表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化】転生したらラノベヒロインの妹だったので推しの顔を見にライバル校へ行きます。  作者: 雪菊
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/61

38.婚約者に勝てません





最近、膝に乗せたり、デザートをあーんしたりといった行動が終夜さんの趣味らしい。慣れた。慣れてしまった。

痛いわけでもなければ辛いわけでもないので「どうしてもダメかい?」と悲しげな顔をされるたびに許してきた結果である。

あんな顔の良い男にそう言われて断れるような心を持っていなかった。そもそも好きな男に甘やかされる体験が甘美過ぎて癖になりつつある。特に「おいで」の一言は膝から崩れ落ちるレベルの必殺技である。勝てるわけがない。


ちなみに朝の日課のジョギングも一緒にくるし、中間試験前と期末試験前の勉強はつきっきりで教えてくれた。なお、そのおかげで期末試験で4教科一位を達成したし、本人は全教科満点を叩き出していたのでマイナスにはなっていない。


こういう時って大概堕落するものだと思っていたけど、終夜さんの存在がご褒美すぎてサボる気おきなかった。褒められると伸びるタイプなのかもしれない。


そう、2学期の期末テストもう終わっちゃったんだよね。

おかげさまですでに夫婦扱いである。冷やかされても「妻が愛しすぎて溢れ出る気持ちを抑えきれないんだ」とあっさり認める発言をかますおかげで夫婦扱いが加速している。もう誰も何も言わないでくれ。ダメージくらうの私の精神だけだから。

……嬉しいけども!!


そして、クリスマスのパーティーの準備に死ぬほど忙しい数日を過ごした。

ちなみに、どこかから聞きつけた楓さんが「当家がパーティーで完璧なお嬢様をお出しするために出せる金額です。これでなんとか片がつきませんか」とか言い出して、日上先輩に「学生のパーティーに大人が本気を出さないでください」と跳ね除けられた。お母さんに聞いたところ、「楓は私が学生の時もお金で労力を買おうとしていたわ」と言っていた。こういうのはプロを雇うのが一番だとの事だ。それは私も思うけど、学生の行事というものはそういうもんじゃないのである。


そして当日の私に上品な刺繍のシルバーのドレスにアイスブルーダイヤのアクセサリーを贈ってくる婚約者殿、本気度が凄すぎる。

いくらかかったかちょっとわかんない。高校生なので。上流階級っぽい生活でもなかったので。これが上流階級の金銭感覚なのかな?何もわからない。いいとこの家って婚約者用の経費が出たりするらしいしなぁ。



「世界で一番綺麗だよ」


「流石に言い過ぎですね」


「僕の世界では一番だよ」


「それはその、よかった……です」



それは、嬉しい。誰の一番でもなく、この人の一番であればそれで嬉しい。

うう、我ながらチョロい。チョロすぎるけど好きだから仕方ないんだよなぁ。













自分が贈ったドレスとアクセサリーを身に纏い、頬を染める婚約者を満足そうに見つめる終夜。

ここ最近の彼女を見ていると、「あ、僕これ愛されているな」と気づいて余計に愛しく思う。

彼は好きな女の子に対して割とポンコツだった。いつの間にか二菜しか見えていない。


元々、八神終夜は八神家の次男ではあったが、忌み子と呼ばれる少年であった。

八百万の神と通ずる神降しの力を持った一族で、その力の証明は射干玉のような黒髪と、黒曜のような瞳である。銀の髪とアイスブルーの瞳を持って生まれた時点で家としては用無しだった。

それはそれで利用価値があったため、冷遇こそされなかったが。


母親は自分を見ると嘆くばかりで、父親は自分を婿にやる相手を早々に見つけてきた。独断で婚約破棄をするような女ではあったけれど、賠償として得たものは大きい。


その後も選定をしていたようだが、今回の花守との婚約は、家の者としても相当大きなものであったらしい。

自分と替われという一族のものもいたし、花守へそれを進言するものもあったそうだが「次期当主が望むのはその家の者ではなく、八神終夜である」と追い返されている。終夜が望まれたのは、二菜に信頼されているという下地あってのもので、二菜が選んだわけではないので嘘も方便である。

実際、二菜に選ばせても候補の中から終夜を選んだだろうが。


好意を伝えた時に初めて「私も、です」と返してきた時の衝撃は、終夜にとって凄まじいものだった。可愛い後輩がより可愛く、美しく、輝いて見える。

恋とは人を変えるものだというのは本当なのだろう。


衝動的に行動してしまいそうになって、咄嗟にそんな自分を止めた。理性が働かなければ大変なことになっていただろう。

彼女の保護者には成人するまでそういう行為は無しにしてねと釘を刺されている。それは単に「10代の時期に子どもできちゃうと健康問題が出る可能性があるから止めとこうね」という身も蓋もない理由である。

すでに婚約者の身の安全第一の彼は素直に頷いた。


終夜の婚約者は警戒心はそれなりだが、良くも悪くも懐まで入って仕舞えばあとはその人物に対して甘かった。だからこそ、より自分が守らないとと思ってしまうのだ。

そんなだから、姉の一花などがつけ上がるのだ。何があっても終夜は一花を許すことはない。


婚約者として内定した翌週に呼び出されたかと思ったら、左の薬指に指輪をはめられ、その正体が花守の次期当主の伴侶の証だった時は流石の終夜も驚いた。

終夜も流石に叱った。本人はケロッと「一番信頼するあなたへ」などと言ってきたが。


だが、その指輪のおかげで下心を持って二菜に近づく男や危害を加えようとする人間を彼の権限で排除できているので重宝はしている。実際、「そんな権利がお前にあるのか?」と聞かれた際に、彼女に指輪をもらっていなければそんな権利は発生していなかった。


ただ、見せびらかすようにつけていると思われては二菜に何か言いに行く人間が出るかもしれないので手袋をしている。あと、手のひらを返して「花守の婚約者の座をよこせ」と突っ込んでくる人間を炙り出しやすい。

手袋を見て二菜が「ハーフパームグローブ!」と少し興奮していたが彼女は割とニッチな性癖があるのかもしれない。彼は笑っておいた。

その笑顔にだって終夜の顔が好きな二菜は喜ぶ。

彼にとっては「彼女の好みなのであれば、なんでも良いかな」くらいの気持ちである。


二菜は最近、表情がとても柔らかくなった。特に終夜を見つけた時の嬉しそうな顔は格別である。

それを知っているから彼はクラスメイトに「嫉妬して欲しいとかは思わないの?」と聞かれた時に「そんな顔をさせるくらいなら溺れるくらいに愛を囁いていつも笑顔を見せて欲しい。僕以外に視線を向けたくないから嫉妬も別に必要ない」と答えている。

なお、その答えのせいで「八神終夜ヤンデレ疑惑」が浮上しているのは別の話である。


会場に二菜をエスコートして入ると、悔しそうな顔をする人間がちらほら見受けられる。

その中には、かつては一花と比べて二菜を嘲笑っていた人間も混じっているのだから手に負えない。

袖を引っ張る感覚に、そちらを向くと、少し不服そうな顔で自分を見る二菜。


一度彼女に視線を向けると、彼には彼女しか見えなくなってしまう。


花守の手の者に合図をして、彼女の手を引く。

溺れているのは、どちらなのだろうか。














その頃、千住勇樹は焦っていた。

四家顔合わせの際に、彼は当主に一花との仲を認めさせる為に戦うという場面があった。その時の彼を助けるはずのものが、彼の元にはない。



(二菜が大好きな俺のために、俺の魔道具を作っていて、その剣に秘められたあいつの恋心が次の覚醒への鍵になるはずなのに!)



すでに一花が当主を手にかけていることなど彼は知らない。

あるはずの力が自分にないことに焦りを感じる一方だった。


二菜は勇樹を慕うどころか恐れているし、八神終夜は対抗戦編におけるライバルキャラの一人で二菜とは交流がなかったはずなのに、婚約者などという立ち位置にいる。



(まさかあいつ、俺と同じなのか?二菜が推しの転生者で死ぬのを知っているから保護をした、と考えると筋は通る)



しばらく見なかった幼馴染みの妹の方は、遠くからやっと見られた程度だったが、随分と華やかに美しくなってきていた。

しかも四家の次期当主である。そうなると知っていたらもっと早くからそばに置いて可愛がってやったのに、と勇樹は顔を歪めた。


一花は重いし、結女は都合はいいが将来性がない。統子は少し女の子扱いをしてあげればよかっただけだから扱いやすかったが最近姿を見ない。


実際は二菜が転生者で、自分が死ぬ運命だったとはつゆ知らずに婚約者に恋をしているだけなのだけれど、勘違いはちょっとしたすれ違いから起こるものだし、訂正できる者はいない。


ただ、彼の中の幼かった少年だけが大好きだった少女の悲しい夢を見て泣いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ