3.身の周りが割と物騒な気がします
私は負け確定の準ヒロインとして原作で登場する人間なのだけれど、姉に負けているのは恋愛だけではなかったりする。
魔法、人望、勉強、運動。
あらゆるもので二菜は一花に敵わなかった。
第三者目線で考えると比べるやつはアホである。
見た魔法を感覚で理解してそれ以上にしたり、1を聞いて100を知る天才。
コツコツと自分の能力を上げようと努力を糧とする秀才。
それらはまた別の才能だろうと思う。
なので私ができることといえば能力差を認めた上で、姉をただの一つだけ年齢が上の女の子として接するしかない。
姉に勉強のことを聞いてはいけない。だって頭のめちゃくちゃいい人の感覚と普通の子の感覚は違うからね!聞いても難しい言葉で説明されて「なんで分かんないんだろう?」と不思議そうな顔をされてしまう。
実際、母方の祖父母にもらった魔法理論の本の分かんないとこを聞いたらそんな感じだった。お父さんはうんうんと頷いていたが、お母さんは呆れた顔をして説明し直してくれた。
なお、お父さんは「そこまで説明する必要があるのか?」と途中で口を挟んで、深夜にお母さんにお説教をされたらしい。朝のリビングの机に教育理論とかできる上司とはなんぞや、みたいな本が資料として残っていた。「小鳥遊のお家は感覚派型なのよね」とお母さんはぼやいていた。
その父方の実家、小鳥遊家なのだが軍事関連で有名な名家である。祖父母も元軍人で厳つめである。ちなみに彼らの関心は姉の一花ちゃんにしかない。私と三月くんはそれなりに優秀だと評価を頂いているが、「小鳥遊家」においては全くダメなヤツらなんだそうだ。感じが悪い。私はともかく、三月くんへの評価はやり直せ。
そんなわけで、彼らは天才の一花ちゃんにしか興味がない。原作二菜はよくグレなかったものだ。まぁ、両親と母方の祖父母が平等に接してくれたからだろうけど。
そんな一花ちゃんは未来の小鳥遊家の当主候補になっているらしく、一花ちゃんのことのみにめちゃくちゃ口を出す。
でも、両親はみんな平等に愛して育てる方向性で調整しているため、祖父母と衝突していた。
そんなある日、一花ちゃんが小学6年になった頃に事件は起きた。
『祖父母による孫の誘拐未遂』である。
私達姉弟と勇樹くんが一緒に下校している際に黒服のサングラスまでかけた、いかにもな連中に囲まれた。
「一花様、お祖父様とお祖母様がお待ちです」
「これ以上、才能の無駄遣いをさせるわけには参りません。早くこちらへお越しくださいませ」
小学生が大の大人に囲まれる怖さがこいつらに分かってるのだろうか。
小学生の私は、さすがに誘拐は犯罪だろうと防犯ブザーを鳴らした。すると、彼らはめちゃくちゃ普通に私を殴り飛ばして一人が防犯ブザーを止めて、他の二人が一花ちゃんを連れて行こうとした。
その際、必死に一花ちゃんを連れて逃げたのが勇樹くんである。
勇樹くんは咄嗟に一花ちゃんに詰め寄る男の大事なところに算盤をぶつけ、縄跳びで足を引っ掛けて腕を引いて逃げたのである。
ちなみに私は三月くんが救急車を呼んでくれるまで頭から血を流して倒れていた。弟さまさまである。
なお、結構ガチで殴られたらしく肩の骨がえらいことになってしまったのと頭蓋骨もえらいことになっていた。
なんで二菜は勇樹くんが好きだったんだ。
……原作二菜は殴られなかったのかもしれない。私は祖父母の名を騙る不審者かと思って秒で防犯ブザー鳴らしたけど原作二菜は鳴らさなかったのかもしれない。
勇樹くんはあからさまに一花ちゃんが好きっぽいので今後私が怪我したことは忘れるかもしれない。でも、私はおそらく放って逃げられたの忘れないと思う。まぁ、狙われてたのは一花ちゃんなので仕方ないとは思うけど、集中治療室に入ったの私だけだった。
三月くんには怪我が治るまではおやつを分けさせていただいた。小学生なお姉ちゃんにはそれくらいしかできないのだった。怪我人だし。
私が大怪我をしたことと三月くんと一花ちゃんの報告で祖父母はお父さんにガチギレされ、一花ちゃんは御当主候補から外れた。というかお父さんが絶縁突きつけて帰ってきた。
本当は豚箱?に突っ込みたかったらしいのだけど、小鳥遊の家ってば警察や軍に強い影響力があったのでもみ消されたらしい。く、腐ってやがる…!
原作では当主候補筆頭の家柄才能最高高スペックチート系幼馴染みだったんだけど……。(なお、その割にはたまにピンチに陥って良い感じに勇樹くんに助けられたりもする。ご都合主義万歳である)
この件を機会に、我が小鳥遊家はお父さんの職場近くに引っ越すことになる。これは原作でも一花ちゃんの口から「中学受験の前に引越しをした」と明言されていた。
引越しの日、まだ怪我が治りきってはいないので三月くん監視の元、邪魔にならないところで座っていた。
……そこはお庭がよく見える部屋だったので、原作イベントが丸見えだった。
「オレは一花が好きだ!次にあったら結婚してくれ!!」
「私も……」
部屋から丸見えだったが気付かず可愛らしいファーストキスの瞬間まで目撃してしまった。
「僕はあの二人好きじゃないけどね」
「いつにも増して厳しい」
「いや、普通さぁ……妹だよ?怪我した二菜ちゃんのことは庇うべきでしょ。逃げたんだよ、二人で!サイッアク」
「狙われてたのは一花ちゃんだしね。まぁ複雑だけども」
「それは分かるけど……二菜ちゃんを犠牲にするような人たち、僕は好きじゃない」
あの日から私に対して結構な過保護になってしまった弟が窓の外にいる二人を見る目は大変厳しい。
怪我した私を見て、大泣きした一花ちゃんを責める気にもなれなかったし、正直悪いのはマジで実際に一花ちゃん以外痛めつけてもいいから拐ってこい的な命令をしていたらしい小鳥遊の祖父母なので恨みはしていないけど。