者の決定とあちらの結婚の予定を立てられそう。穂積の手腕にはお父様も満足しているし、いけそうよ」
「矯正って何」
えっ、聞いてないなそれは。
「初恋が割と無惨に砕け散って引きこもりになりそうなのを、外に引きずり出して、マナーの詰め込み教育をし、終わったら部屋でキノコ生やしそうな姉にひたすら勉強を詰め込み、若干髪が伸びた頃に似合うであろう今まで着てなかった女性らしい服を大量に贈り、気分が上がって来た頃に少し歳上の頼りがいがあって腕っ節の強そうなそこそこの家格の男と見合いをさせればうまくいった。と、穂積は言っていたけど、実際もっとやり方はエグかったのだろうな、という予想はしているわ」
失恋の弱みにつけ込んだ計画だったらしいが、割と上手いこといってるらしい。相手が宮藤くんとこの5つ上のお兄さんだという。え、マジ?宮藤くんを思わず見ると苦笑していた。
後日の報告では。
宮藤くんの家は三男の宮藤くんが継ぐらしいが、理由が月岡系らしい理由だった。後継の護衛を務める者が次期当主なんだそう。
なので長男がちょうど空いていて、彼はそれなりに頭も良かった。藍川父との面識もあり、ガタイの良さと顔の怖さから見合い等断られることも多かったためまだ相手がおらず、怯えはしないけど、どこか不安そうに自分を見る年下の女の子にうっかり惚れてしまったらしい。
藍川父は「本当に統子で良いのか?大丈夫か?」と今までの報告書も交えつつ聞いたそうだが、そのまま婚約者に収まったらしい。
なお、留年は止められなかったが、彼女自身の希望で転校をして勉強をやり直すとのことである。戒律の厳しいところを自分で選んで、進み出した娘に思うところがあるのか、藍川父は許可をしたらしい。
愚かに育てたかった藍川家の他大勢は反対を最後までしていたそうだが、自分の恋に妥協しない藍川穂積は容赦がなかった。祖父母含む親族をあらゆる手で追い出したり黙らせたりしたらしい。
藍川の祖父母がいなくなったことで両親の仲がちょっと戻り、今めちゃくちゃ落ち着いたとのことだ。むしろそこまでやれるならなんで今まで放っておいたのさ。
その報告を聞く前の私は、とりあえずそっか、と頷いた。なんか、近々改めて今までのお詫びに伺いたいと手紙も預かったが、前に家に来た時より字が綺麗になっていた。
「私は穂積という優秀かつ私のことが大好きな男と家の事業を継ぎ、幸せになる未来を掴んだわ」
「いやまだこれからだろ。優奈お前どんだけ俺のハードル上げるんだ」
「私と共に生きる以上慢心は許さなくってよ!」
私もあなたを幸せにしてあげてよ!という優奈、凛々し過ぎる。かっこよくない?
私もこの路線進むか?
「二菜。君はそのままで十分素敵だよ」
ちょっと戸惑った顔をした終夜さんは尊かった。




